第27話 第25ノ試練をクリア


 2人目

 新たに発見した敵は全裸の男・・いや全裸のお爺さんであった。

 相変わらず意味も無く、う~あ~と声をあげており、手に持っている遺影を振り回していた。

 意思すらなさそうな相手。

 そんな相手を殺さなければならないことに吐き気を覚えながら、結局俺はお爺さんを殺した。


 殺し方は振り回す杖を掴みこちらに引き倒し、倒れ込んだ際に上半身を踏みつけ、首に一刺し剣を突き刺しただけだ。


 利き手ではない左手でも簡単に殺せる方法だ。

 ただ簡単に殺せても、簡単に死ねる方法では無かった。


 喉に剣を突き刺されたお爺さんはすぐに死ぬことはなく、バタバタともがき苦しみ、血を吐きながら死んだ。

 苦しまずに殺してやることができなかったことに、ちくりと心が痛み、勝手に俺の目からポロリ雫が落ちた。


 その雫を俺は拭うことはせずに床に転がる遺影を拾い、罠を避けて先を進んだ。




 3人目は全裸の女だった。

 大学生くらいの年齢で、プロポーションが整った女。

 今までの者達と違い、男を誘うような色っぽい仕草を行う女。

 そんな女が全裸姿で居れば男ならば少なからず、滾るだろう。


 だが今の俺にそんな感情は一切浮かべられなかった。

 ただやらなければいけないことをやるだけ。

 ただやらなければいけないことを、できるだけ痛みを与えず、苦しませず終わらせるだけ。

 そう思い近寄ったのだが、女はバランスを崩し自ら罠を踏み抜いてしまった。


 左右の壁から現れた丸ノコ。

 その丸ノコで女の身体は切り刻まれ、女の口から悲痛の叫びが発せられた。


 女の動きを察知していなければ今頃俺の身体も切り刻まれていたのかもしれないと思いながら、助けを求めるように這って来る女の首に剣を突き刺した。


 殺し終えた後、力いっぱい握っていたのだろう女の手から指輪が転がり落ちた。

 結婚指輪ではないオモチャの指輪。

 その指輪に何の意味があるのかわからないが、俺はそのオモチャの指輪を拾い、先を進んだ。




 4人目

 足の無い男

 小さなボロボロのヌイグルミを掴みながらズリズリと床を這っていた。

 どう殺したかなど説明する必要はないだろう。




 5人目

 相手は外国人の男だった


 身体がデカイ


 毛が濃い


 地毛が金髪だ


 家族の写真を握っている


 そんな男だった


 今までのように敵意も殺意も無い男だった


 そして・・・・・デカいせいで・・・・・・・・・殺すのに手間取ってしまった




 6人目


 また男だ


 そして俺はこの男を知っていた


 別に仲良くない相手だ


 ただ同じ職場で働いているだけの男


 ただそれだけの関係であったが




 殺す覚悟が決まるのに時間がかかってしまった




 7人目・8人目・9人目

 もう・・・何が現れたのかなど説明する必要性を感じない。

 男なのか女なのか老人なのか子供なのか外人なのか知り合いなのか若いとか幼いとか、もうどうでもいい。


 どうせやることは変わらないのだから。


 そんな感じで俺は9人目まで殺していった。


 殺しながら、彼等が大事そうに持っていた物を拾い進んだ。


 そして10人目

 このクソッタレの試練は、またも俺に最低な選択を強いることを強要してきた。



 10人目は70歳前後の女性だった。


 俺の知る女性だ。


 お世話になった女性で、頭の上がらない女性だ。


 そして彩菜が懐いていた女性だ。


 彼女は彩菜と同じ病室で、同じように苦しみ、そして俺が合えない時間支えてくれた人だ。


 励ましてくれた人だ。


 とても優しく、とても厳しく、とても面倒見がよく、金に余裕のない俺達に少しでも手助けできればと、自分の財布からお金を渡してくる人だ。


 渡されたお金は少額ではあったけれど、大変な時に頑張れと言ってくれた人だ。


 金を返す当てもないのに、病気が治る見込みもないあの時の俺達を支えてくれた・・・そんな人を俺に殺せとこいつ等は望んでくる。


『選別してください』


 いい加減うんざりしてくる催促。

 彩菜の声で、彩菜が大切にしていた人を、俺達を支えてくれた人を殺せと催促してくる。


 頭がどうにかなりそうだ。


「あうお、ひ~お~、ふ~」


 声までも同じだ。

 なんの意味もない、口から発せられるその声までも、俺の記憶と同じだ。


 俺は女性を優しく自分の元へと引き寄せる。

 そして


 カチャ


 右手に持っていた銃を恩人とも呼べる女性の額に向けた。



 傷を負った右肩を無理やり動かしている為かなり痛むが、そんなことはどうでもいい。

 そんな事よりも両手でしっかり持ち、ちゃんと狙わなければならない。



 銃の重さと痛みで銃を持つ手がガタガタと震える。

 他人ではない。

 恩のある方。

 俺だって彩菜と同じでこの人が好きだ。

 けれど殺さねばならない、俺は彩菜の方が大事だから、助けたいから・・・。

 けど、やっぱり・・・好きな人を殺す恐怖が身体の震えを止めてはくれない


「・・・・・・ごめんなさい」


 謝罪の言葉など吐かないと決めた。

 そう決めていたはずなのに・・・・俺の口は許しを請うように声を出していた。


 最低な事をすることには変わりはないのに。








 パンッという乾いた音が響く。


 そして怒りと悲しみに満ちた獣が吠える声も響き渡った。



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