17
「別にあたしが悪いわけじゃなくない?」
夏希は不服そうにほっぺを膨らましながら、掌をこっちに差し出して言った。
「いーや? お前があんな間違いしなければ、吹き出してないし変な空気にもならなかった」
「でもその後、理由を面白い感じで話して笑い取ってたじゃん」
「それは不幸中の幸いみたいなもんで、事故が起こったことには変わりないんだよ」
油性のマジックペンで夏希の掌に『出』と書く。
「なにこれ」
「お前が間違えたから仕返し」
「なんじゃそれ」
「あ、ちなみにそれ油性だから」
「え……いやっ、はぁ!?」
机の上に投げ捨てたペンを拾って表記を見る夏希。
「いや、マジじゃん! なにしてんじゃコラー!」
「だって……ここ油性のペンしかなかったんだもん!」
「……もん! じゃないわ!」
夏希はおもむろにペンの蓋を取って、じりじりとこっちににじり寄ってくる。
「おでこを貸しなー?」
「おいおい、これは平等なやりあいだろ?」
「いや違うね! これは確信犯だ。だってここにはホワイトボードがある。ならそこに書くペンはなんだ?」
「おっと、これはまずいかも……」
「じゃあ大人しくしてくださいねー♪ 今から施術しますけどすぐ終わりますからねー」
「歯医者みたいなこと言いながら笑顔で寄ってくるお前を小学生が見たら、今ごろギャン泣き+トラウマ確定だろうな」
「うるさい! おらああぁぁ!」
「やばっ――」
生徒会役員として、俺自身として、初めての文化祭は無事に幕を下ろした。
生徒会長はというと、貧血で倒れたのが原因だったらしく、鉄分不足を嘆いているメッセージと共に鉄のインゴットの絵文字が一緒に送られてきていた。
生徒会長と文化祭を楽しめなかったのが残念で仕方がないので、今度何かを夏希と企てようかと思案中である。
そして、俺本人としては……偶発的だったとは言え、楽しめたと言いたい。褒められた手段ではないかもしれないけれど、でも夏希のおかげで文化祭というものを味わえたといっても過言ではないわけで。
いい思い出になった。
しかし、振り返ってみると、普段ならしないはずのミスや思考力の低下が顕著だったような気もする。
でも、だからこそ出会えた人が多い気もするから、ひとえにこれが悪かったと言えないのも事実であって、改善するのも悩ましいのが現実である。
まぁ結局、なんだかんだと言っていた俺が、一番文化祭の熱にあてられていたのであった――ということなのかもしれない。
あぁ、この季節にそぐわない残暑みたいなむず痒い熱は、まだしばらく俺の中から出ていってくれそうにないな。
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