謎理論
俺達は午後の講義をサボって部屋に戻った。
ルナとアカネは人目を気にしていないようだったが、俺はどうしたって気になってしまう。
それに、学園は後しばらくで休校になるので問題ないだろうという考えも頭にあった。
原作では第一章の終幕――カイル対クオンの戦いを最後に学園は臨時休校になる。
理由としては、活性化したダンジョンが敷地の中にある学園は危険地域に指定されるからだ。
「クオン、クオン」
しばらく噛みついた後、落ち着きを取り戻したルナが、表情を曇らせて俺の名前を呼ぶ。
「ごめんね? ほら、アカネも」
ルナはそう言った後、未だに匂いを嗅いでくるアカネを引き剥がす。
ちょこんと正座した二人は、上目遣いで俺の顔色を窺っていた。
「別に構わないよ」
正直、美少女二人に迫られるのは嬉しいからな。……それ以上に羞恥を感じるから、せめて人目は避けたいだけだ。
二人はほっと息を吐いた。
その隙をついて、体が空いた俺の胸元に、レイナがすっともたれかかってくる。
「よしよし、レイナ。クッキー食べるか?」
「クッキー? 食べます」
レイナは無邪気な笑みを浮かべている。
容姿とは裏腹に子供っぽいレイナは、ついつい甘やかしたくなる愛嬌がある。
「うーん、うーん……」
ルナが俺達の様子を見ている。
その表情は少し不機嫌だ。
「いくら兄妹だからってべたべたしすぎ」
「まぁ、そうだよな……」
ルナやアカネとは違い、レイナからは異性として意識されているという感じはしないので、ついつい距離が近づいてしまう。
「兄さん、このクッキー美味しいですね」
俺とルナのやり取りを気にする事なくクッキーを美味しそうに頬張っている。
その姿はどこまでも無邪気で、だからこそ、ルナもあまり強くは言わないのだろう。
「……おいで?」
難しい顔をしていたルナは、どうにか俺からレイナを引き離したいのか、自分の膝をぽんぽんと叩いてそう言う。
レイナはきょとんとした顔をして、じっとルナを見つめている。
「わ、私はクオンの恋人だからレイナのお姉ちゃん。お兄ちゃんに甘えるならお姉ちゃんにも甘えないとおかしい……はず」
きょとんとするレイナを見て恥ずかしくなったのか、ルナは物凄く早口で謎理論を展開する。
「そうでしたか」
レイナはニコッと笑ってルナの膝を枕にして寝転ぶ。
本当に来ると思っていなかったのか、ルナは少しソワソワしだした。
「撫でてやれよ」
俺がニヤニヤしながらそう言うと、ルナはキッと睨んできた。
だが、レイナがじっと見つめていることに気づいて、恐る恐るといった様子で頭を撫でだす。
「お姉ちゃん……」
「な、なに?」
「気持ち良いです。ありがとう」
「……どういたしまして」
嬉しそうに笑うレイナを見て、ルナは照れた様子で微笑む。
俺がより一層ニヤニヤしながら二人を眺めていると、視線に気づいたルナが顔を真っ赤にした。
「次はいつレベル上げするの? 全然、遊び人になんてなれないけど」
ルナは無理やり話題を逸らした。
あまり揶揄いすぎると後が怖いので、その話題に付き合う事にしよう。
「しばらくは休みだな。レベル20止めしないと遊び人なれないし」
レベル20で一定期間、ジョブに就かないのが遊び人になる条件だ。
その一定期間を縮める方法はないので、待つことしかできない。
「どれぐらい待ってれば良いの?」
「さぁ……?」
ゲームと現実では当然だが時間の流れが違う。
どれだけ待てば良いのかわからない、というのが正直なところだ。
「むぅ……」
「まぁ、大丈夫だって」
ルナの不安もわかるが、今まで原作知識が当てにならなかったことは無いので、信じて欲しいところだ。
「レイナはルリの事は知ってるのか? 同じ学校からの転入だろ?」
空気が重くなりそうだったので話題を変えた。
ルナも深く追求する気はなかったのか、レイナの方へ意識を向けた。
「ルリ、さん……ですか……」
「もしかして、何かあったのか?」
レイナの反応から、あまり触れてはいけない関係性なのかと思ったが、レイナはふるふると首を横に振った。
「いえ、そもそもルリさんが誰なのかわかりません」
「同じ学園に通っていたのに?」
ルナが首を傾げながらそう言う。
「はい……」
その後もルナが分校について色々と聞くが、レイナの答えはどれも曖昧なものだった。
原作には無かった分校の情報が得られればと考えていた俺としては少し残念だが、話す度に困り顔になっていくレイナが見ていられないので、やんわりとルナを止めた。
「分校なんてどうでも良いだろ。ほら、レイナ。クッキー食べるだろ?」
「はいっ」
アカネが記憶を失った原因の解明と、謎の分校の情報収集。
やる事は多い。だが、一番不安だった妹との関係性は良好なので、少しは気が楽になりそうだ。
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