ファミレス打ち上げ後話
1
文化祭が終わり、帳が下りた刻、生徒達は打ち上げに行く者、いつも通りに帰る者、将来を見据えて塾に行く者など三者三葉の様相であった。
当の四人においても、それに倣うわけではないが成り行きがそうさせるように、自然とファミレスに集っていたのだった。
ファミレスの中には、四人と同じように打ち上げをしている生徒達がちらほらと散見されたが、それぞれがそれぞれの空間を持っているため特に合流することもない。まるで一つのテーブルより外は繋がっていないかのように。
マルチバースとか多次元宇宙論とか、それっぽい例えをしてみたくなるぐらいには個々の世界が創造されているのであった。
そんな中の一つのテーブルに、四つのドリンクバードリンクとポテトを前にして、それぞれがそれぞれの空気を纏った男子生徒が四人。
一見、一緒に居ることに違和感を覚えかねない奇妙なテーブル席が存在していた。
「それじゃ……お疲れ様でした! 乾杯!」
「「かんぱーい!」」
乾杯の音頭を取った華厳原に続いて、声を上げグイっと各々の選んだドリンクを飲み込む。
「ぷはぁ!」「ふぅー」「んん……」「……」
特段何かをなしたわけではないだろうが、祭りの後の余韻とこれから始まる祭りに向けた高揚感を、飲んで一息ついて浸って沁みていた。
四人とも同じ様な表情だった。
「そういえば……科学部に新入部員が入ったんだって?」
春村が半にやけの顔でそう言った。
「うん……そうだけど」
木部は少し言いずらそうな調子でそう言った。
「あれ、佐藤君は会ったんだよね」
その様子を察してか華厳原が間に入って佐藤に話をふる。
「あぁ。会ったっちゃ会ったけど、まぁ、めっちゃ仮装してたから会ってないと言っても変わらないけどな」
「木部、お前にそんな趣味があったなんてな……」
演技に力を込めて、誠意を込めて揶揄う春村。
「まぁ、そうだな……」
木部のことだからもっと喜んだりツッコんだりしそうだけど、存外嬉しそうでないことに疑問を持ったが、その場合百発百中で面倒ごとだというのは分かっているので、三人は無視することにした。
「そうだ、佐藤千歳の方こそどうだったんだ? そっちこそなんか大変そうなことになってるのを見かけたけどさ」
「あー……あれね――っていうか!」
佐藤は春村へと全身を向けた。
「……なに」
春村はこの時、「生徒会長を助けたこと」を佐藤が知っていて、それをここで言われるとめんどくさいなと思った。
「お前美術部だろ!」
「? それがどうした」
内心安心しながらも、平静を保ちながら聞き返す。
「なんか美術部の中でスタンプ作ってたやつ見なかったか?」
「……いや、見なかったけど」
「そうか。うーんじゃあ何でもない」
「そう」
「あ、じゃあこのタイミングだから……佐藤君に言っておいた方がいいかもしれないことがあるんだけどいい?」
「その言い方怖いからやめてほしいけど、内容は気になる。なんだ?」
「はい」
華厳原は制服のポケットからかなり折りたたまれた一枚の小さな紙を取り出して佐藤に渡した。
「これ学校から帰る時に自販機らへんで見つけたんだけど、なんか字とか内容が佐藤君のっぽいから気になってね」
佐藤は慌ててポケットに手を突っ込んで、くまなく触って、ため息をついた。
「これは俺のだ。あぁ、落としてたのか」
佐藤は複雑な表情でその紙を見ていたかと思ったら、ぱっと席を立って一瞬トイレ付近に行ったと思ったらすぐに戻ってきた。
「もういらないから捨ててきた」
「別に帰ってからでもよかったんじゃない?」
「いや、なんか今日、自分が見えない場所に捨てないといけない気がした」
「変なの」
佐藤は「ほっとけ」と言って、目の前のコップを手に取り一気にグイっと飲み干した。
それから、彼ら四人は昨日今日であったことを肴に、雑談へと花を咲かせていったのだった。
家に帰るまでが文化祭、なんてありふれた言葉を使って誤魔化したり、いつまでもこんな日が続いたらどんなに楽しいだろうかと悲観的になったり。
いつか時間が経って、この日々を懐かしく思った時、あの時に戻りたいと思うその時まで、当事者の彼らはただ今の日常を生きている。
文化祭だって、明日からの通常授業だって、彼らからしたら等身大の日常なのだから。
今は何の色にも見えていない、後から振り返ると色が付く、半透明な青春の日常に愛をこめて。
これを日常と言わずに何と言おうか 不透明 白 @iie_sou
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