作戦会議の議題は、まず状況の把握から始まった。

 ということで、自分の持っている「視線の数が二つだった」ということを共有することにした。

 ……つまり犯人が二人で協力体制を敷いている可能性が高いと、と長谷部。

「そういうこと。こっちは三人で向こうは二人、一見こっちが有利っぽいけど自分と長谷部が体力的に弱すぎて使い物にならないから、実質2対2みたいなもんだろうな」

「全部、私がボコせば終わりじゃないか?」

 お前のその腕でどうやってやるんだ……。不信の目で長谷川を見ていると、こっちに気づいた長谷川が思いっきり振りかぶって肩に一撃をお見舞いされた。

 「うわぁ」……痛くない。

「おい! なんだその目は!」

「ごめんって」

 傷つけないために痛がっているふりをしながら、長谷部の意見を待つ。

「そもそも、私たちが一緒に居るところを見られるのが不味いって事はないの?」

「確かに。じゃあ今一緒に居るのも……え、待って」

「なによ」

「もしかして、今まであんまり協力じゃなかったのって……」

「? 傍から見て、私たちが一緒に居るなんてあまりにも不自然すぎるから、そう考えるのが普通でしょ?」

「……」

 なんということだ。

 配慮があまりにも行き届きすぎている。なんなら少し感動している。

「え、って事は一緒にできないの!?」

 驚愕の長谷川。

「いや、今まではまだ身を潜めないと、我々の存在が外に出てしまう危険性があったが、ここからはそれに終止符を打つことにしようかと思ってな」

「というと?」


「春村『囮』大作戦」


 その言葉を聞いた時、なんとなくそうなるんじゃないか――と抱えていた一抹の不安が、ここに来て花を咲かせてしまった感じがした。

 しかし、それが一番合理的で良い作戦なんじゃないか、という思いも心のどこかでは小さく残っていたのも事実なのだ。

 でも、だ。

 でも、言わせてほしい。


「組織の長を囮にする馬鹿がいるか!」


「そうだ! するなら私を囮に使え!」


「「……え?」」

 いや、え?

「長谷川……」

「なんだ!?」

「今回、つきまとわれているのは誰だった?」

「……春村だ」

「じゃあ、お前が囮になったら誰が来るんだ?」

「えーっと……春村?」

「なーんで、被害者が身内の囮にのこのこと引っかかるんだよ」

「だって春村そういうの好きそうじゃん」

「そういうの、とは」

「え、緊縛」

「今……同級生の女の子が自分に、どういうイメージを抱いているのかが分かって良かったよ」

「おう!」

 やれやれだぜ……なんてひと悶着ついた決め台詞を呟きそうになったが、止めておいた。

「あ、囮と言っても別に春村を椅子に括りつけたりしないから」

「いや、別に長谷川の言ってる事を真に受けたりしてないけど、まぁ、そうしてくれると助かるな」

 「えーそうなのか……」と落ち込んでいる長谷川を一旦無視して、こっちからしてもどういう算段が必要か考えてみる。

 まず、相手方はどういう理由か分からないがこっちの動向をうかがっている。

 それが、裏生徒会(仮)についてなのか、自分自身の何かについてなのかは分からない。

 ただ、どっちみち裏生徒会(仮)の存在がばれるのは損しかない。それは明白である。

 となると……相手に嘘の情報を確定させて、疑いの目を消すのが重要か?

 何かが閃きそうで閃かない。

 そこで長谷部が口を開いた。


「これから春村にはあることをしてもらいます」


「急にデスゲームの主催者みたいな口調でどうした」

「え、私そんな意図無かったんだけど……」

「え、そうなのかごめん……」

「こほん。気を取り直して」


「春村さん」

「はい。なんですか」


「今から生徒会室に行ってもらいます」

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