第42話 最後の1日


 1日11時間21分0秒


 12時間ほどゆっくり休息を取った後、俺は再度試練に挑む。

 目標分のポイントは得られたが、時間があるうちにもっと得ておきたい。

 また無理に動けば、また傷口が開くことになるだろうが、それでもこの時間内に出来ることはしておきたい。

 そうした方がいいような。そんな予感がしているからだ。


 そんな己の直感を信じて杯に血を垂らし、次の試練へと挑んだ。




「俺の言う通りに塔に行きたいと願え。そうすりゃこんなクソ面白くもないココよりも、遥かに楽しめる場所に行けるぜ」


 以前第26ノ試練に強制参加させられたある男が、刑務所内にて仲間を集め、そんな事を言っていた。

 勿論集められた仲間達は、そんな突拍子もない言葉を疑いなく信じる程、脳内お花畑ではなかったため、安易に信じることはなかった。


 だがそうなることは男も想定済みだったのか。

 まず己がやって見せた。

 塔に行くという力を。


 そして塔に行くということは、その場から己がいなくなるという事。

 今目の前にいた奴が行き成りいなくなるという事であり、そんな光景を目のあたりにさせられれば、いくら疑心を持っていようとも、もしもこのクソ面白くもない刑務所から出られるのならばと、みな試し始めた。


「ははっ、マジで変な所にいけたぞ」


「なんだこりゃ。おもしれぇな」


「つか俺の金が全部奪われてたぞ! 宝石も金塊も何もかも!」


「俺も薬が奪われてたな。アレを上手く捌けば、億になるってのに・・・塔の野郎。ふざけやがって」


「さっさと捌かねぇから奪われるんだ。まぁ俺様も塔にはムカついちゃいるがな。俺様愛用のナイフを奪いやがって。ここを出てもアレで切り刻めねぇだろうがよ」


「くく、ここにいる奴等は物くらいしか奪われてないのか? 薄情だねぇ。誰か一人くらい大切な人を奪われた奴はいないのかよ」


「人なんざ所詮オモチャだ。ここはそう言う奴等しか集まっていねぇだろ」


「まっ、そうだな」


 皆今起こった超常現象に、興奮しながら、塔に怒りを向ける・・・・・と同時に、感謝もしていた。

 第一ノ試練で緑色の良く分からない化け物と出会い、殺した。

 殺すことが許された。

 ただ殺すのではなく、遊ぶように殺しても咎められることはない。


 故に感謝した。


 退屈な日々に刺激を与えてくれたことに。

 自分達が求める最も嬉しい快楽を与えてくれたことに。


「わかったかテメェ等。これからは好きなだけ殺しにいけるってことだ。まぁ、報酬がポイントとかクソ程にも役に立たねぇもんだが、そこは気にすんな。試練をクリアし続けりゃあその内生の人間を殺す機会が巡ってくる。第26ノ試練では俺は生まれたばかりの赤ん坊を殺せたしな!」


「おぉ! マジかよ! そりゃあいいや!」


「おい! その赤ん坊男か? 女か? 殺すなら無理やり俺のイチモツツッコで、ぶっ殺してみてぇぞ!」


「げははははっ! 乳幼児に発情してやがるこいつ! きもちわりぃ~!」


「テメェだってやるだろ。どれくらいでくたばるのか気になってよぉ」


「俺はそこまで変態じゃねぇぜ。まっ、赤ん坊の頭を引き千切ってはみたいがな。どれくらいの力で引き千切れるのか興味があるぜ」


「非力なテメェじゃ一生かかっても無理だ」


「あんだと! テメェ喧嘩売ってんのか! 切り刻むぞゴラァッ!」


「やってみろやゴラァァッ!」


「おうやれやれ! ぎゃははははっ!」


 楽し気に笑いながら、取っ組み合いのけんかを始める男達。

 そして男達の喧嘩に触発されて、眺めていた男達も隣の仲間に襲い掛かった。


 彼等は仲間ではあるが、一般的な仲間とは異なり、仲間を思いやるということはしない。

 ムカつけば殴るし、犯すし、殺す。

 何事も気分次第で動く奴等の集まりだ。

 ただ同じ価値観を持ち、殺し以外にも使える技術を持っている者達であるため、利用できると思い集まっているだけである。


 故に彼等には一般的な仲間意識というのは存在しなかった。


 そして普段はそんな彼等を咎める看守がいるはずなのだが、塔の出現から人手が足らなくなり忙しくなっている為、彼等を止める者はおらず、何人か死ぬことになったのだが、


「「「「「ぎゃははははははっ!!」」」」」


 彼等がそんな死体を見ても、ただ楽し気に笑っているだけであった。



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