俺のヒロインが変態すぎる 〜ストーリーから解放された悪役はスローライフを夢見る〜
ロマンシング滋賀
学園編
ストーリーからの解放
「勝者、カイル・レーン!!」
審判員によるジャッジが、闘技場に鳴り響く。
この結果により、由緒ある「フランシスカ学園」の主席になったカイルは、天に向かって手を突き上げた。
「うおおお!!」
「きゃー、カイル様ぁ!!」
野太い声援も、黄色い声援も、一身に受けるカイルを見て、倒れ伏していた俺は、思わず笑みを溢した。
「怒りが……湧かない! やっぱりだ……っ!」
転生した頃から今まで俺を悩ませていた、何処からか湧き立つカイルへの怒りは既にない。
俺はカイルに負ける前にも負けた。
それもカイルのような主人公補正がある相手じゃない。一生徒に負けたのだ。
ゲーム時代の俺「クオン・ブラックヒル」ならあり得ない話だ。
天賦の才能を持って生まれ、その力で全てをねじ伏せてきたクオンが、一介の生徒に敗北を喫するなど。
だが、クオンの中身は俺だった。
転生したらゲーム世界の悪役だった件とでも言えば良いのだろうか……。
その日俺は、如何にしてバッドエンドを回避するかばかり考えていた。
何故か湧き立つカイル(主人公)への怒りは抑えられそうにない。
いつ自分がカイルに刃を向けてもおかしくないと自覚して震えていた。
死ぬのは怖い。だが、このままでは俺が死ぬのはゲーム知識で知っていた。
死に怯える俺は周りが見えていなかった。
俺はこの時、学園で模擬戦をしていたというのに、まったくと言っていいほど集中していなかった。
そんな俺を、対戦相手の木剣が襲う。
それでも俺はぶつくさと世界に文句を垂れるだけで、木剣に気付きもしなかった。
痛みと同時に気付いた時には既に遅く、意識は遠のいていく。
医務室で目が覚めた俺は、無敗ゆえに最強と称えられていたその看板を下ろすことになる。
そして、それと同時に――
俺を悩ませ続けた湧き立つ主人公への怒りが消えたのだ。
「僕の勝ちだ、クオン!」
倒れ伏す俺に切っ先を向けて吠えている主人公を見ても怒りは湧かない。
何故消えたのか明確な答えはなく、これは予想だが、無敗ではなくなった事が関係していると思う。
この後にくるはずだったクオンと主人公の対立は、無敗ゆえに傲慢になっていたクオンに主人公が勝つ事から始まるからだ。
「あははっ……そうだな。おめでとう」
この仮説が合っているのか分からない。
ただ一つ分かることは、自分が自分で無くなりそうな怒りは既に無く、もう大丈夫だと思えたことだけだ。
だから、こうして笑うことが出来る。
「じゃあな、主席」
転生してから悩まされ続けていた、得体の知れない怒りから解放された俺は、負けたというのに笑顔でその場を後にした。
わざと負けたからというのもあるが、たとえ本気を出して負けていたとしても、この気持ちに大きな差異はなかったはずだ。
俺は枷から解放された。
これで、悪堕ちすることもないはずだ。
つまり俺は死なない。死なないのだ。
「くくっ……学園なんかやめて、ストーリーとは一切関係ない田舎にでも移り住もうかな」
そして、その田舎でスローライフと洒落込むのも悪くない。
ゲーム知識で強化しているうえに、素のスペックが高いクオンの身体なら、田舎暮らしにもすぐに順応できるはずだ。
「そうだなぁ……とりあえず王都から出て……ん?」
そんなことを考えながら闘技場を出ると、じっと俺を見ている少女に出会した。
「ああ……どうした?」
少し眠たそうな目をしている、青い髪が目を引く小柄な少女の名前は『ルナ・フォード』
カイルを中心に繰り広げられる物語の主要人物の一人。簡単に言えば、カイルハーレムの一人だ。
「……あなた」
ルナはぐいっと顔を近づけてきた。
少しドキッとして後ずさった俺に、ルナが淡々とした口調で告げる。
「順位戦、本気出してなかった。……なぜ?」
俺はこの日から、この無口な少女に付き纏われるようになる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます