製菓部の部室、またの名を家庭科室前の廊下に置いてある机と椅子。そして、その上に置いてあるスタンプ。これが今の現場の様子である。

 おーい! 盛り上がってるかー!

 ……。

 人がいないのも仕方がない。なぜなら、こんな朝早くに高校の文化祭に行くという事ができる人間なんて限られているからである。

 実際、まとまって来るとしたら午後を回ってからが本番なんじゃないかと思っている。

 ……あれ、先生が言ってたか? まぁいいか。

 ということで、今も準備をしているのであろう家庭科室から、焼き菓子などの甘い匂いが漂ってくるので、それを堪能しながら携帯をいじって時間を過ごす。(ばれたらちゃんと怒られる気がする)

 そして、それからおよそ一時間が経過し――正午である十二時を回った。

 俺の今の状況はというと、――首に『お菓子作ってます! ぜひ来てください!』という看板をかけて、手には茶色いバケットを持っていた。

 そしてその中には、お菓子の袋が山になって入っていた。そんな状態で、綺麗に彩られた校舎の中を歩いている。

 もちろん、道行く生徒の視線がこっちに向くのを避けられないので、さりげない抵抗としてなるべく猫背でポケットに手を入れてみたりもしたが、その行為自体が子供じみていることに気づいてすぐに辞めた。

 はたして、なぜこんなことになっているのか。

 それは十数分前に遡れば分かること。

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