2
がらがらがら。
文化祭の開会式が終わってから解散したのちに、俺は予定通りに生徒会室の扉を開ける。
「お、やっときたー! 遅いよ」
「え、いやそんなことは……」
時計を見ても十時三十五分だし、全然遅くなってはない。
「だっていつもなら十時半には授業始まってるんだよ! 遅刻だ!」
「横暴だ……」
いつもに増して高まったテンションのせいかおかしな文句を付けられている。
そこに背後からがらがらがらと扉の開く音が聞こえてきて、
「おはようございます」
生徒会長の優しい挨拶が聞こえてきた。
俺は生徒会長を一瞥し、そして、夏希を一瞥した。この視線の意図は「俺を遅刻だと言ったからには生徒会長にも言うんだろうな」である。
はたして、この意図を汲んでいるのかいないのか。夏希は何を言うのだろう。
「あ、おはようございます! 今日は張り切って頑張りましょうね!」
「おい」
「……なによ」
「……?」
にらみ合う二人といまいち状況を把握していない生徒会長。
アニメだったらここでオープニングに入るだろうこのタイミングで、生徒会長が割り込んできた。
「まぁまぁまぁ……何があったかは分からないけど、そんなことよりも僕たちにはやることがあるからね……そっちを頑張ろうか」
「はい!」
「そうですね」
今日、俺達がやらなければならないこと。
生徒会としてやらなければいけないこととしては、まず開会式と閉会式の挨拶がある。
「開会式の挨拶」はもう先程華々しくやり遂げたので「済」とするが、ここで重要なことが抜けている。それはその全てを生徒会長がやったということである。
事実、俺は端の方で立ってその雄姿を見ていてだけである。というか、あの芸当は生徒会長にしかできないといっても過言ではない。
聞き触りが心地よく、かと思えばちょっとした冗談を織り交ぜて笑いを起こすあの挨拶を見れば、あの場所に立って自分が同じことをした時に、どれだけ見劣りするかが容易に想像できて辛いものである。
想像するだけで唇が乾燥し、喉も閉まって乾燥してくる。多分、俺なんかがやったら絶対、緊張して何をしゃべるか忘れてしらけるに決まっている。
そんな来るはずのない未来を仮定し想像するのはほどほどにして。
ひとまず、開会式の挨拶は、生徒会長の尽力により全体の雰囲気が温まり、この文化祭の盛り上がりに一つ焚き木をくべることに成功した。
そして本番はここからである。
さぁ、前々から計画していた企画の準備を始めようか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます