第37話 まずは宴会です!

 「ユイちゃん、パンどのくらい焼こうか?」

 「シャルしゃん、いろんなしゅるいちゅくりたいでしゅ!」

 「ユイちゃん、お肉叩いたわよ。丸めればいい?」

 「エレンしゃん、ありがとでしゅ」

 「あ、ユイちゃんお肉出して〜。ローストボアいっぱい作っちゃうから」

 「カエラしゃんおねがいしましゅ!」


 デラックス魔導テント内キッチンでは女性陣が張り切って料理中。そう、今日は私主導で、宴会を開く事にしたの。いっぱい仕入れて来たしね。で、私は何をやっているかと言うと、お酒の量産中。飲めないくせにこういうの見つけちゃうの。


 〈雑貨魔導具〉より

  魔導ビール樽 MP100,000

 ***宴会には欠かせないビールを製造する魔導具が、ついに登場!飲みごたえのあるクラフトビールがこの樽一つで出来上がり!大麦の浸麦→発芽→ 焙燥→ 麦芽の粉砕→ 糊化→ 糖化→ 麦汁の煮沸→ ホップ添加→ 麦汁の冷却→ 発酵→ 熟成までこれ一つで賄えます!勿論魔導ダストボックスと同期も必要ですよ。時間短縮機能に、自動メンテナンス、自動清掃搭載はもはや当たり前!今なら魔導ダストボックス付きでこのお値段!祝賀ムードたっぷりのこの時期には必須でしょう!さあ、迷う事はないはず!今すぐお買い求めを!***


 ……相変わらずよね、このサイト。まあ、買うけど。多分すぐになくなるだろうから2個は買ったわ。ワインもいっぱいあるし。ついでに魔導ウィスキー樽も見つけたからお酒の種類増やしても良いけど、これは次のお楽しみね。


 さて料理は、お肉とパンとお酒に後は野菜かしら。ベーコンも買ってあるからロールキャベツもいいなぁ。こっちのキャベツ葉っぱが大きいんだもん。あ、エレンさんに頼もう。


 「おーいユイ、ヤナ族の人達が広場にドンドン宴会場設営してるぞー!まだ出来ないのか?」


 ダンさんがお腹をさすってリビングに入って来たわ。その後にルインさんとバージさんも続いて入って来たわね。これは早々に追い出されて来たとみた。だってね、私達ヤナ族にとって恩人なんだって。だから恩人を働かせる訳にはって料理作る時もなかなか頷いてくれなかったもの。好きで作るんだから良いのにね。


 「もう!ダン達うるさいから、グラレスさんみたいにお風呂入って来て!」


 うろちょろとダンさんやルインさん、バージさんまで様子を見に来るものだから、カエラさんが怒ってお風呂に追いやったわ。グラレスさんなんかまったりまだ入っているのよ。本当にお風呂好きよね。ダンさんとルインさんは、しぶしぶ「たまにはゆっくり入ってくるか」って動いてくれたの。


 でも、バージさんたら私まで連れて行こうとするんだから!私はお酒を作っているの!って言ったら「味見は任せろ」って私を抱えて座りこんじゃったわ。うっ、捕まった。


 「ばーじしゃん、うごけないでしゅよ」

 「ユイも働きすぎだ。ほれ、俺が見てるから少し休め」


 私を自分によりかからせるように抱き込むバージさん。大丈夫なのにって思っていても、バージさんの体温が気持ちよくて瞼が閉じてきちゃうのよね……


 「……できたら、しゃきにえんかいはじめてくだしゃいね……」


 それを言ってからスッと眠りに入った私。その様子を見ていたみんなは……


 「ふふっ、やっと寝てくれましたわ」

 「さっすがバージ!ユイちゃん使いね」


 シャルさんもカエラさんも、私が早起きしていたからそろそろ眠たくなる頃って思っていたらしいの。みんな良く見てるのね。優しいみんなに見守られて私は寝室に連れていかれたみたい。おかげでぐっすり眠っちゃったわ。




 「んにゅ……」


 ようやく目が覚めたらなんか身体が動かないの。誰かに抱き込まれているみたい。


 「お、起きたか?」


 あ、やっぱりバージさんだった。最近バージさんに良く抱き抱えられて寝ている私。もう慣れちゃったわ。むしろ人の体温があるから安心して良く眠れるのよ。多分3歳児の身体の感覚よね、これは。


 「……ばーじしゃんは、えんかいにいかなくてよかったでしゅか?」

 「ん?ユイ残して行けねえだろう?酒はユイのおかげでいっぱいあるしな」


 笑顔で私の頭を撫でるバージさん。いつもの怖いバージさんの笑顔も慣れれば安心するのよね。実際起きて人がいるのって嬉しいし。

 

 バージさんにお礼を言って、ベッドから起きてトコトコとリビングへ向かう私の後をバージさんもあくびしながらついてきたわ。バージさんだって戦って疲れているのよね。それなのに私の世話までいつも進んでやってくれるんだもの。バージさん、本当に優しいなぁ。


 そう考えながらリビングを開けると、そこにはもう誰もいなかったわ。みんなもう広場に行って宴会しているのでしょうね。


 そのまま外に向かって歩いていたんだけど、テントの正面扉が開いていたから賑やかな声が廊下まで聞こえて来ていたわ。みんな楽しんでいるなぁって思いながらトコトコ玄関まで歩いて行ったらね……


 「「「「「せーの!ありがとうございます!ユイ様!」」」」」


 私が玄関から出た途端にみんなが声を揃えて私に感謝の言葉を向けて来たのよ。思わず「はにゃ?」って変な声出しちゃったの。


 一斉に飲み物を掲げて私を迎えるヤナ族の中から出て来たのは、シーラさんと族長さん。私は後ろから来たバージさんに片手で抱え上げられたわ。

 

 「本当にありがとうございました、ユイ様。それに赤獅子の皆さん、バージさんにグラレス、シャルさんも。そして共に戦ってくれた『グランテス』『フェアリル』『ドゥガル』のパーティもありがとう。我らヤナ族、その恩には必ず報いよう。そしてこの会を計画してくれたユイ様に、改めて開催の宣言をしてもらいたいのだが……」


 族長さんが話している間に私にジュース、バージさんにビール笑顔で渡すシーラさん。で、みんなが私に期待の目を向けてくるのよ?……うわぁ、これは嫌がらずにサッサと終わらせるべき案件ね。バージさんたら知っていたのかニヤニヤしてるし。もう!


 「みなしゃん!ぶじでなによりでしゅ!きょーはおもいっきりたべてのみましょー‼︎」

 「「「「「「おおお‼︎」」」」」」


 私なりに大きい声で宣言したら、更に大きな喜びの声が辺りに響いたわ。どうやら私が起きるまで、つまみ食いもしないで飲み物だけで待っていてくれたみたいなの。うわ、みんなごめん。


 そして、食べ始めた途端にあちこちから聞こえる美味しいの声。ハンバーグは柔らかくて美味しいし、ローストボアやステーキは勿論、焼きたてのパンもとびっきり美味しいもの。久しぶりに満足するまで飲み食いできる事に、みんな心から喜んでいたわ。嬉し涙を流して食べているヤナ族の人もいたわね。私とバージさんは、そんなみんなの様子を見ながら笑顔で食べていたらね……


 「なあ、あの地面から湧き出るお湯どうなった?」

 「ああ、あの変な匂いのお湯か。とりあえず石で塞いでおいたが、また溢れ出してきたな」

 「まあ、村の結界の外にあるからまだいいが、族長には話したか?」

 「いや、まだだ。なんせ宴会の話が聞こえて来たからなぁ。明日でいいだろうって思ったしな」


 近くにいたヤナ族の男性達の会話が聞こえて来たのよ。しかもそれってもしかして……


 「あにょ!そのはにゃしくわしくおしえてくだしゃい!」


 そう思ったらもう話に割り込んじゃっていたわ。


 「ん?ユイ、ルインとエレンが開けた穴の事か?」


 ってバージさん知ってたの?

 というか、どれだけの威力だったんだろう……

 と、ともかくそれは見に行けばわかるわね!


 「バージしゃん!バージしゃん!しょこに連れて行ってくだしゃい!」

 「え?今すぐか?」

 「もちろんでしゅ!」


 だって気になるじゃない?

 異世界の天然温泉なんて‼︎

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