再燃
動き易いように短く改造された学園の制服を着こなし、いつでも口元を隠せるように赤いスカーフを巻いている。
そんなアカネは忍者っことして、学園ではちょっとした有名人だ。
だが、アカネは忍びの家に生まれたというわけではなく、男兄弟に囲まれて育った影響で、少し男っぽい嗜好を持っている以外は極々普通の子供だった。
そんなアカネは幼少期、少し影のあるヒーロー、所謂ダークヒーローに強い憧れを抱くようになる。
悪なのか正義なのかわからない、だが、どこか芯のある姿がアカネの心をくすぐったのだ。
両親にダークヒーローの格好良さを語ったり、時には少し悪ぶってみたりもした。
悪ぶってみたとは言っても、子供の遊びの範疇を超えたことはない。だが、両親はアカネのそんな姿を見て卑しいものを見るような目をする。
両親の願いは、アカネが快活で裏表の無い誰からも好かれるような女性になることだった。
アカネが憧れを抱くダークヒーローなんてものは両親の願いとは真逆な存在だ。
幼いながら両親の願いを悟ったアカネは、両親が喜ぶ自分を演じるようになる。
幼い頃から突き通した嘘は真になり、アカネは誰からも好かれるような快活で裏表の無い人間に育った。
忍者っぽい格好や話し方は、本人すら既に忘れている、抑圧への抵抗だった。
抵抗とは言っても、本人すら気づいていない無意識の抵抗だ。
このまま幼い頃の思いなど、時と共に消えてなくなるはずだった。
しかし、アカネの思いは再燃する事になる。
「ううっ……」
カイルを襲ったアースドラゴンのブレスはアカネをも巻き込んだ。
だが、それはあくまで余波であり、直撃したカイルほどのダメージは無い。
カイルが衝撃と麻痺で気絶している中、アカネは麻痺で身体が動かせないながらも意識は保っていた。
「だ、誰か……助け――」
迫り来る巨躯に怯えながら、アカネは助けを求めて手を伸ばす。
その手を取ってくれる者がいない事などアカネはわかっていた。
だが、そこで――。
「俺一人で十分だ」
クオンが現れる。
アースドラゴンを前にしても、余裕のある態度を崩さないクオンを見て、アカネの目に希望が宿る。
それと同時に疑問も生まれた。
(クオン殿はなんであんなに余裕があるのでござるか? カイル殿より弱いはずなのに……)
クオンは序列戦でカイルに負けたのだ。
カイルが手も足も出なかった相手に勝てるとは思えなかった。
だが、アカネの不安をクオンは一瞬で一蹴する。
「剣技【一閃】」
たった一振り。その一振りで、クオンは絶望を払ってみせた。
(す、凄いでござる……)
悪人だと言われているクオンが、隠していた圧倒的な力で窮地を救ってくれた。
アカネが幼少期に憧れを抱いた、悪なのか正義なのかわからない姿がそこにはあった。
アカネは体の奥底から熱を感じる。
その熱は不快なものではなく、気付けばクオンに向かって手を伸ばしていた。
「はぁ……はぁ……」
だが、クオンがアカネの手を取ることはない。
クオンの関心はアカネでもアースドラゴンでもなく、すぐ側で喜びはしゃいでいるルナに向いていた。
ルナが尻餅をつき、クオンが覆いかぶさったところでアカネは目を閉じる。
「う、うう……」
自分を助けてくれた理想のヒーローが、他の女に夢中になっている姿なんて、アカネには耐えられなかった。
二人が場所を変えたおかげで、少し冷静さを取り戻したアカネは、麻痺が解けていることに気づく。
「クオン殿……」
立ち上がったアカネは、ふらふらとした足取りでクオンが脱ぎ捨てた服を拾った。
「んっ……」
アカネは拾った服を自分の顔に押し当てる。
「はぁ……はぁ……クオン殿ぉ」
火照った身体を自ら慰めたアカネは、二人が消えていった場所を見つめながら決意を口にする。
「クオン殿はアカネのものでござる……ッ!」
抑圧されていた感情が暴走し、クオンを自分のものにすると決意しながらも、どこか冷静な思考を保っていたアカネは――。
「師匠! 困った時はアカネに依頼でござるぞ!」
「ひやっ!?」
まずはクオンとの距離を縮める事にした。
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