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がやがやがや…………ガラガラガラ、コトン。
「ふーっ……」
女の子が充満した更衣室、様々な香りが入り混じった混沌とした空間。
――それこそが女子更衣室であり、さっきぼくが閉じ込められかけられた場所である。
この学校の男子にこの事を話したとき、たいていの人間は「羨ましい」と口をそろえて言うだろう。
そのことについては別に否定したりはしない。
だって、彼らは年頃の男子なのだ。
それに加え、ほぼほぼの男の子がそういった経験をしていないので、妄想力と性に関する知識、そして有り余る性欲が夢膨らませてしまうものなのだろう。
しかし、ここでみんなには想像してほしい。
周りは着替えている女子しかいなくて、それぞれが話し合っている。
そんな中、何をやるでもなくただただ佇んでいるその景色を。
動いたら肘やら背中やらが触れてしまうんじゃないかという恐怖を。
……ここまで言ってもどうせ、「持ってる人が言うことなんか知らねえよ」と言われておしまいなんだろうけどね。
まぁ、いつか気づく時が来るからいいよ。妄想に浸るのもいいけど、たまには現実を見るのも悪くないんじゃないってぼくは思うよ。
と、地獄をくぐり抜けたアドレナリンの赴くままに脳内独白していたけれど、一つまずいことに気づいてしまった。
いや、気づいてはいた。だけど見たくはなかった、気づきたくなかったから目を瞑っていただけ。そういう点で言えば、ぼくこそ現実逃避をしていたのかもしれない。
今、目の前には鏡がある。トイレにいるからね。
そして、自分自身の姿を観てみればそこには、黒色の生地に白いフリルを所々にあしらった、至ってオーソドックなメイド服を着ているぼくの姿がそこにあった。
……?
あ、そうだ。そうだった。
今回の劇では御屋敷のメイドの役も兼任していたぼくは、どういう流れだったかよく覚えていないけれど、いつの間にかこの格好になっていて、それに気づかないままに更衣室から飛び出してしまったのであった……ということを今のこの姿を見て思い出した。
着ていた制服は依然として更衣室の中に置いてある。
このままこれを着て校内を歩くのは、さすがのぼくでも少し恥ずかしい。しかし、着替えを取りにあの地獄みたいな更衣室に戻るのも気が引ける……。
はたして、どっちを取るべきなのか。
そんなの決まっている。
メイド服で過ごす方が全然ましだね。
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