第11話 浮かんでいる器ってなに?


 塔が出現して一日たったが外はまだ騒がしい。


 それはそうだろう。

 行き成り人が大量にいなくなったのだ。

 世界中に混乱する人で溢れかえっていることだろう。


 電気が止まってテレビもパソコンも使えず、スマホもぶっ壊れて外の情報が入って来ない状況であるが、それくらい容易に想像がつく。


 まぁ、外の事は一旦置いておくとして。

 俺は今日も塔へと向かう。


 こういう時くらいあらかじめ政府が決めている避難所に行ったり、周りの人と力を合わせて誰かを助けようと思わないのか! と思うだろうが、今はそんな考えは無視だ。


 普通の災害であればその言葉に俺も共感するが、これは普通の災害ではない。


 故に自分で考えて動くべきだ。

 動かなければ彩菜が死ぬかもしれないのだから。


「準備良し。さぁ気合入れていくぜ」


 動きやすいジャージに着替え、武器になりそうな包丁と塔で拾った剣を装備する。

 もっと他に良さそうな武器や防具があればよかったのだが、残念なことにウチにはそんなものはない。


 フライパンとか持っていこうかとも考えたが、微妙なんだよな。

 確かに頑丈ではあるが、取り回しがどうにもなしっくりこないから却下した。

 シャベルなり、ハンマーなり武器を用意出来ればよかったのだが、流石に混乱状態の店に向かった所で開いているとも思えないからな。


「あ? なんだこれ? 開かねぇぞ!!」


 そしていざ気合を入れて部屋を出て行こうとしたのだが、なぜか玄関の扉が開けられなかった。

 まるで外側から鍵をかけられているかのようだ。


「仕方ねぇ。窓から出ていくか」


 できれば鍵をかけないまま家を留守にはしたくないのだが致し方ない。

 塔の試練とやらをクリアしていかなければ彩菜が安心して過ごせる環境が作れないのだから。


「あ? おいなんだこりゃ! 何で開かねぇんだよ!」


 窓の鍵を開け引っ張るもうんともすんとも動かねぇ。

 どうなってんだ?

 昨日までは普通に開けられたってのに、なんで動かねぇんだよ!


「ああくそ! ならぶっ壊れろ!」


 あまりに動かなかった為、俺は手に持っていた剣で窓を割りにかかる。

 短気は損気だよ! と彩菜に良く怒られていたが、今は許してもらおう。

 お前を助ける為なんだからよ。


 そう言い訳をしながら窓に剣を叩きつけたのだが、窓は傷一つ負うことはなく、バチバチバチッ! 放電のようなモノが起こるだけで割れることはなかった。


「な、なんだこりゃっ!」


 まるで意味の分からない現象に唖然としていると、叩きつけた窓に赤い表示画面が出て来た。


 破壊不能オブジェクト


 赤い画面にはそう書かれていた。


 ゲームかよ! と思いながら蹴りを入れてみたのだが、やはり窓が壊れる事はない。

 どうやら俺は己の家に閉じ込められたようだ。


「ざっけんなクソ! これじゃあ塔に行けねぇだろうが!!」


 こちとら一刻も早く彩菜を助けに行きてぇってのに邪魔しやがって! マジでふざけんじゃねぇ!


 もしかしたら一度塔を出たら入れないのかと焦る。

 ギリギリ、本当にギリギリ人が生きられる環境ではあるのだ。

 身体の弱い彩菜があんなくそ環境にいたら死んじまう。

 どうにかしねぇとなんねぇ!


 その一心で俺は何度も何度も窓を蹴り、剣やら家で頑丈そうな椅子などで壊そうとした。

 だが残念かな。

 相も変わらず、赤い表示画面が浮かぶだけで、壊れることはなかった。


「だーっ! チクショウ! どうすりゃいいんだ!」


 暴れてみたものの、結局進展はなかった。

 逆に昨日手当てしていた足の傷が少しばかり開いたぞ。


「・・・マジでどうすりゃいいんだ・・・・・・・って、今度は何だ?」


 破壊不能オブジェクトと書かれた赤い表示画面が消え、変わりに黄色い画面が浮かび出された。

 そしてその黄色い画面には、 器ニ血ヲ捧ゲヨ と書かれていた。


「器? 器といえばコイツの事だよな」


 リビングの中央で浮かんでいる青白く発光する器があり、俺はその器に近づく。


「そういや、この器に血を垂らしたら帰ってこれたな。もしかしたら血を垂らすことで外に出れるのか? それとも、塔に戻れるのか?」


 仕組みはわからんが、塔に戻れる可能性があるなら試すのも一興。

 このまま何もできずに部屋に引きこもっていても彩菜を助けられないからな。


 そう思い俺は傷口が開いて血が流れている足から血を一滴拭い、器に垂らした。

 すると塔から戻ってきたように、まばゆい光が発生した。

 そして光が収まり目を開けると、そこは見覚えのある塔の中へと戻っていた。


「・・・この器ってのは、ゲームでいう所のポータルとか、そういう感じの役割なのかよ」



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