13

「「ありがとうございました!」」

「いやいや、困ったことがあればお互い様ってだけよ。それじゃあ、私は家庭科室に戻るとしますかね」

 ゴンッ!

「え?」「あ、」

「……じゃ、じゃあね」

 がらがらがら……。

 越後まりというセクシーお姉さんが実はポンコツお姉さんなんじゃないか、という疑惑を置いていったまま立ち去って行った。

 二人きりになった教室。

 外からは、体育館からであろう吹奏楽部の演奏がほんのり聞こえてくる。

「佐藤……」

 机に散らばったスタンプラリーカードを観ながら何かヒントがないか探っている時、ふと夏希に名前を呼ばれた。

「ん、なんだ」

「そのスタンプのことなんだけど……」

「ん! もしかして何か分かったのか!」

 さっきから顎に手を置いて真剣な表情でうつむいているので、もしかしたら今までの情報を整理して真相を導き出そうとしていたのかもしれない。

「いや、そうじゃなくてね」

「……なんだ。じゃあどうした」

「あのね、これを聞いて怒らないでほしいんだけどさ」

「怒らないでほしい? お前の言ったことで怒ったことなんてあったかよ」

「いやないけどさ……」

「ほらなんだ、もったいぶらずに言ってみ」

 そう言うと夏希は意を決したように生唾を飲み、両手を握り込んだ。


「その……八個目のスタンプを押したのはあたしなの」


「……」

 俺は目を瞑った。

「はぁー……」

「ごめん――」

 そして、思いっきり口の端を釣り上げて笑った。

「……どうしてだぁ?」

「え、怒ってない?」

「なんで? それよりも――俺は今めっちゃ悔しい! くそ! こんなに犯人が近くにいたのに全く気付くことができねぇなんて、そんなことあるのかぁ!?」

「……」

 正直言ってびっくりしたのは確かだ。だけど、そこにマイナスな感情なんか一ミリもないのも事実だ。

「これじゃあ、あれだな……犯人は現場に戻るってやつだ! まんまと現場に戻ってやんの! だけど主人公が馬鹿だと何にも解決しねぇんだから……ほんと犯人からの自白なんか昨今の火曜サスペンスでも見ねぇっての、な」

 夏希はしばらく固まっていたかと思ったら、急に机へと上半身を投げ出して干からびたカエルみたいにビタ伸びした。

「うわっ! びっくりしたー! いきなりなんだよ……」

 夏希は机に伏せたまま小さな声で、「ぁりがとぉ」と言った。

「こちらこそ、おかげで文化祭を存分に楽しめたよ」

「……それなら良かった」

 それから。

 俺は夏希からどういう詳細だったのか聞こうか迷ったが、それを聞くのも野暮だと思ったので心の中に秘めることにした。

 ……どうやら生徒会長には伝えていたらしいので、後でこっそり聞いておいても怒られない、よな?


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