???

 逃げるようにクオン達から離れたアカネは、名誉を挽回しようとすぐに行動に移した。

 

(妹殿の詳細な情報と、後は……)

 

 アカネはクオンがぼそっと呟いた言葉を思い出す。

 クオンはレイナやルリといった転入組が所属していたフランシスカ学園の分校が気になる様子だった。


 妹と分校。その二つの調査を済ませて報告し、そちらに気を向かせる事に成功すれば、今日の事は有耶無耶に出来るんじゃないかとアカネは考えた。

 

「よし、早速調べに行くでござるよ」

 

 アカネは情報収集の為に、レイナと関わりがある人物を調べる。

 

 1stジョブ取得前から忍者としての才能の片鱗を垣間見せていたアカネが、今ではジョブの補正を受ける本物の忍者になった。

 もちろん、隠密能力は更に磨きがかかった。レベル差のあるクオンですら本気を出せばだし抜けるほどの能力だ。

 

 だというのに、レイナの情報を全く拾えなかった。

 このままでは埒が開かないと感じたアカネは、試しに分校出身のもう一人、ルリの事も調べたがうまくいかない。

 

(誰も二人のことを知らないなんてあり得るでござるか……?)

 

 得体の知れない不安がアカネを襲う。

 アカネは頭を振ってそれを振り払い、一旦二人のことは置いて、分校の調査に入る事にした。


 調べた住所には確かに分校があった。

 アカネはほっと息をついたが、侵入しようと周辺を調べているうちに再び不安に襲われる。

 

(警備が厳重過ぎるでござる……)

 

 大勢の警備員を配置するなんてわかりやすい警備をしているわけではない。

 だがそれは上手く隠されているだけで、至る所に侵入者を監視する目がある事がアカネにはわかった。


 引くべきだと意識下の意識が警鐘を鳴らしている。

 それでもアカネは前へ進む。

 クオンに良い報告をして名誉を挽回したい。その一心だった。

 

(ここがまだ薄いでござる)

 

 アカネは木々で周辺からほんの少し死角になっている柵をよじ登って侵入に成功した。

 隠密に特化したアカネだからこそ出来た侵入方法だ。


 アカネは音に紛れる為に賑やかな場所を探すが人影すら発見できない。

 分校の内部は喧騒とは無縁の場所だった。


(分校に何やら秘密があるのは確定でござる)


 外から見る分校は、監視の目が多過ぎる以外は普通の学園だった。

 だが、内部に侵入してしまえば、外から見る姿が全てハリボテだという事に嫌でも気づく。


 アカネは複数ある建物の中の一つに目をつける。

 見た目は唯の校舎だ。だが、敷地の広さに対して不自然なほど小さな校舎で、その一つだけ誰かしらが通った跡がある。


(これは……)


 校舎に侵入したアカネは地下へと続く隠し通路を見つけた。


(これなら絶対に師匠の気を引けるでござる!)


 アカネは名誉を挽回の機会を得たことで、少し興奮気味だった。

 明らかに怪しい場所だというのに、引くという選択肢があかねの頭から抜け落ちていた。


 だが、アカネの隠密能力は本物だ。

 見つかることなく隠し通路を進んだアカネは、人の気配のする部屋を見つけた。


 アカネはドアから入るのではなく、天井裏から中を探る事にした。


「―――ッ!!」


 天井裏から中を見たアカネは、侵入者という立場だというのに、衝撃で叫びそうになった。


(なんでござるか……あれ。気味が悪いでござる……)


 咄嗟に手で口を覆って事なきを得たアカネは、再び部屋の中に目を向ける。


 そこには大量に配置されたカプセルがあった。

 それだけでも異様な光景だというのに、その中には妙な色合いの液体が入っている。


 ぽこぽこと泡立つそのカプセルで何が培養されているのかはアカネにはわからない。

 だが、良からぬものであろう事は察した。


(あれは……)


 カプセルを眺めながら、表情に乏しい二人組が雑談している。

 アカネはその雑談を拾おうと耳を澄ませた。


「既に二人か。この世界も失敗かもしれないな」

「全く……あのお方は寛大過ぎる。このような事までして救いを与えるなど――」

「不敬だぞ」


 アカネには会話の意味が理解できなかった。

 これ以上は意味がないと悟ったアカネは立ち去ろうとするが――。


「また不具合か」

「そのようだ」


 二人の目がアカネを捕らえる。

 アカネは自身の隠密が当然のように破られた事に動揺しながらも、身体に鞭を打って逃げ出した。


 だが、逃亡は長く続かない。

 誰も居ないはずの場所から頭部に衝撃を受け、意識が遠のいていく。


「かはっ……」


 アカネは遠のく意識の中、二人組の会話を聞いた。


「どうする? 負担は大きいが、また代えを作るか?」

「まだ致命的ではないだろう。記憶を消して様子を見よう」


 意識を失ったアカネは、部屋に運ばれていった。

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