第16話 寄り道しよう 1

 「けーりっとしゃん?(ケーリット山?)」

 「そうなんですよ!昨日の夜また魔導エクレシア辞典が動いたんです!今回【先見】も働きましてね!なんと今後に必要だと強く訴えて来たんです!」


 あ、皆さんおはようございます。現在モグモグと朝食をリビングで食べる私に、興奮気味のグラレスさんが説明しているの。勿論みんな一緒に食べているわよ。バージさん達は鍛錬後だけどね。


 で、昨日の夜も魔導エクレシア辞典を読んでいたグラレスさん。すると例の如く勝手にページが開いたそうなの。因みに私は寝てたから知らないのは私だけ。昨日の夜の時点で、寄り道する事に決まったのを今報告受けているってわけなの。


 「場所もどうやら少し外れるだけみたいですし、途中まで魔導ハイヤーで、山に入ったらバイクに乗って移動しましょう。私が先導します」


 ドンッと胸を叩いて「任せて下さい」と頼もしいグラレスさん。どうやら感覚が冴えてきて、行くべき方向がわかる様になったそうなの。グラレスさん昨日一日中、辞典読んでいたものね。


 それを聞いて俄然やる気になったのは、今日魔導エクレシア辞典優先権を持つカエラさん。「移動中ずっとみてるわ」って辞典抱きしめているのよ。確かカエラさんは【射撃】だったわよね。どう変わるのか楽しみね。


 ゆっくり目の朝食が済み(あ、ウィルもしっかり食べてたわよ)、それぞれ支度を整えてテントを収納。さて出発!って気合いを入れたんだけど……

 

 「……しょうでした。わちゃしこりぇでした(そうでした。私これでした)……」


 バージさんの背中、おんぶ紐に固定されて魔導バイクで降りる山道。相も変わらずバージさん似合わないのよ。笑いを耐えながら降りる赤獅子メンバー。笑ってないのは「可愛いわよ」とフォローしてくれていたシャルさんと、ニコニコ顔のグラレスさんくらいかしら。


 しばらく行くとようやく広い街道に出たから、すぐに魔導ハイヤーに乗り換えたわ。でもアレに慣れないといけないわね。だって魔導ハイヤーに乗ったのは、私とグラレスさん、シャルさん、カエラさんの四人だけ。他の四人は魔導バイクで先導したり、警戒に向かったりしているんだけどね。


 「これが有れば、これから俺らハイヤー乗らなくて良いな!」

 「確かに、ただ寝ているより良いな」


 ダンさんは乗っているだけがつまらないみたい。バージさんもそれに同意してたわね。


 「俺はどっちでも良いがな」

 「ルインはそうよね。私も魔導エクレシア辞典の優先権のある日以外はこれが良いわ」


 まあ、ルインさんはタクと魔導具談義できるから良いとして、意外にエレンさんもバイクが気に入ったみたいね。流石冒険者ってところかしら。まぁ、みんながこんな感じだから、私もあの姿に慣れないと行けないってわけ。仕方ないわね。


 そして現在ハイヤーの中での様子はこんな感じ。


 「ヒューイ!ヒューイ!」

 「良い子ねぇ、ウィルちゃん。はーい、ゆっくり噛んで食べるのよ」

 「シャル、次は私ですよ」


 ハイヤーの中ではトテトテ歩くウィル。しかもご飯しっかり食べたのに、いつの間にかウィル用オヤツを用意していたシャルさんの膝の上でまた食べているのよね。グラレスさんまでおやつ用意してるし。その後部座席に座るカエラさんは熱心に魔導エクレシア辞典を熟読中。え?私はって?


 「なーにがいいでしょねー♪」


 一人でゆっくり魔導具ショップサイトを開いてじっくり〈雑貨魔導具〉を見ているの。だってセレクトショップみたいに結構色んな物があるのよ!って思っていたら急に画面が変わって、お勧め魔導具が出てきたの。


 貴方にお勧め!

 魔導リア・ウォッチ MP100,000

 ***多用途に使える物をお探しですか?耐水、耐熱、耐魔法、通話機能の標準装備は勿論、ウェルネス装置(ステータス、スキルの上昇傾向がわかる機能)、GPS・魔物鑑定・感知機能搭載ジャイロスコープ(半径100m以内)、エクレシア・ナビゲーション、高出力結界ドーム機能(物理衝撃、魔法衝撃無効)搭載!勿論魔素充填型です!今なら魔導リア・ウォッチ専用ベルトもついてこのお値段!オーナーが身に着けるとこの機能が魔導ブレスレットに追加されます!さあ、仲間と移動手段が違う今、安全性を高めるこの魔導リア・ウォッチを是非お買い求め下さい!***


 「おおー‼︎」


 思わず叫んじゃったわ。すると興味を示す車内メンバー。なんとか説明するとね……


 「おお!素晴らしいですな!……ですが、ユイさんにそれ相応の品をお渡しできるのかが現状問題ですね」

 「そうねぇ。ユイちゃんお金あっても使い道そんなにないだろうし」

 「あら、でもユイに現金あってもいいと思うわよ。いつ必要な時があるかわからないし」


 すぐにこの魔導具の素晴らしさを理解するグラレスさんに、私が渡すと言っても頷かないシャルさん。やはり同じく私からタダで受け取ろうとしないカエラさん。全員の意見がまとまったのは、ローン払いしていくという事。必要性は今すぐにでも感じるからだって。やっぱり旅って何があるかわからないものね。


 私は別にお金要らないのになぁ……って考えていたら、休憩時間に他のメンバーにね「それなら断固拒否」って声を揃えて言われちゃった。みんなの意見は一緒。


 「ユイ、色々考えてくれるのは嬉しいぞ。だけどな、俺らだってお前の役に立ちたいんだ。スキルの力の差は歴然かもしれないが、お前と対等な仲間でありたいからな。これがみんなの想いさ」


 バージさんが私を抱き上げながらメンバーの想いを話してくれたわ。確かにそうね。私だって守られてばかりは嫌だし、そんな私を尊重してくれているから気楽なのよね。とは言え……


 「これはなんて素晴らしいんだ!ふむ、扱い方は……?」


 しっかりローン払い確約させられて、魔導リア・ウォッチを渡した途端にテンションアップのルインさん。みんなもやっぱり嬉しそう。うん、新しい道具が手に入るってウキウキするものね。


 それで基本動作を覚える為に、長めの休憩を取ったのよ。でもあっと言う間に使いこなしたルインさんのおかげで、みんなもすぐに覚えたの。一時間くらいで全員が使いこなせる様になったから、また目的地を目指す為に移動する事にしたのよ。……魔導バイクで。


 「こりぇはかいてきでしゅね!」

 「ヘルメット要らずは有り難いな」


 相変わらずおんぶ紐に固定されているけど、魔導リア・ウォッチの結界ドームを出しながら移動が出来るおかげで、バイクの運転のし易さが向上したの。だから山道に入ってもかなり距離を稼ぐ事ができたのよね。


 『そろそろ目的地に着きますよ』

 

 グラレスさんからの到着連絡に、全員が魔導通信で了承の応答をしたの。そして着いた場所は崖にぽっかり空いた洞窟の前。


 「ここなんでしゅか?」

 「ええ、私の【先見】が間違いないと言っています」


 おんぶ紐を外した私を抱っこしたバージさんの隣で、グラレスさんが断言したの。それを聞いて結界ドームを使用したまま、洞窟の中に入って行く私達。


 薄青く光る壁によってライトが要らない洞窟内部。真ん中にバージさんに抱えられた私とグラレスさん、シャルさんを配置して、前後を赤獅子メンバーが警戒する陣形で洞窟の中を進んでいったわ。


 「これは……」

 「綺麗……」


 しばらく歩いていくと、目の前が広がり青白く光る大型ドームの様な広場に着いたのよ。みんなが辺りを見渡していると、後ろに居たカエラさんが「キャッ」と叫び声を上げたの。振り返って見ると宙に浮きながらページを開く魔導エクレシア辞典があったわ。開かれたページには……


 [魔鉱石]

 魔導具を作る上で基盤となる石。高純度の魔素を蓄え、薄青く光を発するのが特徴。ポータルスポットの発生しやすい場所。この中で発生したポータルスポットでエターナル魔石が入手可能。入手後洞窟はただの洞窟となる。


 [エターナル魔石]

 魔導具ショップサイト経由で出した魔導具のバージョンアップに必要な魔石。

 

 全員がこれを読んで顔を見合わせて、すぐに動き出したわ。宙に浮いていた魔導エクレシア辞典も閉じて、カエラさんが運んでいるみたいね。

 

 洞窟の中央に近づくと、今度は魔導リア・ウォッチのジャイロスコープが作動したの。


 〈ジャラズリザード〉

 高純度の魔鉱石により強化された巨大トカゲ。魔法攻撃に強い鱗を持ち、口から風魔法を放つ。体長8m。弱点は眉間。


 「ポータルスポット内部にいるぞ!」


 ダンさんの声で陣形を整える赤獅子メンバー。するとポータルスポット内から頭を出して来たジャラズリザード。うわぁ、デカい頭……!私が唖然としていると……

一点突破トフェキア!」

 すぐにシャルさんに魔導エクレシア辞典を託したカエラさんが、弓で攻撃。風を切り裂く音を立てて吸い込まれる様にジャラズリザードの右目に弓矢が突き刺さったわ。


 「ギャオオオオ!」

 「くっ!」

 「十分だ!」


 ジャラズリザードの叫び声が上がり、それでも悔しがるカエラさん。すかさずジャラズリザードに向かって飛び出したダンさんに、カマイタチの様な風魔法を放つジャラズリザードの攻撃が襲いかかったの。


 「効かねえよ!」


 結界ドームを利用して風魔法を打ち消しながら、高速で進むダンさん。長い尻尾で反撃に出たジャラズリザードを

雷撃グローム!」

 でフォローに入ったエレンさん。魔法は弾かれはしたものの、尻尾の動きを止めたエレンさんにジャラズリザードが照準を合わせたのよ。

「動くな。岩杭ロックパイル

 すかさずルインさんがエレンさんのフォローに入り、ジャラズリザードの胴体の下から突き出る岩状の杭。「グギャアア!」叫び声を上げながらもジャラズリザードはその場に繋ぎ止められたわ。


 「ナイス!ルイン!」


 暴れるジャラズリザードの顔めがけて飛び出したダンさん。

切断スネイデン‼︎」

呪文を唱えたダンさんの光る剣が見事にジャラズリザードの眉間を捉えたの。そして断末魔を上げてジャラズリザードが倒れたわ。……凄い!


 「っし!こんなもんか」

 「ダン、お疲れ」

 「ルインもな」

 「カエラ!威力上がっていたわね!」

 「そうなの!威力が上がっていて外しちゃったけど、今度は決めてみせるわ!」

 

 あっという間に倒した赤獅子メンバー。戦闘後メンバー同士和やかに讃えあっていたけど、私はポカーンとしていたの。「ユイ、口開いてるぞ」と笑いながら私の口を閉じるバージさん。だって初めて赤獅子の戦闘場面を見たのよ!


 「みんなしゅごいでしゅ!」


 バージさんの腕の中ではしゃぐ私に、サムズアップをする赤獅子メンバー達。グラレスさんやシャルさんは笑顔でその様子を見ていたわ。赤獅子メンバーを心から信頼していたのね。


 一通りはしゃいだ私は、アイテムボックスにジャラズリザードを収納してバージさんの顔を見た私。バージさんなんとも言えない顔をしてたのよ。理由聞いたら「俺だってあのくらい……」って言っていたの。勿論バージさんの腕は信頼してるわ。むしろ私の安全を最優先させてくれたんだもん。

 「ばーじしゃん、ありがとうでしゅ!」

 私が感謝を目一杯すると機嫌が直ったバージさん、その様子にみんなが笑っていたわね。


 うん、雰囲気も戻ったし、エターナル魔石入手するわよ!

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