恐るべきダメ男 『オスカー・ワイルド 「犯罪者」にして芸術家』②
ご本人は草葉の陰で「好き勝手書きやがって!」と憤慨しておられるかも知らんが、ワイルドほどの天才でも何でもない小市民の私は、小悪魔なボウジー君にも、彼に振り回されるワイルド可哀想、でもなく、「息子がグレたのはお前のせいだワイルド!」と怒り狂って、「男色者」のスペルをミスる、クィーンズベリー侯爵の方に何倍も感情移入してしまうんである(笑)。それから、ワイルドが投獄された後、子供たちのために何とか年金を確保しようと奮闘する奥さんにも。
かといってワイルドの人となりに全く共感できないかというとそうでもなく、彼がクィーンズベリー侯爵を相手取って起こした名誉棄損の裁判でのやりとりなんかは心底カッコいいと思う。
『「しかし、『ドリアン・グレイ』の画家が抱く愛情や恋心をごく普通の人間が読めば、それがある倒錯的傾向を持っていると思うことはあるのではありませんか」
「ごく普通の個人が抱く見解など、私の知るところではありません」
一般読者への軽蔑をあらわにするワイルドに、カーソンは皮肉たっぷりに言った。
「しかし、そのごく普通の人々が本を買うのを止めたりしなかったではありませんか」
「もちろんですとも」
ワイルドは、役者が一枚上手であると言わんばかりににこやかに返答した。』
口先だけで才能のない奴はいるけど、
でもこの性格が仇になって、大陸へ逃亡する機会を逃し、収監されちゃうんですけどね…。
このギャップが、ダメ男と思われる
釈放後、イギリスにいられなくなったワイルドはヨーロッパ大陸をうろつき回るのだが、こんなことになってもまだボウジーとの縁は切れてない! どんだけの腐れ縁なんだ!
しかも金を送ってくれる友人たち(ワイルドは友人が多いみたいで、そこは尊敬)がヤメロと言ってもつきあい続ける。奥さんがいい顔してないのはもう想定の範囲内。
『(略)ワイルドはダグラスに宛ててこう書いた。
「ぼくが君のところに戻ることを皆、激怒しているが、彼らはぼくらのことが理解できないのだ」
「ぼくの破滅した人生を再建してくれたまえ。そうしたらぼくらの友情と愛は世間に対して新しい意味を持つことになるだろう」』
ではこれが世にも美しい純愛かといえば全然そんなことはなく、相変わらず浪費家のワイルドはダグラスに金をせびって彼を激怒させる…何なのこのバカップル。その話前にもしたよね?
ここまでくると私ももう、こいつらがどこまで行くのか腰を据えて見届けてやろうという、いっそ清々しい気分になってきたのだが、評伝はもうすぐ終わり、ワイルドは混迷のうちに死ぬ。
恋は思案の
渦中のふたりが私の常識の埒外で(特に金が絡むとダメ)、ため息ついて恐れ入るしかない。
複雑な交友関係とか細々とした事情とか、をぶった切って勢いのまま書いてしまったので、評伝の本文もそんな感じなのか?と思われたのなら、全くそんなことは無い。一読していただければわかると思うが、誤解のないよう本文を引用しているのだ。私が、たびたび出てくる金銭問題にひっかかっているだけで…。
著者も言うように、
『本書で取り上げたワイルドの人となりにがっかりした読者もいるかもしれない。』
というか、私のこの書き方のせいで、筋金入りのオスカー・ワイルドファンが激怒しないでいてくれるといいんだけど…。
でも本当に、ワイルドはおそろしいほどキレるのである。文学の才能が。それは彼の私生活のダメダメぶりを補って余りある。
てゆうか最初に言ったじゃん、「作品と作者は別と思ってる」って。
金のためかどうかはさておいて、曲がりなりにも文学を
私が震えあがるのはこの一文。
「二流のアーティストは必ずお互いの作品を讃え合う」――オスカー・ワイルド
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます