にゃんにゃん
レイナが調子を取り戻した翌日。
騎士団の宿舎に赴き、学園迷宮の解放を報告した俺は、騎士団長ケビンの言葉に驚かされた。
「いやぁ……優秀な助っ人が来てくれてね」
残り四つの迷宮のうち、既に騎士団が二つ攻略していたのだ。
(優秀な助っ人……カイルだよな)
カイルが立ち直り活躍しているのは嬉しい。
だが、全ての迷宮を解放してしまえば、邪神が復活するので素直に喜べない。
(止めるか? いや――)
予想外ではあるが、迷宮はまだ二つは残っているのだ。
まずは3rdジョブを取得し、分校の敵を葬る事を優先しても問題ないだろう。
「我々は現在攻略中の迷宮に戦力を集中させているから、攻略は時間の問題だと思う」
「そう、ですか……」
「クオン君達も加勢してくれると助かるのだが?」
騎士達の目があると、自由にレベリングするのは難しい。
そう考え、しかめ面になっている俺を見てケビンは苦笑した。
「まぁ、仕方ないか……君達には因縁があるからね」
「……やっぱり、助っ人はカイルですか?」
「そうだ」
カイルとの間に既に因縁はない。
だが、話が都合の良い方へ転びそうなので訂正はしなかった。
「ギクシャクして連携が疎かになっても困るからね。クオン君達は残った迷宮をお願いしても良いかな?」
「良いのですか?」
「ああ、多少は余裕が出来たからね。我々が合流するまでに心の準備をしておいてくれ」
ケビンは俺達に解放までは期待していないようだ。
合流するまでに、少しばかり調査でもしておけば文句もでないだろう。
(好都合だな)
なんとか解放までに3rdジョブは取得できそうだが、問題はその後だ。
分校に邪神――。
問題が山積みで頭が痛くなる。
スローライフに戻れる日がいつになるのか見当もつかない。
☆
おそらく最後になるであろう迷宮は、王都から少し離れた森の中にあった。
植物系のモンスターが多く、状態異常を引き起こすスキルが厄介だ。
だが、俺達には回復魔法が使えるカレンがいる。
カレンの活躍もあり、レベリングは順調に進んだ。
「……なんで」
遂にレベル60になったルナは呆然としていた。
「お、おい、大丈夫か?」
肩を叩いて反応を伺ったが、ルナはぶつぶつと独り言を呟くだけで、返事はない。
レベリングの目標を達成した俺達は一旦部屋に戻った。
「……なに?」
どう声を掛けるのが正解かわからず、じっと見つめていると、キレ気味のルナにキッと睨まれた。
「いや、元に戻って良かったなぁって……」
頬を真っ赤にして俯いたルナは、肩をプルプルと震わせる。
皆が皆、刺々しいルナに触れられない中、レイナだけは普段通りルナに話しかけた。
「今日は猫カフェの日ですけど、どうしますか?」
レイナに悪気はない。
ただただ空気が読めていないだけだ。
レイナはより一層ぷるぷるするようになったルナを見てきょとんとしている。
「……どうする?」
なんとか妹の失態を挽回しなければと焦った俺は、気付いた時には追い討ちをかけていた。
「ふ、ふしゃー!! ――ち、違うから。今のは猫じゃない」
癖になっていたのか、猫真似で威嚇してきたルナは、早口で言い訳する。
「にゃっ!」
レイナは何を思ったのかルナに向かってにゃんにゃんしだした。
その表情を見るに、茶化しているわけではなく、心配して励ましているようだ。
「……やめて。正気じゃなかったの」
「ルにゃさん……」
「レイにゃ……」
レイナに釣られてにゃんにゃんしてしまったルナを見て吹き出しそうになった俺は顔を逸らす。
「クオン……こんな事になるなんて聞いてない」
ジト目で睨んでくるルナは、今にも殴りかかってきそうな雰囲気だ。
「俺も知らなかったんだよ……」
「……許さない」
ルナはぷるぷるしているし、レイナはにゃんにゃんしている。
それを眺めるアカネとカレンは、苦笑するばかりで助けてくれそうな様子はない。
「か、可愛かったからセーフって事で」
「……もうやだ」
不貞腐れたルナはベッドに潜って丸くなった。
トントンと肩を叩かれた俺は、振り向いてレイナを見る。
「にゃっ」
レイナは顔の横に両手を掲げて拳を握る猫のようなポーズを取っていた。
おそらく、俺がにゃんにゃんしていたルナの事を可愛いと言ったので、自分もにゃんにゃんして可愛いと言われたいのだろう。
「レイナは可愛いなぁ……よしよし」
「んふっ」
レイナは満足げに微笑み、俺の膝の上で丸くなった。
「クオン」
「どうした?」
カレンに声を掛けられ振り返る。
「にゃっ――ち、違う。やっぱり今のは忘れて」
猫ポーズを取り、羞恥で自爆したカレンは、耳まで真っ赤にして部屋から逃げるように去っていった。
「どうしたんだ、あいつ……」
「もっと猫に成りきらないと駄目です。ルにゃさんがそう言っていました」
カレン猫を批評するレイナの言葉が耳に届いたのか、ルナは布団越しでもわかるくらいに、身体をぷるっぷる震わせていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます