第14話 やってみよう

 あの後も順調に進んだ魔導ハイヤーは、ビジネスタイプの走行予定の6時間が近づき……

 『本日のご利用の終了時間30分前です。次のうちからこの後のご予定をお選び下さい。

 1・近隣のシトレーの村へ向かう(20分後に到着)

 2・このまま時間まで進む。

 3・ここでプレミアムタイプに切り替える(8時間走行可能)

 現在王都まで順調に走行中。予定通りもしくは早期到着可能な状態です。いかがなさいますか?オーナー』


 これに関しては特に急ぐ旅ではないとみんなで話し合っていた事もあり、「にでしゅ!」に決定。宿をとる必要も食料も今のところ心配ないからね。


 タクに野営に良さそうな広場で止まってもらって、本日の移動は終了。と言ってもまだお昼前なのよ。テントを張るのも一瞬出し、お茶はたっぷりハイヤーの中で飲んだし、って事で動き出すメンバー達。


 「いいか?ユイはグラレスさん達とこのテントから出ない事!それから危ない刃物は扱わない事!後は……」

 「おいおい、バージ。それくらいで良いんじゃね?」

 「このデラックス魔導テントに抜かりはないぞ」


 バージさんがテントに残る私に忠告している姿に、苦笑いしながら止めてくれるダンさんと、自信たっぷりに安全を言い切るルインさん。そうバージさんと赤獅子メンバーはこの近辺のパトロール兼鍛錬に行ってくるそうなの。……バージさん過保護だからなぁ。


 「ふふっ。大丈夫よバージ、ユイちゃんだもの」

 「そうよ。シャルさんもグラレスさんもいるし、何よりこの結界よ。人も入れないわ」


 エレンさんもカエラさんも援護射撃してくれるけど、バージさんはまだ言いたりなさそう。


 「だいじょーぶでしゅ!おとなしくしていましゅ」


 私の言葉になんとか納得したバージさん、赤獅子メンバーとようやくテントの外に向かっていったわ。この世界のお兄さんは心配性ね。そう思いながら魔導テイムポシェットを椅子にかけたの。


 さて、実はやりたい事はあるのよね。


 「で?ユイちゃんは何をやろうとしているの?」

 

 私達の様子を笑いながら見ていたシャルさんに私の考え読まれたみたい。アレ?顔に出てたかしら?


 「あのでしゅね。ゆうはんのじゅんびでしゅ!」

 「まあ!良いわね!じゃ私も手伝うわ」

 「それじゃ、私はお風呂を頂きましょう」


 私のやりたい事を聞いてから動き出すシャルさんとグラレスさん。グラレスさんは昨日からお風呂が気に入ったみたいで、ゆっくり入るのが好きみたいなの。お湯もスイッチポンですぐ溜まるし、便利なのが良いってお風呂の準備もしてくれるの。テント内はアイテムボックスに収納した時点で自動清掃が入るからいつも綺麗だしね。


 でもねシャルさんが手伝う事あるかしらね。何せ私にはこれがあるのよ。


 [家電魔導具]より

  魔導ホームベーカリー MP 50,000

 ***パンを作りたい貴方にお勧めなのはこちら!大型サイズの魔導ホームベーカリー。こねる、形成、発酵、焼きまでこれ一台で出来上がり。貴方は材料入れとスイッチを押して出来上がったパンを取り出すだけ!メニューも豊富に揃えています。タイマー設定、静音、常時自動洗浄、魔素充填型、メンテナンス機能も搭載!またパン作りには欠かせない酵母やドライイーストは自動製造致します。いつでも好きな時に焼きたてのパンをお届けしますよ!***


 これなのよね。3歳児でも出来る仕組みになっているんだもの。でもまず出してみましょ。


 「ぱんをちゅくるまどーぐだしましゅ」

 「はーい」


 シャルさんに私の側に来て貰って魔導ホームベーカリーを出すと、洗濯機サイズのホームベーカリーが出てきたの!


 「でかいでしゅ!」

 「え?ユイちゃんこれなあに?」


 驚く私にマイペースなシャルさん。シャルさんに材料を入れるだけでパンが出来上がる魔導具と説明すると、「まあ!便利ねぇ!」って喜んでくれたんだけど理由がね……


 「うふふ、私料理は全然駄目なの。なんでか食べ物じゃなくなるのよ。でもユイちゃんがやるなら私も出来るかなーって思ってね。やっぱりそうだったわ」


 両手を組んで喜ぶシャルさんの姿は可愛らしいのだけれど、普通に作っていたらちょっと危なかったわね。これはシャルさんはサポート役に徹してもらいましょう。


 「しゃるしゃん。ざいりょういれるのをてつだってくだしゃい(シャルさん、材料入れるの手伝って下さい)」

 「はあい、任せて!」


 今一つ不安を抱えながら材料を投入口に入れて行く作業に移ったんだけど、便利ね、この魔道具!計測も内部でやってくれるの!微調整もお手のものよ!だから、私がアイテムボックスから材料出してシャルさんが中に入れるリレー形式でやると、すぐ終わったの。後はスイッチポンで時間まで待つだけ。楽ねー。


 「え?もう終わり?これでパンが出来るの?」


 シャルさんも驚きよね。頷いてスープやおかずも作る事を言ったら自信ついたみたいで、どんどん手伝ってくれたわ。味付けだけは譲らなかったけど、やっぱり大人が手伝ってくれると早いわね。


 その間にグラレスさんもお風呂から上がって来て、魔導エクレシア辞典をじっくり読んで待っていたわ。車内ジャンケン大会で一抜けしたの実はグラレスさんなのよ。〈先見スキル〉これが強化されたら旅にも役立つ事間違いなしだし、内心一番応援しているのよね。


 それからはシャルさんもゆっくりお風呂に浸かって、私はお昼寝。しばらくするとテント室内に良い匂いが充満して来て、私の部屋にも届いてきたの。そろそろかなーって起きて行ったら帰って来ていたバージさんと赤獅子メンバー。


 「おかえりなしゃい!」

 「お!ユイ起きたか!」


 バージさんがすぐに私を迎えに来て抱き上げてくれたの。その様子に「どっちが寂しかったんだか」って笑いながら言うカエラさん。うん、それは私も思った。バージさんいつも私を抱き上げているのよね。慣れて来た私も私だけど。


 抱えられながらみんなが座っているリビングに行くと、何か報告していたのかしら?真面目な顔になっていたのよ。


 「なにかあったんでしゅか?」

 「ああ、この先にポータルスポットを見つけたんだ」


 私の問いに答えてくれたバージさん。ポータルスポットってなに?と思っていたらやっぱり教えてくれた魔導エクレシア辞典。


 [ポータルスポット]

 ***この世界のあちらこちらに出現する亜空間の入り口。内部亜空間のサイズはその出現場所で違いがある。内部は魔素が濃く魔物が棲みつき易い為、見つけ次第即ギルドに報告が必要。ギルドが駆除や管理に当たる。

 この近くのポータルスポットはまだ出来立て。魔物は住み着いていない。急ぎユイを連れて、その場で魔導具ショップサイトを開く事を推奨***


 みんなで覗き込んで読んでいた為、同時に上がる疑問の声。


 「え?わちゃしでしゅか?」

 「ユイちゃんご指名ね……」とエレンさん。

 「魔導エクレシア辞典がいう事だしなぁ」とダンさん。

 「行ってみる価値はあるか……」とルインさん。

 「今ならまだ行って戻って来れるわね」とカエラさん。


 私が驚く中、冷静に考える赤獅子メンバー。バージさんは目を閉じて考えていたんだけど、私を抱えて立ち上がったの。


 「良し、行くぞ。ユイ」

 「ええ!いくんでしゅか?」


 怖気づく私にいつものニヤリとした笑顔を向けるバージさん。


 「ユイ。だったらウィルも連れていくぞ。見るんだろ?魔導エクレシア辞典が導くその先を」


 ……そっか!そうね。決めたばかりで怖気づいていちゃ駄目ね。そう思い直して私がみんなをみると、もう立ち上がって準備をしている赤獅子メンバー。


 「ちょっと着替えて来ます」

 「行くなら全員でいきましょ!」


 グラレスさんとシャルさんまで急いで動き出してくれたの。……みんな一緒は心強いわ。そう思っていたらバージさんの足元から「ヒューイ」って声も聞こえてきたの。ウィル起きたのね。うん、置いていかないわよ。


 バージさんに降ろしてもらってウィルを抱き上げて、魔導テイムポシェットを肩にかける私。準備はOKね。グラレスさんとシャルさんも準備が出来たみたい。全員で外に出てテントもアイテムボックスに収納したわ。

 

 さあて、何が待っているのかしらねって気合いを入れて行こうと思ったらね……


 「あら?パンはどうなったかしら?」


 シャルさんのマイペースな言葉で吹っ飛んじゃった。

 ある意味いい仕事してくれたわ、シャルさん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る