第39話 正解のある試練5
地味女の腹に、うるさい女が発砲した弾丸がめり込みやがった。
豆粒の穴から血がどんどん溢れ出してきやがる。
「クソッ! あの女! クソいらねぇ置き土産しやがって!」
うるさい女が悪いわけではない。
銃を奪われた俺が一番悪いのだと理解しているが、それでも悪態を付けずにはいられなかった。
「地味女! 傷口をめいっぱい抑えるぞ! いてぇだろうが我慢しろ!」
「うくぅっ!?」
いざという時のために持ってきていた治療道具を取り出し、ガーゼや綺麗な手拭いを使って傷口を抑え、血を止めようとする。
「テメェ自身も抑えろ! ここだ! あのうるせぇ女を殺したから試練はそのうち終わる! そうすりゃ家に帰れるぞ! 帰ったらすぐに救急車を呼べ! そうすりゃ助かる!」
うるさい女を殺した。
なので、腹の中にいる子供も死んだことになるだろう。
「おい! アヤ! 試練はクリアしただろ! さっさとコイツを元の場所に戻せっ!」
『いえ、まだ一名しか選別できていませんので、試練を終了させることはできません』
「はぁ!? ざけんな! 二人死んだだろうが!」
『いいえ、まだ四名残っております』
「アホなこと抜かしてんじゃねぇよ! そこに死んでるだろって言ってんだ! それともその女の腹をこねくり回さねぇとガキを殺したことにならねぇとでもいうつもりかよ!」
『そんなことなさっても意味はありません。変わらず生存者は四名のままです』
「は? どういうことだ?」
『その質問にお答えすることはできません』
「てめぇ! いいから答えろよ!」
「・・・・・・まって・・・くだ・・・さい」
「バカ喋んなっ! 安静にしてろ!」
「聞いて! ください!」
地味女にグイッと胸倉を掴まれた。
「わかった。答えが、わかった。まだ、ここには、四人、生きてる。その、言葉の、答えが、わかった!」
「なんだよ。その答えってのは・・・」
「ごめん、なさい。ごめんな、さい」
「なに謝ってんだ! 意味わかんねぇだろうが!」
答えがわかったというわりに、なぜか謝罪しか発さない地味女。
ただボロボロと涙を零しているだけである。
「謝ってないでその答えってのがわかったんならさっさと言いやがれ! そしてお前は黙れ! そのまま騒いでたらマジで死んじまうぞっ!」
「ごめんなさい、ごめん、なさい。彼女の中には、なかったの。彼女は、赤ん坊は、できてなかった。できていたのは、私、だけ、私の中に、二人いたの。私が、薬を飲めば、よかったの」
「は? 二人・・・は? 双子・・・ってことかよ」
「そう、です」
確かにそれなら辻褄が合う。
アヤの野郎が、この場に四人いるという言葉の意味が。
「く・・・マジかよ・・・くそっ」
「ごめんなさい。私が、私が判断を、間違った。あのとき、私が死んでいれば」
「・・・・・・・・・終わっちまったことだ。今更とやかく言うつもりはねぇ。それより今は血を止めねぇと。それと・・・・それと・・・・・・・・・」
腹の中にいる子供を殺して、俺とお前が助かるようにしなければならない・・・・などという言葉は、流石に吐けなかった。
「・・・薬、飲ませて、もらえませんか?」
「・・・・・・・・・」
「このままじゃ、終わらない、ですよね? なら、はやく、終わらせ、ないと」
「・・・・あぁ」
止めろという言葉を飲み込み、俺は言われるがまま地味女が落とした薬を拾い、口元に持っていく。
止めた所で何をするかなど二つに一つだ。
この地味女ともども腹の中の子供を殺すか。
腹の中の子供を殺し、試練をさっさとクリアさせ、地味女が助かるようにするかのどちらかだ。
ならば選ぶのは後者だろう。
いや、後者意外選択の余地はない。
「水だ。飲め」
「ありがとう、ございます」
薬と一緒にコクコクと地味女は水を飲む。
我ながらかなり酷い事をしていると自覚をしながら、俺は女が薬を飲みやすいように支えた。
「コクコク・・・・ふぅ・・・・・・・・・・・・すみません・・・私が・・・・私が先に、飲んでいれば、彼女は、助かった・・・のに」
「・・・バカなこと言うな。殺したのは俺だ。殺すと判断したのは俺だ。悪いっていうなら俺が悪い。だからお前が責任を思う必要なんてない」
「ちがう、違うん、です・・・だって、これは・・・これは・・・」
「いいから喋るな。すぐ試練は終わる。だから、喋るな。
おい! アヤ! さっさと終わらせろ!
すぐガキが死ぬかどうかなんざ知らねぇが、薬を飲んだ時点でガキが死ぬのは確定だろうが!
だったらこんなくだらねぇ試練終わらせろ!
コイツを元いた場所に戻しやがれ!」
『まだ選別はされていないのですが・・・・・・・確かにこのまま放置しても選別される可能性が高いですね。わかりました試練がクリア判定になるか審議いたしますので少々お待ちください』
「少々じゃねぇ! 今すぐ教えやがれ!」
『わかりました。では一分ほどお待ちください。すぐに判定いたします』
そう言うと、アヤはこちらの問いかけに答えることは無くなった。
「・・・よし! おい地味女! 後一分の辛抱だ! 戻ったらすぐに病院に行け! そうすりゃテメェは助かる! わかったな!」
「・・・・・・・・・ごめんな、さい」
「? なんで謝ってんだ? 意味わかんねぇぞ」
「ごめんなさい、違うの。そうじゃ、ない、の・・・・・・ゲホゲホゲホッ!?」
「な、なんだよ。おい、なんで血なんて吐いてんだ。腹撃たれるとそうなるのかよ。俺は医術なんざ小難しいことよくわかんねぇんだ。お前看護婦だろ。産婦人科って言っても看護婦だろ。だったら何すりゃいいのか教えろよ! 傷抑える以外になんかねぇのかよ!」
「ごめんなさい。ごめんな、さい。私は、私は・・・看護婦じゃないの」
「は?・・いやお前・・・だったらそのガキを降ろす薬ってのは・・・」
『試練クリアで良いと判決が下りました。
おめでとうございます。第27ノ試練クリアです。ポイントが2ポイント贈呈されます。
更に貴方は貴方以外の方々を全員選別しました。特別ポイントとして一人につき1ポイント、合計4ポイント贈呈されます。
誠におめでとうございます』
「は? 4ポイント? 全員選別?・・・・おい、どういうことだ」
アヤの言葉に俺は君がわからなくなった。
だって可笑しいだろ
全員って言葉はあまりにも可笑しいだろ。
少なくとも俺と、この地味女は生き残った。
生き残れるはずなんだ・・・なのに。
「ごめんなさい。ごめん、なさい。これは、中絶の薬じゃ、ない・・これは・・・これは・・・・・・・ただの毒薬・・・・なの」
「どく・・やく?」
もっと意味の分からない言葉に、俺はただ困惑することしかできなかった。
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