第14話 どちらを選びますか?


『おめでとうございます。第19ノ試練クリアです。ポイントが2ポイント贈呈されます』


 俺の立つ闘技場の上には、小さな死体が大量に転がっていた。

 そして俺の持つ剣には大量の血がこびりついている。


 第11ノ試練から第19ノ試練の内容は変わらず無力な者達の殺すこと。

 要求される数が増え、その要求を答えるたびに死体が増えて行った。


「・・・くそったれ」


 人でなくとも、無抵抗な者の命を奪うことに慣れることはない。

 いっそのこと全員が敵意剥き出しでかかってくれればこんな嫌な気分にならなくてすんだのによぉ。


『続きまして、第20ノ試練を始め「待て」・・・・・いかがいたしましたか? 怪我でもなさいましたか?』


 人の気も知らないで、彩菜に似た声がどんどん試練を続けさせようとする。

 ここまで来て何を・・・いや、あの子を殺さなければいけないということがわかり、俺は止める。


 第19ノ試練で俺は無力な生き物の命を9つ奪った。

 そう9つだ。

 俺と赤子を含めてここにある命は11つしかないというのに・・。


 そして第20ノ試練に赴けば・・・


『身体的な疲労、精神的な疲労があれども第20ノ試練を軽々とクリアできる状態と判断しました。ですので第20ノ試練を「待てと言ってるだろうが!」始めます』


 俺が止めるのも聞かず、試練が勝手に始められた。

 殺した生き物達の真横に、また力ない無垢な者達が現れる。


『劣る者を10匹殺し、次の試練へと進んでください』


「ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 俺が一番したくなかったこと。

 いや、通常の人間ならばまずできないことをコイツは俺に望んできやがった。


 生き物を殺すならばなんとかできる。

 無抵抗で、無力で、無垢であろうとも、人でないならば、何かを守り、何かを助ける為という理由があるならば、俺はそれを成す覚悟をした。


 その覚悟をしたから、ファンタジー生物とはいえ、ゴブリンという謎生物を殺してきたのだ。

 だというのに、ここでは、この試練では人を殺すことを慣れさせようとしやがる。

 最悪の相手で。


「ざけんなクソ野郎! ガキぶっ殺してなんになるってんだ! コレのどこが試練だ! 無抵抗なガキぶっ殺して何が試練だ! ふざけんなクソ! できる訳ねぇだろうが!」


 流石にこればかりは黙っていられず、俺は叫ぶ。

 俺の怒鳴り声に赤子が無き、周りの力無い生き物達も怯えるように、母を求めるように鳴きだすも、俺は声を荒げることを止められなかった。

 この試練は、こんな試練はあまりにも可笑しいと、命を何だと思っていると、叫び続け、叫び続けて、そして・・・・俺の目の前に彩菜の姿が映った映像が現れた。


『試練を放棄しますか? 放棄した場合、今まで得た全てのポイントも放棄されることになります。更に試練を受けないということで、彼女を生かしておく必要もなくなることになります』


 イエスともノーとも答えぬうちに、映し出された彩菜の頭上に、蛸の口のようなギザギザした化け物の口が現れた。

 返答によっては今すぐ彩菜を食い殺すと言わんばかりに。


「テメェ彩菜に手を出してただですむと思うなよ! オイコラッ! 彩菜に近づくな!」


 持っている剣で映し出された映像をぶん殴るも、何かが変わるわけもない。

 ただゆっくりと、ゆっくりと彩菜を食らい殺そうとする光景が映し出されるだけだった。


「やめろ! やめろってんだ! クソやめろよ!」


 ガンガンと殴るも何も変わらない、ただ見ている事しかできない状況だ。


『試練を放棄しますか? それとも今すぐ続行しますか?』


「くっ・・・・・・・後で『途中で試練の中断は許されていません。いったん休憩が必要な場合は試練をクリアした後にお願いします』テメェが無理やり進めたんだろうが!」


 ひとまず引き延ばしにしようとするが、受け入れられなかった。

 そして俺の意思を確認するように、彩菜を食い殺そうと気持ち悪い化け物の口が這い寄っていく。


『もう一度だけ問います。試練を放棄しますか。それとも今すぐ続行しますか?』


「そ、れは・・・・・・・」


『答えは行動で示してください』


 そう言うとご丁寧に、無抵抗な生き物を並べ始めた。

 まるで握手会でもするかのように、縦一列に並べられ、その先頭には一番殺したくない存在がいた。


「あぎゃーーーっ! うぎゃーーーーっ!」


 母を求めているのか、小さな手を伸ばす赤子。

 己では何もできぬ無力な赤子。

 いつか、いつの日か、俺と彩菜との間に生まれてきて欲しいと、そう願った赤子の姿がそこにあった。


「やれるわけが・・・できるわけが・・・」


 誰の子なのかなど知らない。

 見知らぬ子だということは理解している。

 けれど、だから何だ。

 そんなの理由になるかよ。

 殺していい理由になんて・・・・。


『・・・それが答えですか。承りました。では放棄とみなし、貴方の大事なお方を処理致します』


「やめ!?」


 俺が止める間もなく、彩菜が気持ち悪い化け物の口に放り込まれる。

 まるで時が止まったかのように、化け物の口の中に入っていく彩菜。

 鋭利な歯に食い千切られ、何も残らず化け物の胃の中で溶かされる・・・そんな想像をしてしまった。


「クソガァァァァァァァァァァァァァァッ!」


 己の判断を肯定するつもりなど無い。

 俺は最悪な奴であり、最低なクズ野郎だ。

 けどこれだけは言わせてくれ。

 俺は・・・・・俺は・・・・・・。


『おめでとうございます。第20ノ試練クリアです。ポイントが2ポイント贈呈されます。更に貴方様の素晴らしい選別に主様は賞賛しております。特別に彩菜様を無傷の状態で戻すとのことです』


 ・・・何を殺しても・・・彩菜を守りたいのだ。



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