せんそう×フォークロア 『靴ずれ戦線 魔女ワーシェンカの戦争』
『ロシアの戦争と、古い歴史や民話神話両方に興味があるとこんな変てこな漫画を描きはじめるので要注意です』
と「あとがき」にある通り、速水螺旋人『靴ずれ戦線 魔女ワーシェンカの戦争①②』は、第二次世界大戦における独ソ戦(ロシアでいうところの大祖国戦争)と、スラヴの
え、何で小説サイトでマンガの話なんかするんだって? お前の推しだからって以外に?
推しだからというか、正直なところ私、ソ連推しだったことなんか一度も無いんですけど…。
大昔、『第2次世界大戦各国軍装全ガイド』(マルカム・マクレガー/ピエール・ターナー、並木書房)の原書を見つけて、日独米英ほぼ全て翻訳し、さあソ連にとりかかろうか、とした矢先、キリル文字((;゚Д゚)←これの「Д」の部分)の発音はわからねーわ、出てきた元ロシア語らしき単語が何を指しているのかも見当つかねーわであっけなく挫折して以来、おそロシアには足を踏み入れておらず…。
翻訳ってのは単にその言語が読めりゃいいってものではなく、
ま、別に悔いはありませんけども。背景知識を仕入れて再挑戦しようと思うほど、ソ連の軍服に愛は無かったので。
ですが、ソ連軍ファン、というのは一定以上いまして…私の元同僚(♀)もT34戦車が好きなんだよなあ…速水氏もソ連をモチーフにした別作品を描いていたりしています。
もう一つの要素のフォークロアについていうと、こっちも私、ポーランドより東はそれこそ通り一遍の知識しかなくてですね…『靴ずれ戦線』の中で描かれている、ルサールカ、ドモヴォーイ、キキーモラなんかは「あー聞いたことある」程度。
ちなみに、共産党員のナージャ――ナディア・ノルシュテイナ少尉(当時)〔*〕――から協力を要請されて赤軍に加わる主人公の魔女ワーシェンカ(ワシリーサ)は、“鶏の足が支える小屋”に住む魔女バーバ・ヤガーの弟子、という設定。
本来なら重なり合うハズのない世界を重ね合わせちゃったのがこの漫画(笑)。
3頭身から5頭身くらいの可愛らしい絵柄で繰り広げられる、基本一話完結方式の牧歌的なロシアのお化けと魔女のドタバタ劇…と、合間に挟み込まれる、東部のドイツ占領地におけるユダヤ人移送のシーン、両陣営のもたらす圧倒的な“死”のイメージは、克明に描かれていないだけに(そして、それについては歴史的な知識を
でもただ可愛いだけじゃないんだよなあ、というのが、
「第4話 バーンニク 風呂を借りる」で、
「まさか人間じゃないでしょうね?」と訊かれ、
「きょきょ 共産主義という妖怪ですッ/ヨーロッパを徘徊してますッ」
と答えるところなんて、
『妖怪がヨーロッパを徘徊している。共産主義という妖怪が』
(マルクス・エンゲルス「共産主義宣言」の冒頭)
ですし、
「第20話 巨竜とベルリン征服」で、聖ゲオルギイが
「竜退治ゆうたら俺の専門やろ」「マルクスも 能力に応じて働くゆうとるで!」と啖呵を切るセリフは…(笑)。
この他にも、「もしかしてこれは…」と思うような、民間伝承や奇書のエピソードがセリフ外に散りばめられているこの作品。
前々から言っていることですが、私はこの手の、作者がメタ的に読者に向けてウインクしているような――「ここに仕込んでおいた小ネタに気づく人は気づいて♡」――作品が好きなのです。
好きが高じて、別分野――宗教×BLなんて書き始めたりしちゃってますしね。混ぜるな危険。
もともと背景知識を持っていれば最初から楽しめるし、な~んとなく知っている、程度でも新しい発見があるし、どちらか(ソ連軍かスラヴの伝承かどっちか)しか知らなくても、おかげでもう片方の分野にとっつきやすくなりますし。少なくとも私はこれで、『声に出して読みづらいロシア人』と、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ著『戦争は女の顔をしていない』を買おうと思いました。
*話が進むごとに登場人物の階級が上がっていくのがこの話。最終的にはナージャは大尉に、ワーシェンカは曹長に昇進している。軍隊もののこういう細かいところ好き。
さらに言うと、ユダヤ系ロシア人のナージャが自分の名前を名乗る時の名字と、ドイツ人の魔女ディッケ・ベルタがナージャのことを呼ぶ際の名字の発音が違う! こういう細かいところが…(ry
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