第35話 正解のある試練1


 俺と女2人は互いに対峙する。

 というか、俺の姿を見て2人はあからさまに距離を取り、野良猫の様に警戒している感じであった。


 まぁそこは仕方が無い。

 剣と皮鎧を身に付けている時代錯誤の風貌である俺を警戒するのは当たり前だろう。

 しかも、俺が持っている剣には血が付いているのだから。


「ちょっとアンタ! それってレプリカとかそう言うやつでしょ! あれでしょあれ! コスプレってやつでしょ! ねぇ! そうなんでしょ!」


 騒ぎ出すうるさい女。

 見た目はかなり美人な女で、10人中9人の男が振り返るほどの美しさだ。

 ただ無駄に騒がしくうるさいので、俺のタイプではないな。

 それに無駄に騒がしくしているのは恐怖を吐き出す為なのだろう。

 昔こんな感じで自分を強く見せようとしていた、臆病でチビな不良がいたな・・・・・少し懐かしいぜ。


「・・・・・・・・・・・」


 そして一言も発さず観察してくる分厚い眼鏡をかけた地味な女。

 眼の下に隈ができている女で、疲労が蓄積されているのはわかるが、そんな疲れた状態でもコイツは冷静に物事を考えていそうだ。

 はっきりいって、苦手な女だな。

 頭がいい奴の相手ほど、面倒なことはない。

 口論にでもなれば、頭の回転が遅い俺に勝てる見込みはないだろう。


(・・・まぁ、ここでは腕っぷしがものを言うし、口喧嘩が弱くとも全く問題ないのだがな)


 可愛そうだと思う。

 俺は酷い野郎で、人殺しのクズ野郎で、何人もの人間の命を奪って、俺の望みを叶えようとしている時点で、救いようがないクソ野郎だと俺自身思っている。


 だけどもう止まれねぇんだ。

 止まっちゃいけねぇと思ってるし、俺自身止まろうと思っちゃいねぇんだ。

 だから・・・すまん。


「試練のルールは聞かされているだろ?」


「ルール? ルールってなによ!」


「聞かされてない・・・・とは思えないが、一応言っておくか。2人以上殺せ。でなければここから出られねぇし、このまま見合っていても時間制限がゼロになった時点で塔の奴等に殺される」


「・・ここは塔の中なのですか?」


「ああ、そうだ・・・その問いかけからすると、お前等はまだ塔の試練を受けていないようだな」


 さっきの奴等(第26ノ試練)もそうだった。

 もしかしたら第26ノ試練からは、塔の試練を受けていない奴等を優先的に選ばれ、強制的に参加させようとしているのかもしれないな。


「塔の試練はクソだ。ルールを守れないなら自分が殺されるか、己の大事なモノの命が奪われちまう。だから・・・・・・従うほかない」


「っ!? ま、待ってください! 早まらないでくださいっ!!」


「わっ!? なによ! 行き成り大声出すんじゃないわよ!」


 俺の殺意を感じ取ったのか、地味な女が慌てだした。

 騒がしい女は臆病な性格の癖に、状況が読めていないのか、大声をあげて騒ぎ出した地味な女に怒りの矛先を向けている。


 やはり先に殺すなら、頭の良さそうな地味女からだな。

 頭のいい奴は最後まで残しておいても碌なことがねぇ。

 そう思い剣を握る力が強まる。


「無視しないでください! ちゃんとルールを理解すれば! もしかしたら違うやり方で突破口が見つかるかもしれません!」


 もしかしたら、そうかもしれないな。

 そうであって欲しいと願うよ。


 けどな。

 そんな優しい願いを叶えて貰えるほど、この塔が優しくない。


「悪いな。俺が生きる為に、俺が進むために死んでくれ」


 制限時間はまだまだあるが、俺には時間を無駄にする余裕はない。

 それに無駄に言葉を交わしてしまったら、この女達を殺せなくなる気がする。

 決意が鈍ってしまう気がした。

 だから、俺はさっさと終わらせることに決めた。


「まって! まってください! 私達! 私達以外に誰かいる! 隠れている卑怯な人がいるから!」


「・・・・・なに?」


 そう決めたはずなのだが、女の言葉に俺は動きを止めてしまうのだった。


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