第20話 リソースポータルスポットの確認をしよう
あの後ブラスさんたら、私を抱え上げたままクルクル周り出したのよ。バージさんに救出されたからよかったけど。よっぽど嬉しかったのね。で、今はバージさんにひっついている私。だってまた抱き上げられたら大変だもの。なんでかバージさんご機嫌なんだけどね。その様子に苦笑いのブラスさん。
「いやいや、嫌われてしまったかな?」
「もうまわるのいやでしゅ」
「ハッハッハ、ブラス程々にしておかないといけませんよ。……ところで、そのリソースポータルスポットの確認はさせて貰えるのですか?」
少し反省をしているブラスさんに、笑いながらグラレスさんが確認出来るか聞いてくれたの。私も気になっていたのよね。エターナル魔石が一つで十分なのかとか、どんな空間なのかが知りたくて。
「ああ、勿論だ。ギルド長権限で連れて行こう。実は商業ギルドからリソースポータルスポットのある建物まで地下で繋がっていてな」
ブラスさんはそう言いながら、ギルド長室の本棚の中の一冊を取り出して、その後ろにあるボタンを押したの。すると床板が移動して現れた階段。それを見て私はちょっとテンション上がったのよね。隠し部屋って本当にあるのね!って浮かれちゃった。
「ほああ!しゅごい!」
「ハハッご機嫌が直ったかな?さあ、案内しよう」
ブラスさんが先導して降りて行く階段の先は、照明がちゃんとついていて明るい広めの通路。全員が入ったところで、ブラスさんが中からある場所を押すと入り口が自動で閉まったの。でも空調はしっかりしているのね。息苦しくないもの。
歩きながら説明してくれるブラスさんによると、歴代ギルド長が受け継いできた通路で、これを知っているのはギルド上層部とクウィラの領主様ともう1人いるんですって。今回私達は特例で教えてもらったけどね。
長い通路の行き止まりにも階段があって、そこを登って天井を叩くブラスさん。ノックは5回、1回、5回なのね。すると天井が開いたんだけど……
「まあ!ブラスさん。お渡し今日でしたかしら?それにその方達は?」
「やあ、ミセスブラウン。いきなりですまない。ちょっと良いかい?」
あらあらと私達を迎えてくれたのは、ふくよかで優しそうな雰囲気の女性だったわ。ブラスさんの紹介によると、彼女は孤児院長のミセスブラウン。そう、通路は孤児院の院長室に繋がっていたの。大きな建物って表向きは孤児院らしいわ。
ギルドと領主のサポートがある孤児院は、華美ではないけど綺麗にされていてとても良い雰囲気。私がそうやってキョロキョロしている間に、事情を簡単にブラスさんから聞いたミセスブラウンは
「まああ!ついに見つかったのですのね!解決策が!」
嬉しそうにブラスさんに詰め寄っていたわ。互いに喜び合う2人、多分解決策を一緒に探していたんでしょうね。
ところでリソースポータルスポットは?って思っていたら、内情を理解したミセスブラウンが、院長室の隣の部屋の鍵を開けて私達を中に入れてくれたの。
そこは建物の中なのに、地面が向きだしの広い空間。リソースポータルスポットの周りを囲っているだけなんですって。そしてほぼ中央にある透明な入り口。
早速中に入っても良いか聞くと、少し困った顔をするミセスブラウン。話を聞くと、面白い事にリソースポータルスポットは入る人を選ぶそうなの。入れなければ弾かれるそうよ。この院で入れるのは院長を含めて約15人。あ、ブラスさんは入れないそうよ。残念そうにしていたわ。
「ためさしぇてくだしゃい(試させて下さい)」
バージさんに下ろしてもらってトコトコ歩いて行く私。ミセスブラウンは心配そうに見ていたけれど、やっぱり問題なく入れたわ。
中に入ると……目の前には青い空の下に広がる真っ白な綿花畑。枝にふわふわな新雪が積もった様な綿花が咲き誇り、収穫を今か今かと待ち侘びている様にみえたの。残念ながら枯れている場所も多かったけど、これは見事だわ。
「しゅごいでしゅ……」
「全くだな」
私が感動していたら、後ろからバージさんも来たみたいね。
「へえ、また違うもんだな」
「素晴らしい!こんな空間だったとは!」
あ、グラレスさんとダンさんも入って来れたのね。2人共も感動しているわ、特にグラレスさん。知らなかった事が分かった瞬間って嬉しいものね。
「まあ!なんて素晴らしいのでしょう!ここに入れる原理は未だ判明していませんのよ。それなのに、お客様全員が入れるなんて!」
あ、ミセスブラウンも入って来たのね。今からステータス出そうと思っていたけどどうしようかな?
「ミセスブラウン、私達は協力者です。ですから貴方もまた協力者になって貰いたいのですが宜しいですか?」
すかさずグラレスさんが、ミセスブラウンに交渉をしてくれたわ。流石グラレスさん。ミセスブラウンも真剣な表情になってグラレスさんと話し合ってくれて、ここで今から見ることは黙秘する事を誓ってくれたわ。
そして私に向かって頷くグラレスさんの合図でステータスを開くと……光を放つステータス画面。空間を全て光で包み込みステータス画面に選択が表示されたわ。
『 リソースポータルスポットを回復させますか?
→100年回復 0/1 (エターナル魔石数)
→バージョンアップ 0/2(エターナル魔石数)
→永続回復 0/10(エターナル魔石数)
→キャンセルする 』
うわ!やっぱり個数があったわ!それもバージョンアップまであるのね!
「ほう、バージョンアップもあるのですか」
「永続は凄えな」
「だが10も集められるのか?」
何回も立ち会っている為冷静に感想を話し出す3人。
「まあ!まあ!こんな事って!」
一方驚きを隠せないミセスブラウン。胸の辺りで両手を組んで興奮していたわ。この空間ならやっぱり彼女にも見えるのね。
確認も済んだし今回はキャンセルすると、光が収まり青空と一面の綿花畑の景色に戻ったの。するとミセスブラウンが近くまで走り寄ってきて、私の手を握りしめて来たわ。
「なんて幸運な日なのでしょう!貴方は私達の救世主でしたのね!でも……こんなに小さな手にお願いするのはとても心苦しいですわね……」
嬉しい反面3歳の私の姿を見て、心配そうな表情をするミセスブラウン。ふふっ、優しい人。こういう人にこそ役に立ちたいって思うのよね。
「だいじょーぶでしゅ。がんばるでしゅよ」
にこっと笑って言う私に目元を潤ませるミセスブラウン。
「ありがとうございます。ユイ様」
感謝をして私をふわっと抱きしめてくれたの。本当にいい匂いのする人ね。ユイ様呼びは気になったけど。
その後、改めてグラレスさんやダンさん、バージさんにまで丁寧にお願いするミセスブラウン。私達みんなを様呼びしているのよ。いやいや、そこまで腰低くしなくてもって何度言っても直らなかったわね。
仕方ないからとりあえずそのままリソースポータルスポットを出た私達。すると……
「どうだったんだ!何か分かったのか?」
入れなかったブラスさんが、ちょっと悔しそうな表情で近づいてきたわ。うん、みんな入れて自分だけ残されるのって悔しいよね。今後の為にも実証させてもらおうかしら。
「ぶらしゅしゃん、このほんにてをのしぇてくだしゃいましゅか(ブラスさん、この本に手を乗せて下さいますか)」
「え?なんだ?いきなり」
魔導エクレシア辞典を出して提案する私に、不思議そうな表情をするブラスさん。グラレスさんが手をまずのせる様に促して、やっと乗せてくれたの。「
これで良いはず。
「ぶらしゅしゃん。なかにはいれりゅかためしてくだしゃい(ブラスさん、中に入れるか試して下さい)」
私の言葉はわかったものの、意味が理解出来ないブラスさん。意味を理解しているグラレスさんが、ブラスさんの背中を押してリソースポータルスポットの入り口まで連れて行ったわ。
無理だというブラスさんに、根気よく試してみる様に促すグラレスさん。仕方なく渋々手を入り口に近づけてみると、スッと入る自分の手に驚きグラレスさんをみるブラスさん。そこからは勢いよく中に入って行ったわ。
あ、やっぱり魔導エクレシア辞典を見れる人はリソースポータルスポット入れるのね、と確証を得た私。どれどれ、と中にもう一度入ろうとしたらバージさんに止められちゃったの。
「今はそっとしておいてやれ」
「だな。グラレスさんが行ったから大丈夫だろ」
バージさんの言葉に同意するダンさん。ミセスブラウンは、ブラスさんが入れた事に驚きと嬉しさで涙を流していたわ。ブラスさん、来るたびに入れる人達を羨ましそうに見ていたんですって。
そっか、念願の場所に入れたんだものね。しばらく浸らせてあげた方がいいわね。
待つ事にした私達を、ミセスブラウンが涙を拭いてソファーに案内してくれたわ。そしてお茶を出してくれて、このリソースポータルスポットについて教えてくれたの。
このリソースポータルスポットがここにある事は、実は街のほとんどの人が知っているそうなの。街ぐるみで、リソースポータルスポットを守っているそうよ。だから孤児院の職員は冒険者や商業ギルドの職員だったりするんですって。
そしてリソースポータルスポットに入れる人達は一緒にここに住んでいるそうよ。仕事は綿花の収穫になるものね。入れる人はおおよそだけど予想はついているらしいの。ミセスブラウンは多分高ランクの縫製スキル持ちじゃないかって言っていたわ。今現在入れる人達みんなそうなんですって。
この街はリソースポータルスポットと共に出来たまだ新しい街。だけどみんなが誇りを持って守り、生地に出来る様に技を磨いてきたそうよ。邪な考えを持つ人はこの街から強制退去されるそうなの。幾度となく盗賊や、他の領地からの襲撃もあったそうだけど、領主さんやこの街の冒険者がずっと守り抜いてきていたんですって。
そして領主様の奮闘があって最近国の許可が降りたそうなの。晴れてこの領地のものとなったんだけど、リソースポータルスポットの珍しさから外部の人達には知られない様にしているみたい。
「成る程なぁ。俺らが知らないわけだ」と納得するダンさん。その時バンッとリソースポータルスポットのある扉が開いて、感激したブラスさんと苦笑するグラレスさんが戻って来たの。
ミセスブラウンの良い話の余韻が吹き飛ぶくらい、感激したブラスさんにグルグル回される私。
今回は、早い段階でバージさんが助けてくれて助かったわ!
感謝を示すのは程々が一番ね。
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