ただ愛でられるだけ

 先日ようやく、〈ファイナル・カウントダウン〉を観ました。

 1980年公開の映画で、亡くなったミリタリー好きの義父がパンフレットを遺していたほどの有名作品。


 ストーリーは…って、この映画、実のところストーリーはどうでもいいのです。

 時は1979年。太平洋での演習中に謎の磁気嵐に遭遇した米海軍原子力空母CVN-ニミッツが、およそ40年の時を遡り、真珠湾攻撃の前日1941年12月6日にタイムスリップしてしまう、という設定。


 普通ならここで、日本軍の攻撃を阻止して歴史を改変すべきか否かの激しい議論の応酬や、あるいは(どっちにしろ)否応なく巻き込まれた戦闘によってあわや歴史が…みたいな展開が見られると思うでしょうが、そんな場面は無い。


 いや、一応あるにはあるんですが、映画の前半は「ここはどこ? 今はいつ?」の究明に費やされ、後半も後半になってようやく、日本軍迎撃の肚を決めるのですが、接敵するはるか以前に再び磁気嵐に飲み込まれ、元の時代に引き戻されてしまうんですから。


 パンフレットでもそのことを知っていたの(と、すでに旧日本軍から興味が薄れていたの)で、私の中では〈ファイナル・カウントダウン〉は「何がしたいのかわからない映画」でした。


 実際、見事なまでに何も起こらない。

 その…通常、エンターテインメント映画で観客が期待するような、手に汗握る戦闘シーンや、大どんでん返し、あっと驚くような結末は。

 同じ米海軍全面協力映画なら、〈トップガン〉の方が実にわかりやすい。公開は同じ年代ですから、当時の技術的に困難で云々とも思えない。


 じゃー〈ファイナル・カウントダウン〉は面白くない映画なのか、というと、必ずしもそうではありません。

 少なくとも私にとっては(笑)。


 磁気嵐でタイムスリップした前半、状況を把握しようと、艦長はクルーに次々と指示を出します。哨戒、偵察、長時間の飛行に備えた空中給油…。

 そのたびに、空母甲板から発進するE-2Cホークアイ! F-14トムキャット! 開閉を繰り返すブラストデフレクター! 忙しく動き回るカラフルなジャージ姿の面々! 次々に映し出される、見たことのある部隊のエンブレム! なぜか無駄に挟み込まれる、夕陽を背景にした空母のロングショット! ゼロ戦の気を逸らすために旋回上昇するトムキャットの主翼先端から細く白い尾を引く水蒸気ヴェイパー


「あーやっぱりこの時代が一番好…いやいや本命はWWⅡなんだけど! レシプロ機は可愛いし美しいし一生懸命飛んでる感じがいいんだけどジェットは力技だし…でもコンピューター半分、人力半分っていうこの時期サイコー…」

 などと私が呟いていると、相方がやってきて、

「ああ、この時代いいよね」とうなずきます。

「え、何であなたが…あ、そっか」

 相方はミリタリーマニアではないものの、一時期自衛隊の戦闘機パイロットを志望していたのです。


 発艦があれば着艦もある。

 命令一下、着艦フックを縁日のヨーヨー釣りのようにだらりとぶら下げたまま、実に器用にアレスティングワイヤーをひっかけていくRF-8Gクルセイダーなんかを延々見ていて…思ったのです。

「これはそういう映画だ」と。


 そう、ストーリーも、派手な戦闘シーンも要らないのです。

 これは“そういう映画”――ただ兵器の美しさ、迫力、職人にも似たプロフェッショナル集団のきびきびした動き(出演:空母ニミッツ乗組員一同)を心ゆくまで見て楽しむことが許される、ただそのためだけの映画。歴史の改変がどうとかいうストーリーは、ここでは添え物でしかない。


 比べるのもおこがましいのですが、私が自作〈SAVE ME〉で表現したかったのも、まさにこれ。

 三次元を二次元で描写するのが困難なことは重々承知してるんですけど…! 狭苦しい艦内の通路の様子とか、細々描写するのが楽しくて仕方ない。他の人が描/書いているのを読むのも好き。


 好きなものを延々描写しているこの感じ…何かに似てるなあと思ったら、ポルノが近いかもしれません。

 あれも、正直、ストーリーはどうでもいい。一応絶頂クライマックスはあるものの、やろうと思えば、好きなもの、好きなシーンをずーっと書いていられる。

 まあ、どういうわけだか、ポルノの場合は同じものを見続けるとすぐ飽きるし、A2F/A-6イントルーダーがセクシーかと言われたら、私の答えは「NO」なんですけどね。




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