知らない妹

 武器を買ったその足で町外れのダンジョンに向かう。

 その道中、二人は森の中を進んでいく俺を見て首を傾げていた。

 

「どこに向かってるの?」

「未発見ダンジョン」

 

 一般人の俺達が入れるダンジョンは、既に迷宮主が討伐されている、比較的安全なものに限られる。

 まだ攻略されていないダンジョンは王国兵が見張っていて入れないのだ。

 

「解放ダンジョンは効率が悪いからな……」

 

 ダンジョンは日々進化していく。

 現れるモンスターも強くなり、経験値も増える。

 だが、その成長は迷宮主が討伐された時点で止まるのだ。


 一般人が入ることを許可されているダンジョンは、

 全て速やかに迷宮主が討伐されたダンジョンで、現れるモンスターが弱すぎる。

 もちろん経験値も少なく、レベリングするには時間ばかりが掛かって効率が悪い。

 

「未発見のダンジョンを見つけるなんて凄い……けど――」

 

 ルナはじとっとした目で俺を睨む。

 

「国に報告しないとダメ。犯罪者になるよ?」

「ああ……うん……」

 

 未発見ダンジョンを発見した際は、速やかに国へ報告するよう法で定められている。

 ゲーム感覚でいた俺は気にしていなかったが、犯罪行為だと咎めてくるルナのような感覚が一般的なのだろう。

 

「二人が20になるまで目を瞑らないか? それぐらいの期間ならダンジョンも成長したりしないからさ」

「うーん……」

 

 ルナは考える素振りを見せているが、忌避感を隠せていない。

 これは断られる。そう思ったが、思わぬところから援護が入った。

 

「ルナ殿! たまには悪い子になる事も必要でござるぞ!」

 

 アカネが目を燦々と輝かせてそう言った。

 武器屋の一件がアカネの妙なスイッチを押してしまった気がする。

 

「……どれぐらいで20になる?」

「一週間あれば十分だな」

「わかった。終わったらすぐ報告だからね」

 

 ルナは渋々といった様子で頷いた。

 それを見て、アカネはグイッと俺の手を引く。

 

「いくでござるぞ、師匠!」

「お、おう」


 俺達は妙にテンションの高いアカネに先導され、ダンジョンの内部に向かった。

 




 


 ダンジョンに通い始めて一週間後には予定通り二人のレベルを20まで引き上げれた。

 勿体無いとは思ったが、国への報告も済ませたので、時期にあのダンジョンは攻略されるだろう。


「まぁ、良いか」


 どうせ、ストーリーが進めば、今は安全とされている開放ダンジョンの危険度が跳ね上がる。


 六師外道の狙いは取り残された迷宮核に人為的に新たな迷宮主を宿らせる事なのだ。

 そしてダンジョンを急激に成長させ、世界を混乱へと誘う。

 

 六師外道が迷宮核に迷宮主を宿らせる事に成功し、ダンジョンが活性化している事が判明するまでが第一章だ。


「はぁ……」

 

 終盤を思い出すと気が重くなる。

 第一章のラスボスは何を隠そうクオンなのだ。

 アースドラゴンの討伐で名声を上げたカイルの事が気に食わず、序列戦を仕掛けたクオンは、強くなったカイルに返り討ちにあい、序列一位の座を譲る事になる。

 

(まぁ、大丈夫だよな。カイルへの怒りは無くなったままだし……)


 クオンはカイルに敗北した事をきっかけに闇堕ちし、カイルへの復讐の為に六師外道の勧誘に乗る事になる。

 

 だが、今の俺は既に序列一位ではないし、序列戦を仕掛ける気なんてさらさら無い。

 カイルへの怒りも消えたままなので、少し不安ではあるがおそらく大丈夫だろう。


 第二章は、活性化したダンジョンの攻略が王国兵の手に負えず、アースドラゴンの討伐で名声を上げたカイル達に白羽の矢が立ち、ダンジョンに挑むというストーリーラインだ。


(全部罠だけどな)


 カイル達は七つあるダンジョン全ての迷宮核の破壊に成功する。

 だが、それが平和に繋がるどころか、崩壊への引き金になるのだ。


 全く酷いストーリーだと頭が痛くなる。

 カイル達も、六師外道も、ラスボスである邪神の掌で泳がされているだけなのだから。


「はぁぁ……」

「どうしたの?」

 

 ルナはいつものように隣に座り、ため息を吐く俺の顔を覗き込んできた。

 

「何でもないよ」


 俺がそう言うと、ルナは教科書を広げた。

 優等生のルナは俺とは違い予習復習をしっかりするタイプだ。

 

「師匠、おはようでござる」


 アカネは小走りで駆け寄ってきた。


「ああ、おはよ――」

 

 アカネは何食わぬ顔で俺の隣に座った。

 左から、アカネ、俺、ルナの順だ。


 未発見ダンジョンに潜った日を境に、アカネは俺との距離を積極的に詰めるようになった。

 ルナに見えないように俺に身体をくっつけてきたりと、段々とスキンシップが激しくなっている。


(どこで得意の隠密の技を使ってるんだよ……)


 やんわりと交わしてはいるが、アカネはニコッと微笑むばかりで止めようとしない。


「アカネ、頼んでいた調査は済んだか?」


 このままでは不味いと思い、ルナにも聞こえるようにアカネに話しかける。

 ルナの注意が向いた事で、アカネはスッと俺から距離を取り、何事もなかったかのように話し出す。


「該当するのは師匠の妹殿ぐらいでござるな!」

「……妹?」


 俺がアカネに依頼した調査内容は、俺の代わりにカイルの前に立ちはだかる可能性がある者がいないかだ。


 ルリというルナの代わりがいるのなら、俺の代わりがいてもおかしくない。

 だが、俺はアカネの調査結果を聞いて、首を傾げる事になった。


「へぇ、クオンって妹がいたんだね」


 ルナは興味深そうにそう言うが、クオンに妹がいるなんて聞いたことがない。

 

「……いないけど?」

「……へ?」

「……あれ?」


 俺の言葉を聞いた二人は、ぽかんと口を開いて間抜けズラを晒した。


 

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