第41話 その言葉が残る


 第27ノ試練をクリア後、俺は地味女達の私物をいくつか拝借し、一旦試練を中断し家へと戻った。


 23時間、手持ちの治療道具で開いた傷口の治療をし、安静にしていたとはいえ、流石に冷たい石畳の上で寝転がっていても身体は休まらなかったからだ。

 時間はもうほとんど残って無いが、それでも身体と心を休ませたかった。



 1日23時間42分6秒


 使用可能ポイント 9ポイント


 攻略報酬リスト


 映像(中)

 空気(特)

 重力(世)

 大地(特)

 気温(特)

 水(上)

 食料(上)

 服(上)

 トイレ(上)

 寝袋(上)

 家(上)

 空(下)…etc



 習得済み

 映像(下)

 空気(上)

 重力(特)

 大地(上)

 気温(上)

 水(中)

 食料(中)

 服(中)

 トイレ(中)

 寝袋(中)

 家(中)



 休みながら俺は今回得たポイントを割り振っていく。

 運がいい事に、空気・大地・気温を得るためのポイントを得ることができた。

 何故(特)の上が(世)になっているのか疑問でしかないが、そこは気にしたところで、どうにもならないので気にしなくていいだろう。


「少しは人の住める環境であってくれよ」



 1日23時間41分48秒


 使用可能ポイント 0ポイント


 攻略報酬リスト


 映像(中)

 空気(世)

 重力(世)

 大地(世)

 気温(世)

 水(上)

 食料(上)

 服(上)

 トイレ(上)

 寝袋(上)

 家(上)

 空(下)…etc



 習得済み

 映像(下)

 空気(特)

 重力(特)

 大地(特)

 気温(特)

 水(中)

 食料(中)

 服(中)

 トイレ(中)

 寝袋(中)

 家(中)



 予定通り残りを選択し、選択した(特)の内容を確かめてみる。


 空気(特)人体に影響はなく無害な普通の澄んだ空気が世界に満たされた

 大地(特)丸みの帯びた小石ばかりの土 作物を育てるには適していない

 気温(特)5日に一度、0度~40度ランダムで気温が変わる


「・・・・まあ・・・・いいだろ」


 悪くはない。

 これは悪くない。

 欲を言えば気温の部分を変えて貰えればよかったが、今はこれでいい。

 気温の部分は運が良ければ、快適な日々を送ることができるかもしれないし、一応は人が過ごせる環境が整ったのだから。


「今後服や家をランクアップしていけば、暑さや寒さに対応できそうだな」


 当初の目的は達したことに一安心しながらも、まだまだ足りないモノだらけであるので、気を抜かずに行こう。

 それに時間も無いので、少し休んだらさっさと次の試練に向かった方がいいだろう。


 そう思いながら、俺は一日ぶりの我が家でごろりと寝転がりながら何の気なしに地味女から回収してきた毒薬とスマホを眺める。


 男に襲われてから部屋に引きこもりだという感じだったというのに、あの地味女のポケットにはスマホが入っていた。

 部屋にいてもスマホを手放せないのは現代っ子って感じだな。


「・・・やっぱロックがかかっているか」


 スマホをぶっ壊してしまい、更には停電であるので外の情報が一切入って来ない。

 なので、今回拾ったスマホで外の事を知りたかったのだが、暗証番号を入力しろという表示がでたため、使えなかった。


「勘でやって当たるわけねぇし・・・・・・・おいアヤ。これの暗所番号教えろ・・・・なんてな」


 聞いたところで答えられるわけもない。

 どうせこいつは塔の試練を案内することしかできない奴だ。

 塔に関する事、試練に関することくらいしか使えないだろう。


『承りました。番号は****です』


「・・・あ?」


 そう思っていたのだが、アヤの奴は普通に答えやがった。


「・・・・・・・・・」


 言われた通りに、ポチポチと番号を押してみる。

 すると、何事も無く普通に開くことができた。


『・・・・・・・・・』


「・・・・・・・・・」


 別にアヤの奴は何も言ってこないが、なんとなくドヤ顔している気がして感じがして、なんかムカつくな。


「・・まぁいい」


 気にしたところでどうにもならないと思い、俺は地味女のスマホを使いどんな状況になっているのか探っていく。


 そしてわかったことは、世界各地で塔が出現し、人だけではなく動物や物が無くなっているという事だった。

 どうやら大切なモノとは、人だけを限定したわけではないようだ。

 そして人でないおかげか、塔の出現を脅威に思っている者は少なく。

 更には漫画のような展開を期待しているのか、楽しんでいる奴がちらほらいる。

 危機感と言うのは無く、他人の不幸を酒の肴にしている奴等も多く見られた。


「・・・塔に入ることを国が規制しているか・・・・安全を重視しているのか、それとも上の奴等が自分達の利益だけを思って規制しているのかわからんな。

 まぁ、念じれば入れると書いてあるし、規制するだけ無駄っぽいけどな」


 そして、念じれば入れるということは第26ノ試練で出会ったあのクズに出会う可能性が高いかも知れん。

 赤子を殺すことになんの躊躇もしていなかったアイツと・・・。


「・・・・ああいう奴等が生き残りそうだな」


 塔の試練は何かを殺す試練ばかり。

 殺すことに快楽を覚える殺人鬼や、殺すことに躊躇しない悪人共なら難なくクリアできそうだ。


「これは強くならねぇとな」


 今後の試練がどうなるかなどわからないが、そんな奴等が最終的に集まるとなれば、今の俺ではダメだ。

 もっと、もっと人殺しに慣れねぇと・・。


「・・・・・・・・・・・・」


 彩菜を助ける為、そう思いつつも、人殺しに慣れなければならないことに嫌気がさすと同時に、不安にもなる。

 もしも、もしもだ。

 彩菜を助けた後、人を殺すことに慣れた俺を彩菜は俺を受け入れてくれるのだろうかという。


「不安になってる暇なんてねぇよ。バカ野郎が」


 まだ助けてもいない。

 そういう事は助けてから考えるべきだと思い、俺は考えるのをやめた。


 そして今の所これ以上情報を得る必要はないだろうと思い、スマホを置こうとした瞬間、ピロンッと音が鳴った。


 誰かからメッセージが届いた。

 地味女の親か友達か知らないが、地味女はもうこの世にいない。

 そしてこの世にいないことを伝えるべきだと思い、俺はそのメッセージを開いた。

 それが彼女を殺した俺ができる事であると思ったから。


「あ゛?」


 だが開いたメッセージの内容は、俺をイラつかせる内容でしかなかった。


 贈られてきた内容。

 それは地味女が死ぬ前に謝罪と共に口にしていた、男に強姦されたという吐き気のするその光景が、画像として送られてきた。

 更にはこれを世間に知られたくなければ、言うことを聞けという脅しも送られてきた。


 今更ネットに上げた所で、塔という摩訶不思議な建造物に世界が騒いでいる時点で、情報の海に消えていきそうだが、それでもやっていいことでは無いだろう。


「・・・・・・・・・いつか、このクソ野郎はぶっ殺さねぇと気が収まらねぇな」


 塔の試練にでも会えねぇかな。

 こういう奴が相手なら、赤ん坊を殺すよりも100倍楽に決心できる。


「・・・クソイラつくぜ」


 これ以上地味女が苦しむ画像を見せられても、胸糞悪くなるだけであった為、俺はスマホの電源を切った。


「・・・・・クソ野郎ばかりだ」


 調べた内容と、国の動き。

 そして世間の人々の反応に送られてきたクソ野郎のメッセージ。

 それらを知った俺は、少しだけ人という存在に失望しながら、天井を見つめる。


『選別してください』


 別にアヤの声が聞こえてきたわけではない。

 だがなぜか、そんな声が聞えた気がした。


 そしてその言葉がどうにも頭に残った。


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