第4話 第一ノ試練


『第一ノ試練場ヘヨウコソ コレヨリ選別ヲ開始スル』


 階段を登り切ると、そんな声が聞えてきた。

 そしてその声と同時に、めまいが起こり、立っていることができず、俺は尻もちをついた。

 グワングワンと視界が揺らぎ天を仰いでいたが、しばらくするとめまいは消え、普通に立つことができた。


「なんだ今のは・・・・・・・って、なんだよここ」


 めまいが消え、周りを見渡してみれば、そこは床も壁も天井も石の壁に覆われていた。

 まるでダンジョン。

 そう、まるでゲームの世界に入り込んだような世界が広がっていた。


 そして、そんなゲームの世界には


「・・・・・・・・・・・ゴブリン?」


 そのファンタジーな世界に必ずいる、魔物の姿がそこにあった。


 子供の背丈くらいしかない緑色のゴブリン。

 誰でも知っているゴブリンと言う魔物の姿がそこにあった。


『第一ノ試練 ソイツヲコロセ』


 またも声が聞えて来たかと思えば、不吉な事を宣って消えた。


「殺せって・・・こいつを・・・っ!?」


 戸惑う俺をよそに、声が消えてからゴブリンは俺に飛び掛かってきた。


 髪を掴まれ顔面を殴られる。

 殴られて痛いと感じるが、いかせん殴る力が弱いせいで、子供に殴られている程度の痛みしか感じない。

 コイツの拳で俺が死ぬことは万に一つもないだろう。


「は・・な・・れ・・・ろっ!」


 髪を掴んでいると言うのに、握力もないのか、簡単に引き剥がすことができた。

 更に言えば体重も軽く、軽々と放り投げることができた。


 そして軽く放り投げただけにも関わらず、ゴブリンは受け身も取れずに石の床に叩きつけられ、ゲホッと息を詰まらせると動かなくなった。

 まるで今の一撃だけで瀕死の重傷を負った感じだ。


『コロセ コロセ コロセ コロセ』


 またも声が聞えて来た。

 命を奪えと俺に命じてくる。


「うるせぇ! 俺に命令すんじゃねぇ! なんでこの俺が、お前なんかの命令に従わなきゃならねぇんだ!」


『コロセ コロセ コロセ コロセ』


「黙れよクソがっ!」


『・・・・・ナラバコイツヲコロス』


 命を奪うことを強要してくることが腹正しくて反論してみれば、行き成り目の前に彩菜の姿を映し出された。


 雪に囲まれながらも静かな寝息を立てる彩菜。

 そんな彩菜の首筋に一本の赤い線がつけられる。


「?・・・っ!? てめぇっ!!」


 たらりと流れる赤い血。

 これ見よがしにひとりでに宙に浮かぶナイフ。

 突き立ててやろうか? と言わんばかりに、ナイフが彩菜の脳天に向けられる。


「くっ・・・・止めろ。テメェの言う通りに殺してやる。だから彩菜に手を出すんじゃねぇ!」


 指示に従わなければ彩菜は死ぬ。

 それを理解した俺は、もはや迷うことはしなかった。


 ここで迷えばそれだけ彩菜の命が危険にさらされる。

 ならば選べる選択など一つしかないだろう。


 俺は息も絶え絶えになっているゴブリンの頭を掴む。


「・・・・・・・・・・」


 俺は無言でゴブリンの頭を思い切り捻り、首の骨を折った。


 謝罪を口にするつもりも、懺悔を口にするつもりもない。

 彩菜を生かすために殺すと最終的に決めたのは俺だ。

 故に許しを請うことはしない。

 存分に殺した俺を怨んで貰って構わないと、そう思いながら初めて生き物を殺す罪悪感に、俺は胃の中の物を吐き出した。



『第一ノ試練 終了 1ポイント贈呈』


 そしてゴブリンが死ぬと、またも不快な声が聞えてくるのだった。



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