引き金

 3rdジョブに慣れる為、迷宮に潜る。

 

地獄の業火フレイムインフェルノ

 

 試しに賢者のスキルを使ってみろと言うと、ルナは執拗に火炎系のスキルばかり使い出した。

 下層の敵とはいえ、一撃で焼き払われる。

 その様子を見てルナは不敵に笑った。

 

「あはははっ! 全て燃えてしまえば良い」

 

 高笑いするルナは、死んだ目つきをしていた。

 

「落ち着け、ルナ……」

「止めないで。私がにゃんにゃんしていた記憶を焼き払うの」

 

 ルナは止まらない。

 このままでは、攻略してしまいそうな勢いだ。


 これ以上は体力の無駄遣いだと感じた俺は、暴走するルナの手を引っ張り迷宮から脱出した。

 そして部屋に戻り、今後の動きを話し始める。

 

「皆、聞いてくれ。迷宮の攻略はやめだ」

 

 3rdジョブは取得するという目的を達成した今、邪神の復活の手助けになる、迷宮の攻略を進める意味はない。

 原作通り邪神が復活すれば、王国は壊滅的な被害に遭い、モンスターが跋扈する魔界になるので、それは絶対に阻止しなければならない。

 

「でも……どうするの?」

「うーん……」

 

 ルナの問いにすぐには答えられなかった。

 俺達がやめたとしても、騎士団は攻略を続ける。

 それを止めるとなれば、明確な敵対行動だ。

 

(敵対してでも止めるしかない……よな)

 

 説得するには材料が無さすぎるのだ。俺が未来の出来事を知っているなんて言っても、鼻で笑われるだけで攻略を止めるとは思えない。

 

(力尽くか……)


 それしか思いつかないが、それが難しい選択になるのは目に見えていた。

 

(いや、まずは――)

 

 先の事よりも、まずは分校の敵だ。

 

「まずは、分校の敵を片付けよう。2ndジョブでも一応は戦えたんだ。皆が3rdジョブになった今なら、倒せるはずだ」

 

 前衛に魔法剣士である俺とレイナ。

 後衛に賢者ルナと聖女カレン。

 そして、全体の調整役として上忍のアカネ。


 現在知識がある俺が見ても、理想的な布陣だ。

 この布陣で勝てない敵がいるとは思いたくない。

 

「とうとうでござるね」

 

 アカネは気合いが入った様子で頷く。

 ルナとカレンも顔色は悪くない。

 

「……大丈夫か?」

「もちろんですっ」


 少し心配だったレイナも、拳を握って問題ないと言ってくれる。


 俺達は意見を出し合い、宵闇に紛れて襲撃することに決めた。

 

 ――そして、夜。

 俺達は静かに部屋を後にした。


「隠遁の術」


 影になったアカネのスキルは強力だ。

 自分だけでなく、仲間の気配まで薄く出来る。


 アカネに先導された俺達は難なく奴らの根城である校舎に侵入した。

 奴らに気付かれる事なく背後を取り、ルナに合図を出す。


地獄の業火フレイムインフェルノ

 

 ルナの奇襲攻撃で辺りが燃え広がる。

 

「行くぞ、レイナ!」

「はいっ」

 

 俺とレイナが前に出た。


「ほう、そう来たか」

 

 皮膚が焼ける嫌な匂いが辺りを漂う。

 思わず鼻をつまみそうになる匂いだ。


 だというのに、奴らは何でもない顔をして、炎の中から表れる。

 焼け爛れる皮膚は明らかに致命傷だが、奴らはそれを気にする素振りすら見せない。


 思わず後ずさると、奴らは顔を見合わせた。

 

「どうする?」

「どうもしない」

 

 襲撃を受けているというのに、焦りも怒りも感じられない態度の二人は不気味だ。

 

「既に道筋は出来たからな」

 

 あまりの不気味さに前衛の俺とレイナが動けずにいた時、アカネが手を叩き、ぱちんと大きな音を立てた。

 

「疾風剣」


 アカネのおかげで正気に戻った俺はスキルを発動する。


「はぁぁああああ!!」


 風を纏った剣で、片割れを斬りつける。

 同じくスキルを発動させたレイナがもう一方を斬りつけた。

 

地獄の業火フレイムインフェルノ!」

 

 俺達が後方に下がった瞬間に、ルナが再び大魔法を放った。

 

「……終わったのか?」


 奴らは呆気なく灰に変わった。

 あまりにも抵抗がなかったせいで勝利した実感がわかない。

 

 皆が皆、重苦しい雰囲気の中、黙り込む。

 だが、アカネが持ち前の明るさで、重苦しい雰囲気を切り裂いた。

 

「さぁ、帰るでござるよ! やる事はいっぱいでござる」

「あ、ああ……」

「くくっ、腕がなるでござる。世界を救うために悪役ぶるなんて」


 アカネの言う通り、やるべき事はまだある。

 それも、終わりの見えない防衛戦だ。


 俺は気持ちを切り替えて、騎士団にどう対処するかを頭で練り始めた。





 




 最後になった迷宮に立て篭もった俺達は、食糧を絶たれて窮地に陥っていた。

 

「はぁ……はぁ……カイル!」

「クオン……今度は僕が助けるから」

 

 騎士達を引き連れたカイルが、剣を構えながらも憐れむような目で俺を見ている。

 側にいる騎士達からも敵意を感じなかった。

 

「先にクオンと話していて良かった。感情を操作するなんて……許せない!」


 カイルの目に闘志が宿る。

 俺はその目を見て、勘違いを正そうと叫んだ。

 

「違うって言ってるだろ! 奴らは俺が倒した! この迷宮を守っているのは、邪神が復活するからで――」

「大丈夫、大丈夫だ、クオン」

 

 カイルは剣を構え、話はこれまでだと態度で示す。


「神聖剣」


 カイルの剣が思わず見惚れるほど光り輝く。

 カイル専用の3rdジョブ『勇者』のスキルだ。


「カ、カイル……」


 カイルは的確な判断で、まずは回復役であるカレンを叩いた。

 倒れたカレンは騎士達に取り押さえられ、戦線から引き離されてしまった。


 カレンがいなくなった俺達は、体力が少ない順に倒れていく。

 ルナ、そしてアカネ……。

 最後に立っていたのは俺とレイナだけだった。

 

「僕は行きます。クオンは操られているだけなので、くれぐれも――」

「もちろんだ」

 

 騎士団長ケビンと数人の騎士を置いて、カイルは迷宮を進んでいく。

 

「クオン君。君には感謝しているんだ。だから――」

 

 ケビンは真っ直ぐ俺を見た。

 

「投降してくれないか? もちろん罪に問う気は無い。事情はカイル君や他の生徒達から聞いたからね」

 

 ケビンの言葉に嘘は無いのだろう。

 その証拠に、倒れた三人に騎士達は手荒な扱いはしなかった。

 

「レイナ……いけるな?」

「ええ」

 

 それでも俺は止まるわけにはいかない。

 立ち直ったカイルの善意が、惨劇の引き金になるなんて許せるはずがない。

 

「「疾風剣」」

 

 風で騎士達を吹き飛ばし、無理やり突破した俺達は、身体に鞭を打ってカイルを追った。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 カイル達は迷宮主と交戦中だった。

 騎士達は状態異常で倒れており、立っているのはカイルだけ……。

 このままではまずいと感じた俺はすぐさま加勢した。

 

「クオン――なんで!?」

「俺は正気だって言ってるだろ」

 

 迷宮主は大樹の化け物であるトレントの亜種。

 通常の三倍はあろうかという巨躯だが動きは遅く、倒し切らずに戦線を維持するのは容易だった。

 

「俺は正気だ。なぁ、信じてくれよ。操られているなら、加勢なんてするわけ――」

 

 トレントの相手をしながらカイルの説得を続けていると、その横を能面のような顔をしたレイナが通る。

 

「レイナ……?」

 

 肩を掴もうとした手をレイナはするっと避けた。

 

「レイナ――」


 レイナは剣を振り下ろす。

 その矛先はトレントではなく、迷宮核だった。


 呆然としていた俺の目に、壊れた核から溢れ出す黒いモヤが映る。


「おい、逃げろ! カイル!」


 そう叫んだ瞬間――。

 迷宮が轟音を鳴らしながら揺れ動く。


 俺は半ばパニックになりながらも、動かなくなったレイナを抱き抱え、狼狽えるカイルの手を引いて迷宮から脱出した。


「クオン……」


 外の景色を一目見たカイルは弱々しく呟いた。


「カイル、手を貸せ」


 俺は赤く染まった空を見上げながら、自分がすべき事を頭の中で整理していく。


「まずは王都を救うぞ。今ならまだ、被害は――」







☆あとがき☆

これにて二章完結です。

ここまでお付き合い頂いた変態どもありがとうございました。


評価、ブクマ等まだしていない変態の諸君は、評価、ブクマ等していただけると助かります。

変態作者が喜ぶだけなので、世界から変態を駆逐したい方はしなくて大丈夫です。


第三章ですが、しばらくお休み頂いてからの投稿になります。


別作品が放置気味な為、我、ノクターンに帰る。

ノクターンのエロ小説も読んでくれたら変態が蔓延ります。

ペンネームは「ロマンシング滋賀」なので、変態諸君よろすこ。

 

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俺のヒロインが変態すぎる 〜ストーリーから解放された悪役はスローライフを夢見る〜 ロマンシング滋賀 @dainadan

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