恐るべきダメ男 『オスカー・ワイルド 「犯罪者」にして芸術家』①
――いや、何も言うまい。と思っていた。
私は「作者と作品は別」と考える人間だし、英文学に深く関わったことなどないし、ましてや文学部出身でもない。〈ボウジー〉の名を知ったのは(なんとも!)二次創作においてだったし(しかも私が書いたわけでも何でもない)、その時も「…誰?」だった。
それに…私が創作上の姿勢を
それなのに、宮崎かすみ著『オスカー・ワイルド 「犯罪者」にして芸術家』を読んだとき、思わずこう呟かずにはいられなかった――「何このダメ男」と。
オスカー・ワイルド(1854-1900)の名は、英文学好きか、演劇好きか、ヴィクトリア朝愛好家か、あるいはBL好きなら一度は目(耳)にしたことがあると思われる。かくいう私でさえ、彼の作品に全く興味がなかった時代から、「同性愛の罪で牢屋に入れられたことのある人」くらいの認識は持っていた。なぜなら、BL、もといLGBT(当時はそんな呼ばれ方はしていなかったが)の歴史をちょっとかじると、近代においてほぼ100%この人の名前が出てくるからだ。同じく私は読んだことはないが、竹宮恵子『風と木の詩』が、日本におけるBL史で絶対に外せないものとしてあちこちに顔をのぞかせているように。
学生時代は成績優秀で実際に才能もある唯美主義者、お金のために戯曲を書いてそれが当たる――という、
たとえば「道徳的な本とか不道徳な本なんてない。本は、よく書けているかそうでないかのどちらかだ」という彼の言葉は、何を隠そう私がエロ小説(と言って悪ければ、官能小説)を書く時の心の支えになっている(笑)。
しかし。
そもそも何でそんなハイスペ男が、いかに当時は犯罪扱いだったとはいえ刑務所にブチ込まれる羽目になったのか? そこまでするほどの恋だったのか? 天才作家ワイルドをそこまで追い込んだ〈ボウジー〉とは――?
評伝は綴る。
ワイルドは金遣いが荒く(この時点で私の脳裏に危険信号が灯る)、結婚後も経済観念がなく妻の祖父の年金に頼り…と。(才能があっても)結婚してはいけない男、不幸な結婚生活まっしぐらが目に見えるよう。
おまけに、旦那様はゲイだったのです…。
いや、奥さんとの間に息子ふたり作ってるし、両方イケたんだろうけど。
恋多き男なのはまあいいとして、理解できないのは問題の〈ボウジー〉、ワイルドが牢屋に入ることになった元凶を作ったお相手である。
〈ボウジー〉ことアルフレッド・ダグラスはクィーンズベリー侯爵の三男として生まれオックスフォードに入学、ワイルドの後輩にあたる。
『わがままで気まぐれなうえに、途方もない浪費家で虚栄心が強く、ダグラス家に噂されている狂気の遺伝子を
何がダメって、色恋に金が絡むとロクなことがないのは、昨今のロマンス詐欺を見るまでもなく昔から変わらんのである。いわんや結婚においてや。これを「BLだから♡」で寛恕できる神経は、生憎私には無い。
写真を見る限りでは、ダグラスはあんまり絶世の美青年!てカンジもしないしなあ…まあ私の主観ですけれども。
だって、それって人としてどうなの、と思うのは、自分が病気になった時、
『ワイルドがつきっきりで看病してダグラスが回復すると、今度はワイルドがインフルエンザに
(中略)
夜中の三時ごろ水を飲みに来たワイルドと遭遇したダグラスは、聞くに耐えない
そしてその後の手紙にはこう書くのだ。
『「祭り上げられていないときのあなたなんてつまらない。この次あなたが病気のときは、ぼくはすぐに退散することにします」
「なんと下品な人間性を表わしていることか。なんたる想像力の欠如」を示していることかとワイルドは嘆く。この手紙を読んだワイルドは、こんな人間と付き合ったことで自分の人生が取り返しのつかないほど汚され辱しめられたように感じた。』
そりゃそうだろう、と誰しも思うに違いない。同じように自分勝手ともいえるワイルドにさえ、こんなまっとうな思いを抱かせてしまうダグラス恐るべし! こんな相手と付き合っていたら、十人が十二人とも別れるだろう、と思うでしょう?
…ところが、運よく(?)ダグラスの兄が自殺する事件が起きたため、打ちひしがれたダグラスを放っておけず、ワイルドはダグラスを再び招き入れてしまうのだった…。この時点で、私の「ワイルド=ダメ男」が確定。
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