第36話 正解のある試練2
自分達の他にも誰かがいる。卑怯者がいる。
女の言葉に俺の動きは止まり、そんな俺の動きを好機と思ったのか女はまくしたてるように話し出した。
「貴方が先程言いました! 2人以上殺せと! それがルールだと! 条件だと! けどその言葉は可笑しいです! 普通は2人以上ではなく、2人殺せというはずです! 現状私達しかいない状況であるならば2人殺せというはずです! 以上を付ける意味なんてありません!」
「ただ希望を持たせる言い方をしただけだ。もしくはただの言い間違いだろ」
「違います! 他にも人がいるはずです! 私は塔に詳しいわけではありませんが、こういう場合は言い間違いなどするはずがありません! ですから誰か他にいるはずなんです! 信じてください!」
一理ある。
一理あるが、それが正解である可能性は限りなく低いだろう。
「俺は一番初めにここに来た。そしてお前達が目の前に突然現れ、お前達以外現れないのを見た。故に俺とお前達しかここにはいない」
「本当に貴方が一番初めに来たという確証はありますか! この場所に訪れた際ちゃんと他に誰もいないか確認しましたか! 誰か隠れていないか探しましたか!」
「確認していないし、探してもいないが・・・・・隠れる場所はここにはねぇ」
隠れる物陰など存在しない。
周りは石の壁に覆われ逃げずに戦えるようなっているだけだ。
石床の為、穴を掘って隠れるなんてこともできやしない。
「それでも確認してないなら確認すべきです! 何か見落としている可能性だってあるのですよ! そうです! この塔を管理している人に確認してみるべきではないでしょうか! 私達以外参加者がいるのか確認すべきです! この塔を管理している方! もしくは今この瞬間を見ている方! 質問したいので答えてください!」
「何をバカなことを。奴等が答えるわけが『なんでしょうか?』・・・・なに?」
「え!? なにこの声!? 頭に響いてチョ~キモイんですけど!?」
答える訳がないと思っていたのだが、俺が思っていたのとは違い、アヤとは違う声が聞えて来た。
俺と違って慣れていないのか、俺と地味な女のやり取りを遠巻きに見ていた女はギャーギャーと騒ぎ出し、問いかけた地味な女自身は驚いて硬直していた。
ただこのチャンスをモノにしなければならないと思ったのか、必死に口を開き問いかけ始めた。
「質問です! 私達以外に! ここにいる私達以外にも誰かいますか! いえ! いるなら場所を教えてください! 隠れている人達の居場所を教えてください!」
『隠れている方々はいらっしゃいません。今この場にいるのは、あなた方のみとなります』
「そ、そんな・・・・」
望んだ返答ではない事に地味な女は困惑する。
「・・・やっぱそういう事だよな」
俺も心の中では望んでいた。
コイツ等以外に隠れている卑怯者がいることを。
そんな卑怯者がいてくれれば、この女達を殺すよりも心が軽くなるだろうと思っていたから。
「・・・悪いな」
もう駄目だな。
決意が鈍る前にさっさとすませよう。
「ダメ! 待って! 待って待って! まだ聞きたいことがぃっ!? ホントまって! まだあるの! まだ確認しなくちゃいけないことが! あるぅっ!?」
「ひっ!? な、何よコイツ! マジイカレテるんじゃないの!」
女達は俺から距離を取るために逃げ出した。
地味な女もどんくさそうな見た目のわりに、逃げるのはうまいな。
できる事なら無駄な恐怖を与えずに、さっさと駆け寄り、さっさと殺してやりたいが、今の俺の身体は激しく動くと傷が開いてしまうので、追いかけっこするこの状況はマジで困る。
だから、頼むから、逃げないでくれ。
俺もこんな嫌なことはさっさと終わらせたいのだから。
「ホント待って! お願い待っててば! ああもう! もう一つ質問! ここには私達3人しかいないのか答えて! ふぎゃっ!?」
避けるのがうまいのでどんくさくないと思っていたが、そうでもなかったようだ。
普通に自分の足に引っ掛かって転びやがった。
まぁこれで、終わりだ。
痛みなく殺してやるから安心しろ。
そう思いながら俺は、思い切り女の頭に剣を振り下ろした。
『只今ここにいる人数は五人です。三人ではありません』
「・・あん?」
「ひぃっ!?」
だが、可笑しな返答が返ってきたので、俺は無理やり剣を止める事となる。
無理やり剣を止めることになったせいで、怪我した肩や足に響き、傷口が開いたのがわかる。
スゲェ痛い。
「ここに5人いるだと?・・・・どこにもいねぇだろうが」
『いいえ、五人で間違いありません』
「ほ、ほら! やっぱり私達以外に誰か隠れているんです! ですから冷静になってください!」
「・・・・・・・・・・・・・・・わかった」
塔の奴等の言葉を信じるに値するのか甚だ疑問ではあるが、無視するわけにもいかない。
もしも本当にこの場に彼女達以外の存在がいるのならば、最悪そいつ等も含めて誰を殺すか決めるべきだろう。
そんな事考えずにやっちまえよと思うだろうが、女達を手に掛けるよりも、隠れている卑怯者を手に掛ける方がいい。
「しかしさっき隠れている奴等はいないと言っていたはずだ。だというのに・・・・・・おい、アヤ。さっき隠れている奴はいないと言っただろ。なのに何故ここに5人いるとかほざきやがった」
『私が答えた訳ではありませんのに、責められるのは納得がいきません』
「そんなこたどうでもいいんだよ。いいからさっさと答えろ」
『答えろと申されましても、五人いるとしか言いようがありません』
「だから後二人何処にもいねぇだろって言ってんだ! どこに隠れてんだよ!」
『隠れてはいません』
「かぁーーーっ! 話しのわからねぇ奴だな!」
聞かれたことに対してもまともに答えられないのかよ。
この野郎は俺の事をおちょくってんのか?
「隠れていないけど5人いる・・・・けど現状どれだけ周りを見回しても3人しかいない・・・・・・けど2人いる・・・・・・2人・・・2人・・・・2人・・・・・・・・・・・・・・・・・っ!? まさか・・・そういうことなの?」
「なんだ。何かわかったのかよ」
何やらブツブツと一人呟いていた地味な女が、答えに辿り着いたようだ。
やはり頭のイイ奴や回転がいい奴は脅威だな。
そんな事を思いながら視線を向けると、
「・・・ええ、まぁ・・・多分ですけど・・・・・クソ最悪なのですけれど・・・」
「・・・・・・・・・・・」
地味な女の表情は先程とは打って変わって、屈辱や怒りに満ちた表情をしていた。
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