3
「はぁ……」
燃え尽きた。
何が要因でこうなってしまったのか。
はたしてどうして。
皆さんは重たいパンチボード持ちながら、ゆっくりとしたスピードで用具室と教室を往復しまくった経験はありますでしょうか。
しかも、男子は自分だけに状況で。それに、「男子だから力がある」という偏見を元手に、馬鹿デカいパンチボードに対して人数が三対一の比重で運ばされたことは……あるかい?
椅子に座りながら腕をだらりと垂直に下げて、窓から見える青空を仰ぐ。
あーっ…………くっっっっそ疲れた。
「お・つ・か・れ!」
「うわっ、えっ……あぁ、なんだ華厳原か」
「へっへへ、おどろいた?」
「心臓飛び出るかと思った」
「ひひっ、良かった」
何にも良くないぞ? 華厳原よ……。
何がよくないかというと、「心臓が口から出る」という事態についてもそうだが、それよりもだ……。
「なぁ、華厳原?」
「……なに?」
「今、なんで後ろから抱き着く必要があったんだ?」
その瞬間――いい匂いがした。
その瞬間――細い腕を首筋に感じて滑らかなだと思った。
その瞬間――。
「ん? なんでって、そりゃあ驚かすためだけど……」
「そうか……そうか。それならいいんだ、うん。自分がだめなだけだから」
「……んん?」
そんなことを独り言のように言ってみたが、華厳原はよくわからなかったのかただ首を傾げただけだった。
これを「天然」の一言で済ますにはあまりにも罪が重いと思う。例え相手が男であったとしても、だ。
いや、男だからこそのこの立ち振る舞いか……あぁ、頭が痛くなってきた。これはなんだ、華厳原が男なのが悪いのか、それとも変に意識してしまう方が悪いのか?
こんなに小さくて華奢でいい匂いするのに?肌だってやわやわで溶けちゃいそうなぐらいなのに?
「ふー……っと」
華厳原は一息つくと、近くにあった椅子をこっちに持ってきて隣に座った。
「調子はどうだ?」
「ぼくはぜんぜん元気だよ! 神木くんはまぁ……言うまでもなさそうかな」
「そうだ。見た通り、超ーーーーー元気だよ!☆」
「全然そうには見えないけど……まぁ、そうやってボケるぐらいには元気ってことかな」
「でも、もう今ので全部力使い切っちゃったから、もうボケません」
「二度あることはー?」
「三度アルプススタンドー! ……それはずるいだろ」
「へへへっ」
一通りふざけ終わると、華厳原は美術室をぐるりと見渡して「ほぇ……」と感嘆の声を漏らした。
「凄い……美術館みたい」
「そこまで褒めてもらえたら、腕を犠牲にして組み立てた甲斐があったってもんだ」
「あ、あれもしかして……」
「どうした? なんか気になるやつあったか?」
「いや、あの絵ってもしかしてだけど、神木くんが書いたやつかなぁって」
そう言って華厳原はある一枚の絵を指差した。
「……どうしてそう思ったんだ」
「いや、何か確証があってそう思ったんじゃないんだけど、ほんとになんとなくそう思っただけ」
「うーん……まだ名前もタイトルも出してないから流石にバレないと思ったんだけどなぁ……」
「ってことは正解ってこと?」
「そうだ」
「わーい! なんかうれしいー!」
そう言って椅子から立ちあがり、件の絵の近くへと駆けていく華厳原。
じーっと観察して、そして、満足した表情でまた同じ場所へ帰ってきた。
それからしばらく、華厳原はニコニコな顔でこっちをじーっと見つめてくる。
そして、暫くぼんやりとした時間が流れた。
「……ねぇ?」
「ん、なんだ」
「神木くんは、文化祭といったら何を想像する?」
「えーっと、何だろう……。出店があって、お化け屋敷があって、展示や体験コーナーがあって……」
「ねぇ、神木くん?」
「……な、なんだ」
「明日さ、一緒にお化けやしき……いこ?」
「…………なんだそんなことか、いいよ。別に当日クラスに行かなきゃでもないし」
「そっか。ありがと」
「おう」
「……そ、そういえばさ! 神木くんのクラスって何やるの?」
「あぁ、うちのクラスは――」
言って説明するよりわかりやすいだろうと思って、親指で窓の外を指さしてやった。
「?」
「ほら、入り口付近でわちゃわちゃやってる連中いるだろ。あれがうちのクラスの催し物――もといゲート作成&校内の飾りつけ業務の手伝いだ」
「ということは、じゃあ……」
「察しはついているだろう? まぁ、そういうことだ」
高校生の考えるやりたいものなんて被って当然で、その結果異常に運がなかっただけ。でももう、あんなに悲しいムードの抽選会を見るのは遠慮したいとは思うけど。
「華厳原のクラスは何をするんだ?」
「うちのクラスはねー、メイドカフェをやるらしいよ」
「へぇ、そうなんだ。じゃあ、三組行ったら、華厳原のメイド姿が見れるってこと?」
「いやいや、ぼくはほぼほぼ演劇部に時間を取られるから、残念ながら見れないよ」
「え、でもさっきお化け屋敷行こうって……」
「……それを言うのは野暮だよ? 神木くん?」
「え、んん……そ、そうなのか、ご、ごめん」
「へへっ」
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