わかりあえないことがら。

 親の終活の一環で保険契約の整理をしに帰省するかたわら、エホバの証人の求道者の古い友人と飲む機会が。


 ちなみに彼女も私もいわゆる宗教二世で、彼女の実家はなんと日蓮宗(笑)。

 彼女は結婚を機に、パートナーの実家が入信しているエホバの証人の聖書勉強会に参加するように。一方、私は幼児洗礼を受けたので、「数の上ではクリスチャン」に自動的にカウントされるものの、入国審査カードのRELIGIONの欄にChristianと書くのはためらわれるけれど、Buddhistかと言われればありゃー宗教というより思想だと思ってるし、かといってShintoではないし…気持ち的には「キリスト教に親近感を感じる不可知論者」というところ。


 彼女は実家の宗派から離れ、私の方は親がもともとそれほど熱心な信者ではなかったようで(笑)、今は教会からは完全に離れているのですが、双方、子供の頃に明確な“宗教”という基盤があったからか、この手の話は非常にしやすい。特に今はキリスト教という共通項があるので話が早い。


「毎週2回、聖書の勉強会に通ってるんだけど」

「うん。前に言ってたやつね」

 居酒屋でこんな切り出され方をしたら、ふつう勧誘だと思われるだろう。

「そこに、20年くらい通ってるおばさんがいてね。この間その人が言うには、『わたしはお釈迦様もエホバもどっちも信じてるの!』って…」

「そっ…それは…一神教的には絶対マズいんじゃ…。特にあなたのとこは…」

「マズいよねえ…。ていうか、20年通っててそれだからね…一体何を学んできたんだって」

「そんなこと言ってるからザビエルの心が折れて帰っちゃうんだよ! 日本人恐るべしってやつだ…。で、その人は洗礼受けてるの?」

「いや受けてない」

「受けてないならまだセーフじゃない?」

「だよねー。洗礼受けた後に言ってたら完全アウトだよ」


 かくいう彼女も洗礼は受けていないし、私も堅信礼(幼児洗礼後、分別のつく年齢になった時に自分の意志で信仰を表明すること)は受けていないのでこんなことが言えるんですが。


 似非エセカトリックの私の目からしたら、エホバの証人には「この異端者が!」と思う点はありますし(実際に彼女に面と向かって口にしたこともあるので、これはご愛嬌ってことで・笑)、反対にエホバの証人の教義からしたら私は「異教の徒異邦人」なので、本当なら一緒にご飯も食べられないはず。それでも友達やってるのは…こういう話をするのが楽しいから。日本人における宗教観とは? とか、信仰とは? とか、神話から文化人類学、オカルトまで、日常会話では決して話題にされないか、出したが最後ドン引きされるような話題もどんとこい。

 ま、「あなたが狂信的な信者になってこういう話ができなくなったら、その時は友情もおしまいだねー」と言い合っているんですが。その日が来ないことを祈ろう(何に?)。


「信仰というものを学んだ今なら、TRPGのクレリック職をもっと真に迫る形でプレイできる自信があるんだけどな~!」と彼女は悔しがっていましたが、D&Dダンジョンズ&ドラゴンズなんかやってる時点で教義に反してると思うんだけど(笑)。


 しかし。また彼女が言うのです。

「たまにアメリカ本部からエラい人が来るんだけど、その人たちの言ってることがわからないんだよね」

「…? だって同じ宗派でしょ? 聖書の勉強してるんでしょ?」

 自慢じゃないが、私が聖書をマトモに読んだのは、2022年に〈神慈悲〉を書き始めてからだ。

「そうなんだけどさ…なんつーか、向こうの人って、当たり前のように聖書をベースにした話をしてくるんだけど、そこが日本人と違うっていうか…」

 …ああ、そうか。

 日本人が無意識に「無宗教」と言う時、祖先崇拝やアニミズムや神仏習合といった歴史文化の背景に気づいていないように、欧米人も無自覚にキリスト教的文化にどっぷりハマっているということなのではないか、と思いました。双方ともあまりに深くハマっていて、異なる文化に出遭って違いを認識したところで、おいそれとその影響から抜け出すことはできない。

 同じエホバの証人という共通項があっても、本当に同じ感覚でいるのかはわからない。


 それはキリスト教という大きなくくりでも同様で。

 何かの拍子に聖体拝領の話になり、

「それで初聖体は済ませたんだけど…」と言うと、

「ちょっと待って、聖体って何」

「え、ホスチアだよ、“キリストの血と肉”はわかるよね…?」

「ああ、酵母なしのパン」

「そうそれ。カトリックウチのはウエハースみたいなやつでね。司祭は大きいやつを祭壇の上で割るんだけど、信者がもらうのの大きさはこれくらい(とOKサインを作る)で…赤ちゃん用の味の薄い煎餅せんべいか、オブラートを10枚くらい重ねたような厚みと味の…」

「え、待って待って、オブラートって、それっておいしいの?」

「おいしくないよ」(この会話、〈神慈悲〉の中でしたな…?)

「おいしくないんかいw」


 私はプロテスタントの礼拝に参加したことがないので、あちらさんがどうしているのかは知らないのですが、共通の知識がある者同士でこれなんだから、そりゃフツーの日本人と気軽に“宗教”の話はできないだろうなあ、と思いました。実際、宗教のしの字を口にしただけですごい勢いで「わたしにはわからないから!」と会話のシャッターを閉じる友人もいて、それはそれで逆に何かあるの? と勘繰ってしまうくらいなんですが。


 とはいえ真面目な話ばかりしているわけではなく。

 この友人、共通の友達に腐女子がいるのと、私がいるので(笑)、一応BLもたしなめばTLも読むし、成人男性向けエロ小説も読む。しかし御本人は腐女子ではなく、

「男の和姦なんて何が面白いのかわからない。ノンケの男をるのが至上」

 みたいな、それって人としてどうなのと思うくらいTOP OF THE TOP超男前な発言をする人でもある(笑)。

 まあ私も別の腐女子の友人に、「両片思い? なにそれおいしいの?」と返す人間なので、他人ひとのこといえませんが。

 ということで、次は「わかりあえない性癖」の話でもしようかなー。

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