第25話 これは魔物だ 人ではない


 全裸姿の成人男性。

 涎を垂らし、単語を口にしながら虚空を見つめている。

 俺がすぐ傍にいるというのに、反応することはない。


『選別してください』


 成人男性の傍で数分佇んでいると、アヤが声をかけて来た。


 剣を握る手に力が入る。


「・・・・・・・・・」


 今ここで暴言を吐き出したい。

 ゴブリンが相手だと思っていたら、人に似せた生物を生み出すとかふざけるなと、テメェ等は何度人を馬鹿にすれば気がすむんだと、吐き出したかった。

 だがそんな事を言った所で意味など無い。


 こいつ等の「選別しろ」という言葉に従わなければ、またも彩菜の命を盾にされるだけ。

 何も変わらない。

 何も変えられない。

 故に怒りを吐き出すことなど時間の無駄だ。


「・・・・・ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」


 そう結論づけた俺は、深く息を吐いた。

 怒りを吐き出すように。


『選別して「黙れ」・・・』


 自分でも驚くほどに冷え切った声が俺の口から発せられた。

 つい先ほど怒りを吐き出したばかりだというのに。


「・・・・・・・・・」


 持っている剣を両手で握り近づく。


「あが? あへ~」


 男が俺に気付きにんまりと笑みを浮かべる。

 そしてゆっくり、そうゆっくりと銃を持っている腕をあげ、銃口が俺に向けられる。


「・・・・・・・・・」


 銃に弾が入っていれば撃たれるだろう。


 引き金を引く前に動くべきなのだろう。


 そんなことはわかっている。

 わかっているが、


「あ~ば、ばえ~ひ~」


 銃が重かったのか、男は銃を捨てて、無意味に腕を振る。


 まるで踊る様に。


 まるで赤子の様に。


「・・・・・・・・・」


『・・・・・・・・・』


 珍しい事にアヤが再度催促して来ない。

 いくら俺が黙れと命じたからといって、言うことをきくとは思えないのだがな。

 もしかしたら俺の思考を読むことができるのかもしれない。


「・・・謝って済む事じゃねぇからよ。存分に恨んでくれ」


 剣を振り上げ、俺は一撃でもって男を切り伏せた。

 今までのように、首がごとりと落ち、身体が重力に逆らえずに崩れ落ちていった。

 そして



 カチッ



 ボタンが押される音が聞こえると同時に、倒れ伏した男の身体が長くて鋭利な槍に突き破られ、その槍は俺にまで迫ってきた。


『心してと忠告しましたのに』


 アヤのそんな呟きが聞こえた気がした。



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