When in Rome, do as the Romans do.
常々、「聖職者がサシで話してるからって、ホントにこんなに聖書から引用してばっかのセリフなんてしゃべんのかなー?」とギモンに思いつつ書き進めていましたが、そのうちに、江戸時代の
『(前略)このようにみてくると,英語文化はすぐれて‘引用の文化’(quotation culture / the culture of quotation)といえるのではないか.たしかに、英米人の会話・スピーチ・書物には聖書に限らず、諺や文学作品あるいは哲学書などからの引用が多い.英米の新聞・雑誌などにも,1か月の間に何回かは聖書に由来する見出し(headline)が見られ,日常性の中での引用が特徴的である.それに比べると太田道灌の故事の例などは知らず,今日の日本語文化は,本来の意味での生活に根ざした‘引用の文化’とはいえないのではないかと思う.(中略)英語の引用についてもう一つ最近の例をあげよう.1995年4月19日米国オクラホマシティの連邦ビル爆破テロで168名の命を奪った殺人犯マックヴェー(Timothy McVeigh)の処刑が2001年6月11日に,被害者の関係者や報道陣がなまの映像を通じて見守る中で行われたというショッキングな報道を覚えている方もおられることと思う.聞くところでは処刑前に最後のことばを求められたとき、マックヴェーは無言のまま次のような詩の一節を
I am the master of my fate: 我はわが運命の支配者,
I am the captain of my soul. 我はわが魂の船長(舵取り).
これはヴィクトリア朝の英国詩人・劇作家・批評家で、俗語辞典の編集者でもあったヘンリー(W. E. Henley)のInvictus(「不撓不屈の心」:1875)という詩からの引用である.このような場合に,このような犯罪者が,このような詩を(いつ,どこで,どのようにして覚えたのかは別にしても)引用したということに,私は欧米の引用文化の根の深さを改めて感じざるを得ない.』(寺澤芳雄 編著『名句で読む英語聖書 聖書と英語文化』「序文に代えて―聖書と英語(引用)文化」)
…ええ、私もそう感じざるを得ません(笑)。
〈Invictus〉は2009年のアメリカの伝記スポーツ映画〈インビクタス/負けざる者たち〉の中で、モーガン・フリーマン演じる、南アメリカ共和国で初の黒人大統領となったネルソン・マンデラが、反政府活動家として獄にいた際の心の支えとしていた詩としても出てきています。こんなところにまで。
――と、いうことは、ですよ。英米を舞台にした話を私が書いていて、登場人物がやたらと聖書だの諺だの歴史書だのを引用していたからといって、「それは単なるお前のシュミだろう」ともいえないということになります、よね? なんたってこれは“文化”なわけですから。
もちろん、死刑囚の例がちょっと特殊っぽい感じがしなくもないので、その
逆に考えると、純ジャパニーズが、何を思ったか現地ネイティブを主人公にして英米を舞台にした話を書こう、と決めたとして、あちらにはこういう文化があるんだよ、ということを頭の片隅に入れておくと、多少はそれらしく見えるかもしれない、ですよね…?
そもそも私がこういう形で小説を書こう、と思ったのだって、これまであちら側の作者によって書かれた本(小説以外のことが多い)を読んで、「この人たちやたらとあちこちから引用してるな?」と感じていたせいもあります。それがフツーなのかしらん、と。もはや刷り込み。
よく、web小説における創作論で「キモいだけだからヤメロ」とか「一話目がこれだと見た瞬間ブラウザバックされるぞ」と不評の、“冒頭のポエムみたいな何か”でさえ、舞台が中世欧風ファンタジーなら、フツーにあると思っていました。あって当然、みたいな。
あれを不自然だと感じるのって…多分、現代日本文化には無い、からなのではないかと。
でも、中世欧風ファンタジーですよ? ソレっぽくすることもできると思うんですけどねえ。
たとえばこんなメリットがあると思うのですが如何。
①いかにも、現代日本以外のどこか異世界、という文化の違いを表現できる
②古今東西(主に西)の本格的異世界ファンタジーのひそみに倣って、高尚な雰囲気を醸し出せる
③実在する古典からひっぱってきた場合、書き手の教養の程度をチラ見せできる
一方で、
④そういう文化だと理解されない読み手が相手だと、やっぱりブラウザバックされる
⑤書き手自身に詩の才能がない場合、やっぱり「キモいポエム」としか認識されない
というリスクもあるわけですが…。
* 聖ヒエロニムス(347-420)は名前からもわかるようにキリスト教の聖職者・神学者で、聖書をラテン語に訳した人でもあるので、聖書がバンバン引用されるのは当然っちゃー当然。
しかし、聖書表現にまみれた手紙を送られる相手も、それを当然のように読めるだろうと思っているのがうかがえるあたり…なんというか…
** 佐藤
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