カレン
ルナのおかげで騎士団の動きが止まっている。
俺はこの機を逃すまいと、ルナの手を握り、そそくさと歩き出す。
「じゃあ、そういう事で――」
「ま、待ちなさい!」
「ちっ……」
正気に戻った騎士団の一人が、逃げようとする俺の前に立ち道を塞ぐ。
彼は『コール』と名乗った。
少し遅れて正気に戻った相方も慌てて名乗ってくる。
「ハシルと申します」
「は、はぁ……」
先ずは丁寧に名乗る二人だが、俺を逃がさないように囲んでいる。
(コールにハシルなんて原作にも出てこないしな……)
原作には存在しないキャラクターなので、騎士団の本来の仕事である、治安維持の為に動いているのかもしれない。
だが、心当たりがないか必死に考えても、騎士団に囲まれるような事をした覚えはなかった。
「それで、何の用ですか?」
心当たりの無い俺は、せめてもの抵抗で渋々といった態度でそう質問した。
「まぁ、驚くのも無理はないですよね」
「申し訳ない」
二人は申し訳なさそうに苦笑している。
その態度からは敵意を感じなかった。
「クオン・ブラックヒル君。私達はあなたを招集しろと命を受けています」
「詳細は団長から説明がありますので、我々の宿舎にご同行願いたい」
「……へ?」
俺は意味が理解できず、ぽかんとマヌケ面を晒す。
そんな俺を見て、二人は困った顔をしている。
俺達の間に気不味い沈黙の時間が流れる。
その雰囲気に耐えられなかった俺は一つ気になった事を質問した。
「その招集とやらをする為に、ずっとここで張っていたんですか?」
俺の質問を聞いて二人は顔を見合わせる。
「いえ、我々が来たのはつい先程ですね」
「……なんで俺がこの船に乗って来るってわかったんだよ……」
俺達は計画的に戻って来た訳じゃない。
猫カフェ計画は、昨日急に決まった話だ。
待ち伏せするには急過ぎる行動だと思うが、二人は実際に待ち伏せしていた。
「監視でもしていたんですか?」
俺は疑いの目を二人に向けた。
二人は慌てて首を横に振る。
「いえいえ、監視なんてする訳ないじゃないですか。犯罪者でもあるまいし」
「なんとなく、この船でクオン君が来るとわかったのですよ」
さも当然かのようにハシルは、なんとなくわかったと言い切る。
不気味に感じる俺とは違い、コールには疑問に思っている様子はない。
そんな二人を見た俺は、アカネの方へ振り向き、耳元で呟いた。
「アカネ、逃げるぞ。俺はレイナを担ぐから、アカネはルナを――」
後ろからがしっと肩を掴まれた。
妙に力が強く、痛みすら感じる。
「お、おい……やめてくれ――」
振り返った俺は、二人の目を見て言葉に詰まった。
二人の目はどこか虚で、表情が消えている。
その不気味な雰囲気は、分校で出会した敵に似たものを感じた。
「ひっ!?」
アカネはトラウマが刺激されたのか、悲鳴を上げて後ずさる。
そんなアカネに構う事なく、二人は淡々と話し出した。
「変化を受け入れろ」
「報酬はスペアNo.3、レイナ・ブラックヒルの寿命」
「お前たち、何を言って――」
俺は震える心を押し殺し、剣を抜いて二人を睨みつけた。
だが、突如として不気味な雰囲気が霧散する。
「どうかされましたか?」
「顔色が悪いようですが……」
元に戻った二人は剣を構える俺を見て困惑している。
先程の事は覚えていないように見える態度だ。
「い、いや……大丈夫だ、です」
俺は警戒しながらも剣を仕舞った。
「ねぇ、クオン。早く、猫カフェ行こうよぉ」
「ちょっと待って――」
「あっ! やっと見つけた!」
聞き慣れない声が聞こえた。
その声の主は、俺達を見て嬉しそうに駆け寄って来る。
「……カレン?」
情熱的な赤い髪を靡かせるキリッとした顔の美少女。
女にしては高い身長で、その身長に見合う男好きするスタイルの持ち主。
俺はそんなカレンに蛇蝎の如く嫌われているはずだ。
ツンデレキャラだというのに、ツンしか見たことが無いのが良い証拠だろう。
「もう、あんたどこ行ってたの? 探したんだからね?」
だというのに、カレンはまるで友人と話すかのような態度だ。困惑した俺は、口をぱくぱくさせるだけで何も言えない。
「しゃんとしなさいよ! あんたはやれば出来るのにやらないからムカつくのよっ!」
俺はカレンの言葉に聞き覚えがあった。
原作でカレンがカイルによく言っていた言葉だ。
(ということは、この後……)
俺は全身から嫌な汗が吹き出し寒気を感じながらもカレンの言葉を待った。
「ほんとダメね……でも、そんなところも――」
そう言って微笑むカレンを見て、俺はアカネに合図を出した。
「逃げるぞ」
「御意」
俺がレイナ、アカネがルナの手を取る。
そしてタイミングを合わせて、一目散に逃げ出した。
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