第3話 透明な板


 現れた透明な板には刻一刻と減っていく時間と使用可能ポイント、攻略報酬リストの三点が書かれていた。


「なんだよ・・・これは」


 あと9日23時間58分14秒にて解放


 解放と言う言葉に、もしかしたらこのまま待っていれば彩菜が帰ってくるのかと思ったが、視線を攻略報酬リストと言う表記に視線を落したときに、その考えは間違いであると、なんとなく感じとった。



 使用可能ポイント 1ポイント


 攻略報酬リスト


 映像(下)

 空気(下)

 重力(下)

 大地(下)

 気温(下)

 水(下)

 食料(下)

 服(下)

 トイレ(下)

 寝袋(下)

 家(下)

 空(下)…etc



 明らかに可笑しな報酬。

 空気や重力などを報酬にする意味がわからない。

 わからないが、一番上にある映像(下)という項目が点滅しているのでそれに触れてみると、映像(下)が映像(中)へと変わった。

 そして映像(下)を習得すると、目の前にテレビ画面のような透明な板が新たに現れ、そこに俺が愛した彼女の姿が、彩菜の姿が映し出された。


 彩菜は生まれたままの姿で膝を抱えながら地面で丸くなっている。

 そして丸くなる彩菜の周りには、雪が降り積もっていた。

 凍えて死んでしまうほどに降り積もっていた。


「なんだよ・・これ・・・はっ! おい彩菜っ! 彩菜起きろっ! 死んじまうぞ!」


 元々体の弱い彩菜。

 そんな彩菜が全裸で雪の降る場所にいるなど命の危機以外のなにものでもない

 普通の人でも雪の降り積もる場所で全裸姿など厳しいと言うのに。


「おい! 起きろって! クソッ! 聞こえてないのかよっ!」


 俺の声は届かず、彩菜はピクリとも動くことなく、ただ眠り続けた。

 このままでは寒がりな彩菜が凍えて死んでしまう。

 焦りを覚えながら必死に声をかけていると、ふと違和感を覚える。

 彼女の身体が、うっすらと、本当にうっすらと柔らかな光を発している事に気付いたのだ。

 そして、彼女の手足や身体が雪の冷たさに肌が赤くなることはなく、静かな寝息を立てていることに気付いた。



 解放



 そんな彼女を眺めながら、俺は先程の解放と言う言葉を思い出した。

 解放とはいったいどこに解放されるのか?

 俺の元に彩菜を解放してくれるとでもいうのか?



 そんなわけがない。



 攫った癖に10日後に開放などするわけもない。

 恐らくこの解放と言うのは、今眠り続けている彩菜をその場に開放すると言う意味だろう。


 そして攻略報酬リストに空気や重力などと言う表記されている理由は・・・・・彼女が今囚われている場所の環境を整えよと言うことでは無いだろうか?

 そして整えなければ・・・極寒の地で彩菜が死ぬことになると言うことではないだろうか?


「・・・ギリッ」


 何もしていないのに映像だけを見せた理由は何だ。

 そんなの決まっている。

 愛する人の死を見せる為だ。

 決して愛する人の姿を見せ安堵させるためなどと言うお優しい行動ではない。

 場を整えられず助けられなかったときに、お前の愛した人が、どんなふうに死んでいくのか見せつける為だ。


「ふざけんなよ。やっと・・・やっと辛いことから解放されたのに、やっと幸せになれるのに・・・アイツの幸せを奪いやがって・・・」


 許せるわけがない。

 苦しい病院生活を乗り越えた彩菜に、こんな理不尽な目に合わせ、また辛い日々を送らせるなど・・・させてなるものか。


「待ってろ彩菜。すぐに助けるからな」


 そう決意を口にすると、俺は目の前に現れた階段を駆け上がる。


 ぜってぇ彩菜を助けてやる。



『第一ノ試練場ヘノ侵入ヲ確認 コレヨリ選別ヲ開始スル』



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