第16話 無気力な日


 カチカチカチカチ


 俺は部屋の中で横たわり、ただ時計の秒針を眺めていた。

 カチカチと規則正しく動く秒針。

 それを眺める意味がある訳でも、興味がある訳でもない。

 ただ視界に入るから見ているだけだった。

 そうただそれを見て、それを・・・・


「・・・・う・・・うっぷ・・・・・・」


 不意に瞼が落ちる。

 瞼が落ちた理由は、あのクソッタレの試練から帰って来てから寝ていなかったからだ。

 そして、瞼が落ちて吐き気を催しトイレに駆け込んだ理由は、瞼を落した瞬間殺した赤子を思い出したからだ。

 ゴブリンを殺したよりも、命を奪ったという酷い罪悪感が押し寄せる。


「おえぇぇぇぇぇぇぇっ」


 何も食べていないせいで、胃液だけが吐き出される。

 もう何度も何度も吐かされて、喉や胸が痛い。


 けれど何度吐いても、何度吐き出しても、目を瞑ると思い出してしまう。

 無抵抗な赤子が殺したことを。

 そしてその赤子の親が、なぜ殺したと血の涙を流しながら俺を殺しに来る夢を・・・。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・うっぷ・・・・・く・・・・くそ・・・くそ」


 身体が震える。

 これが、これが赤ん坊ではなく、極悪人だったならばもっと楽になれたのだろうか?

 殺していいと、殺さなければならないと、多くの人間が殺しても問題ないという人物ならば、こんなにも辛くないのだろうか。


「ふざけやがって、ふざけやがって、ふざけやがって」


 ガンガンと壁を殴る。

 壁を殴ると拳が痛むが、今はその痛みが俺にはありがたかった。

 己の身体を痛めれば、俺の罰であると思えるから。


 そうして俺は壁を殴って殴って、身体を痛めつけながら、不意に殴るのをやめリビングに戻り横になり、またボーと無気力に過ごす。

 やらなければならないことがあるというのに・・・俺は丸1日無気力で過ごした。



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