第19話 クウィラの街へ行こう
「ねえ、ルーの新作なんだと思う?」
「ふふっ「王宮のレシピ」の話ですわね。これで料理長に認められるとまずは賄いで振る舞われる様になるんですものね」
「やっぱり王都の名物クアイは外せないわ。アレは安価な食材でありながら栄養価も高いもの」
朝の食卓では、カエラさんがエレンさんに王宮のレシピの話を持ちかけているのよ。シャルさんも当然話に加わって盛り上がっているわ。そして……
「あの取り巻き達の陰謀は何処で出るんだろうな」
「なかなか強かですよ。足がつかないようにするんですから」
「どこにでもいるんだな。ああいう輩は」
観点は違うけど、ダンさんやグラレスさんが話しているのも王宮のレシピの内容なの。ルインさんも今日の行動予定地クウィラの周辺地図を出しながら話に加わるぐらい関心が高いのよね。
「だが、影で第三王子の側近が聞いていたのも気になるな」
あ、バージさんもだわ。やっぱりドラマって面白いものは男女ハマるのよね。見る観点は変わるけど。だから話聞いていて面白いんだけどね、とみんなの話を聞きながらモキュモキュご飯を食べている私。ふと、TVに目をやると……あれ?TVに映っているのってクウィラの街よね?何かしらあの緑の点?
「ばーじしゃん、ばーじしゃん。あのみどりのてんってなんでしゅか?」
私の質問を聞いてみんながTVの方に顔をむけたら、緑の点に矢印がついてポータルスポットって表示されたの。街中にあるし、ギルドが受け持っている場所かしらって単純に思っていたらね……
「まずいですよ!街中にポータルスポットがあれば、魔物を誘き寄せてしまう!」
「グラレスさん、ギルドに知らせましょう!」
「ダン!でも魔導エクレシア辞典の事は言えないわよ!」
「カエラさん、大丈夫です。私の【先見】の事をここの商業ギルド長は知っています。私が上手く話しましょう」
街の事をよく知っているグラレスさんが焦って声をあげたのよ。でも騒ぎ始めたみんなに、グラレスさんがすぐ解決策を提示したのは流石だったわ。それを聞いてみんなそれぞれすぐ行動に移ったの。みんな長年一緒に動いていたからかしら。役割がしっかりしていて素早いのよ。
それで素早く朝の片付けをみんながしてくれている間、私はバージさんに手伝って貰って着替えと出かける準備。髪の毛まで整えてくれるの。私だけだと時間かかっちゃうからね。私がやるよりも綺麗にできるの、有り難いわ。
「急ぎの為、ハイヤーで行きましょう。アレは他の人には大型馬車にしか見えませんから」
準備ができてテントを収納すると、グラレスさんが提案してきたの。街まで結構あるから私は助かるし、みんなも今回はハイヤーに乗って行く事になったのよ。そしてタクにお願いしてクウィラの街に入る門に向かったんだけどね。……このハイヤー立派な馬車に見えるらしいのよ。
「おい、すげえな。あの馬車」
「何処の商人の馬車だ?」
「貴族じゃねえよな?」
ざわざわしているのが聞こえてくるのよね。並んで待っているだけだから、いい話のタネになっているみたい。でもそこは頼りになるグラレスさん。私達の順番になって、ハイヤーから出たグラレスさんを見た門番さんがね、
「これはグラレスさん!パルトール商会の馬車でしたか!いやあ、納得しました。今日も買い付けに来てくださったのですか?」
って勝手に納得してくれたの。周りも「パルトール商会か……」って不審がらずに受け入れてくれたしね。
グラレスさんのおかげでハイヤーのままスムーズに入れたクウィラの街。フェンシル程賑わっていないけれど、明るい声や屋台の呼び込み声があちこちから聞こえる活気のある街。街並みも同じ感じなんだけど、明らかに違うのは布生地の扱うお店が多い事。
「ほわあ、ぬにょのまちでしゅ(ほわあ、布の街です)」
窓にくっついて離れない私を見て、笑いながらシャルさんが更に教えてくれたわ。
「この街で作られている布は手触りが良くてね、主に下着や肌着に使われているのよ」
「ただ原料を何処から仕入れているかはわからないんですよ」
シャルさんの説明にちょっと悔しそうにいうグラレスさん。へえ、私が知らないだけで生地の種類はあったのね。でも手触りがいいってなんの種類かしら?ってその時はただそう思っていたのよね。
その後もバージさんや赤獅子のみんなからも色々教えてもらいながら、目的地の商業ギルドの馬車置き場に着いた私達。タクにはここで待っていてもらう様にお願いして、私達も一応見張りとギルド組に分かれたわ。
見張り組はシャルさん、カエラさん、ルインさん、エレンさん。ギルド組はグラレスさん、私、バージさん、ダンさんの4人ずつに分かれたの。まあ、車内では王宮のレシピの話や、ルインさんとタクの魔導談義が繰り広げられていると思うけど。
実は私が知りたかった事もあって、こっち側に入れて貰ったのよ。但し、バージさんに抱えられるっていうのが条件だけどね。まあ、それをいい事にキョロキョロしていたら、バージさんに笑われたけどね。
でも、どうやら私達の様子を見て密かにざわついていたらしいのよ。そういえば、バージさんの顔に慣れすぎて何とも思わなくなっていたけど、見た目はさらわれて来た子供とヤクザに見えるのよね。私達って。ダンさん面白がって教えてくれたもの。まあ、不思議な4人組よね、確かに。
商業ギルドの中も大体冒険者ギルドと同じだったわ。右の壁に依頼表、中央に受付、左側は待合室と階段があったの。慣れているグラレスさんは真っ直ぐ受付に進んで行って
「パルトール商店のグラレスだが、ギルド長のブラスに取り継いでもらいたい」
って受付嬢さんに話をすると、すぐに応対してくれた受付嬢さんが2階に私達を連れて行ってくれたのよ。2階の奥の部屋まで案内をしてくれた受付嬢さん。扉をノックして報告していたわ。
「ギルド長、パルトール商会のグラレス様がいらっしゃいました」
「入って貰ってくれ」
すると男性の声で返答が返って来たの。受付嬢さんが扉を開けて私達だけ中に入れてくれたのだけれど、中にいたのは渋い中年のおじ様。書類整理していた手を止めて、長椅子の方へグラレスさんを案内してくれたのよ。
テーブルを挟んで向かい合っている長椅子には、グラレスさんとギルド長さんが向かい合って座り、護衛のダンさんと私を抱えたバージさんはグラレスさんの後ろに立っていたの。でも、グラレスさんたら私だけ座る様に言うのよ。バージさんもすぐ後ろにいるから大丈夫だろうと判断したのね。グラレスさんの隣にちょこんと座らせられた私。
「おいおい、グラレス。いつの間に子供が増えたんだ?」
まあ、当然そう言う見解になるわよね。
「いやいや、ユイさんはこのバージの妹ですよ。まあ、私にとっても大事な子でしてね。それよりブラス、いきなりの訪問すみませんでした」
「いや、グラレスならいつでも構わんさ。ところで今日はどうした?」
「ブラスとの仲ですから単刀直入にお尋ねします。街の中にポータルスポットが現れませんでしたか?」
グラレスさんの言葉に、先程までにこやかだった表情が一瞬曇ったブラスさん。
「馬鹿言うな。街の中にあったら、それこそとっくに魔物が押し寄せて来ているじゃないか」
流石商人さんね。さっきの表情もなかった様に振る舞っているわ。でもこちらは確証があるのよね。思わずグラレスさんを見上げたら、にっこり余裕の表情のグラレスさん。
「……大通りを一つ挟んだ大きな建物は、確か商業ギルドの持ち物でしたよね?」
そうグラレスさんが断定した場所が緑の点の場所。魔導TVの周辺地図、ズームアップもできたのよ。これもルインさんが発見してくれたんだけどね。あの人本当にすごいわ。
しばらくニコニコグラレスさんとジッとみつめるブラスさんの沈黙が続いたけど、先に折れたのはブラスさん。
「……お前そういえば【先見】持ちだったな。場所が断定できる程能力が上がったってか?」
「まあ、そんなところです。しかし、すでにギルドの掌握済みなら、なんで隠す必要があるんです?そこは大丈夫だって言えば済んだ話ですよ?」
諦めた表情でグラレスさんに話すブラスさん。そんなブラスさんにグラレスさんも疑問を投げかけていたわ。でもそう言われるとそうなのよね。なんで隠す必要があるのかしら?
「商業ギルド内では有名な話でな。グラレス、[リソースポータルスポット]って聞いた事ないか?」
「まさか!本当に存在していたんですか!あの夢のスポットが!」
私やバージさん、ダンさんが話についていけないでいると、私の目の前に開いて出現した魔導エクレシア辞典。そう、実は今日バージさんの優先日で、とりあえずアイテムボックスに入れていたの。でも勝手に出て来た辞典に驚いていると、隣りのグラレスさんが「そう言う事でしたか……」って納得していたのよ。私も見てみると……
[リソースポータルスポット]
***魔物を寄せ付けず資源を産み出すポータルスポット。その種類は多岐にわたる。だが出現率は低い。出現してしばらく産み出し続けるが、100年に1度エターナル魔石を吸収させないと資源は枯渇して行く。
クウィラのポータルスポットは綿花を産み出すスポット。但しすでに3分の1が枯渇している***
「めんでしゅか!(綿ですか!)」
思わず素材と理由がわかって声を上げちゃったけど、周りを見たら頭を抱えるグラレスさんと、バージさん、ダンさんの姿が。アレ?私やっちゃった?
「……なぁ、嬢ちゃん。なんでうちの素材がわかるんだ?」
思いっきり怪しんだ声で言うブラスさん。ブラスさんの追求に本を抱えて「あのでしゅね……」と言い訳を考える私に、グラレスさんがため息をついて尋ねて来たの。
「……仕方ありません。ユイさん、ブラスは信頼できる男です。話しても構いませんか?」
答えに困っていたし、グラレスさんが信頼できると言うならと頷くと、ジッと成り行きを見ていたブラスさんに話出すグラレスさん。私が渡り人でこの本はスキルで出した魔導具だと言う事、リソースポータルスポットの事が記されていた事を話し終えると……
「その話が本当だとすると……この街のリソースポータルスポットの解決策も書いてないか!」
グラレスさんの肩に掴みかかるブラスさん。話を聞くと、この街はリソースポータルスポットで成り立っている街。それの代わりになる資源も見つからず、年々枯渇する場所が増えて行ってギルドとしても頭を悩ませていたらしいわ。街の人にも知らせていなかったみたいね。うん、布の街の資源がなくなるんじゃ暴動も起きかねないものね。
でもそうとは知らずにエターナル魔石使っちゃったのよね……
困っていた私の代わりに、グラレスさんが解決策はわかるが、今はそれを持っていないし、私しかその材料を手に入れる事は出来ない事を話終えると、立ち上がって私の近くに来るブラスさん。
「お願いだ!その魔石を手に入れるのを協力してくれないか!代わりの金はいくらでも用意する!この街を……どうか、この街を助けてくれ!お願いします!」
ブラスさんが土下座をして私に頼み込んで来たの。3歳の姿の私によ?何とか立ち上がってくれる様頼んでもずっとお願いしてくるのよ。困った私がみんなを見上げると、グラレスさんも私に頼み込んできたわ。
「ユイさん。この様子を見ると、責任感の強いブラスの事です。かなり情報を探し回ったのでしょうね。……どうでしょう?次のエターナル魔石はこの街に使ってもらえないでしょうか?私からもお願いします」
そう言ってグラレスさんも頭を下げるのよ。……私は勿論良いけど、と思ってバージさんとダンさんを見ると、頷く2人。そうよね、仲間の友人が困っているんだもの。助けてあげなくちゃ!
「だいじょーぶでしゅ。やりましゅよ」
私の言葉に感激の余り私を抱き上げて「ありがとう!ありがとう!」と言うブラスさん。少し目が潤んでいたわ。まだ解決策しかわかってないのに。
あ、グラレスさんも嬉しそう。
ふふっ、よかった。
……でも、そろそろ下ろして〜!ブラスさん!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。