「はぁ? おいおい、おいおいおい」

「なに」

「自分達の組織の名前を忘れたのか?」

「長谷川なんだっけ?」

「あー、仮生徒会だっけ?」

「裏生徒会(仮)、だ。この名前はまだ仮ではあるとはいえ、なんで本家本元と対の存在である組織が――しかも、その一番上である人間を送り込むんだ。どう考えたって変だろ」

「いや、私が行っても長谷川が行っても意味ないの」

「どうして?」

「それは……あなたがトップだから」

「トップだから? 理由になってない」

「いや、理由としては十分」

「その根拠は?」


「それは……話して欲しい相手が生徒会長だから」


「……生徒会長だって?」

「そう」

「……」

 まだ内容を聞いていないから何とも言えない。

「大丈夫! いざとなったら私がボコボコにして助けてあげるから!」

 横やりの長谷川。

「馬鹿なこと言うな。あと、今見せびらかしているその……タクマシイ……力こぶを仕舞いなさい」

「長谷川、一緒に行きたい?」

 おい長谷部? それは冗談で言っているんだよな? 長谷川も流石にここは空気を読んでくれるよな?

「いや、私は止めておくよ」

 良かったー! 賢い子じゃないか!

「だって、春村が帰還したときに私が褒めてあげなくて、誰が褒めるんだって話だもんね! 部下の面倒を見るのも上の仕事さ――」

 目を瞑り、満足げな表情を浮かべている長谷川を見ていると、本当に何のためにここにいるんだって思いたくなる。長谷部といる時もこんな調子なのだろうか。

「それで、話をして欲しい内容なんだけど」

「うん」

「生徒会長に対して何か公表しやすい感じの、恩を売れる良いことをして欲しい」

「ほう……? いや、待って? 話すだけじゃないの?」

「話すことは前提に過ぎない。というか春村……まさか学校での噂話が、どれだけの影響力を及ばすかを知らないなんて言わないよね?」

「えーっと……なんとなくは知っている。それこそ噂程度ぐらいには」

「なら分かるでしょ? 要は、『春村神木という男が生徒会長助けたらしい』という噂が流れ始めたら、みんななんとなく「そうなのかー」って思うでしょ? で、その正しいかどうか曖昧に思っているぐらいのタイミングで、その証拠となるものをみんなに提示できれば、それはたとえ作為的だったとしても周りの認識では事実であったことになるの」

「ほぉー……なるほどね。なんとなく分かった気がする。というかお前、頭いいな」

 ここで、それまで黙って聞いていた長谷川だが、なんの思い付きか、次の瞬間には意気揚々と口を開き、


「それは即ち! オセロ作戦ってことだな!」


 と言い放って指をさしてきた。

「あれ、さっき長谷部が作戦名言ってなかったっけ?」

「ありゃ? そうだったっけ?」

 それを聞いた長谷部は、やれやれと言わんばかりに首を左右に降って、「それでいいよ」と笑って言った。

 「裏」をひっくり返すとどうなるか。

 そう考えると、長谷川の作戦名は案外悪くないと思ってしまうのが不思議であり、そして、長谷部が長谷川に甘いのが、段々こっちに移ってきた気がするのは、それはまぁ……気のせいだと信じたい。

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