第44話 俺は知らない彩菜の叫び
あの変な声が人々に苦痛を与えてから、慈悲で渡された十時間の間に人々は変わった。
誰もが我先にと塔の試練へと挑み、そしてその試練で死ぬか、命を奪ってでも突き進むのかを強いられた。
中には本当に大切な人が囚われているという事実を知り、更には何もしなかったが故に大切な人が悲惨な姿となっているのを目の当たりにし、心が折れた人もいるかもしれない。
彩菜の場合は裸で極寒の地で捨てられていたが、他の人達の場合は空気のない宇宙空間だったり、火花を散らしながら回る丸ノコに囲まれていたりしたのだ。
恐らくそう言った人達がどうなるかなど、言わずとも想像できてしまうし、酷い死にざまを見たことも無い俺達からすれば、その光景を見せられて心折れるのも仕方が無いだろう。
「彩菜。行って来る」
そんな事を思いながら、今の俺と同じコンテナハウス内で、困惑する彩菜を眺めた後、次の試練に挑む。
映像内の彩菜は自分が置かれている状況を理解できず、きょろきょろしており、眺めている分には微笑ましい光景だ。
そして何かに声をかけられたのか、目を丸くし、びっくりすると一点を見つめだした。
いったい何を見つめて動かなくなったのかと思いながら、俺は己の血を杯に垂らし、次の試練へと向かった。
「――――――――――――!!」
そして俺が試練へ向かった後、画面に映る彩菜が誰かを求めるように、それでいて止めるように手を伸ばし、涙を流す姿を俺は目にする事はなかった。
救済選別者の望む世界 @kumadagonnsaburou
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