47 死界へ向かう準備(ドリス視点)

 ルーツにも休息が必要らしい。あの闇の外装の力は今のルーツには負荷が大きいそうだ。何となく私はそんなルーツの側にいたいと思い、彼に付き添った。ルーツ自身、外装がどのように設計されているのか興味があるらしく、コピーのルーツとサナも一緒だ。


「前に俺が使っていた外装は、闇の魔力を解放した時に逃さないようにするものだったが、これは思想はだいぶ違うな」

「ええ。今のオーデルグは闇の魔力を身体に取り込んでいるわけではないですから」

「だったら、外装の方に蓄えてしまえという発想ですよ」

 三人が話し合っている。


 ルーツは楽しそうだった。ルーツの二人への感情は愛情の類ではないようだけれど、その親愛はよく分かる。私にはこの三人がどういう関係なのかは分からない。ルーツはあまり過去を語ることはしないから、複雑な事情があるのかもしれない。


 ただ、三人の魔道士としての強さは本物だし、彼らの話は私にも興味深かった。私も外装を見せてもらうと、服の繊維に闇の魔力が蓄えられているのが分かる。しかし、分からないことも多い。例えば、あの触手はどうやって発現させたのだろうか。


「あー、それならここだよ」

 コピーのルーツが外装の左手部分を指さした。確かに、繊維に紛れて小さい魔物の肉片のようなものが付いている。これに闇の魔力を流すと巨大化し、操ることができるらしい。あんな風に自在に操れるのはルーツの技術があってのものだそうだ。


「しかし、どうやって闇の魔力を集めたんですか?」

「確かに、それは気になるな」

 私とルーツが尋ねた。


「なら、本人に聞いてみますか?」

「え?」

「いでよ、ジャークゼン!」

 サナが右手を前にかざすと、空間に亀裂が出来て、中から巨大な体躯の化け物が姿を現した。


「な……、これは!?」

 私は驚いて思わず身構える。しかし、ルーツは顔見知りに会ったような表情をしてその怪物に向き合った。


「お前、消えていなかったのか、大悪魔ジャークゼン……」

「勝手に殺すな、魔道士オーデルグ。トコヨニ様が消えてしまったから、私の破壊の役目も終わった。だから、今は召喚獣として存在している」

 ルーツは苦笑している。雰囲気からして、知り合いのようだ。大悪魔などと言っていたし、本当にルーツはスケールの大きい人だと思う……。


「それにしても、お前がこの外装の闇の魔力を?」

「私はお前が価値を見出さなかったぐらい力は弱いが、そういう技工は得意なのだよ」

「なるほど、そういうことだったのか……」

「しかし、トコヨニ様の協力者を名乗っていたくせに、トコヨニ様を利用するとはな」

「不服か?」

「いいや、あの方の考えは私には分からぬ。特に言うことはない。生き残ったトコヨニ様の配下は私ぐらいだから、後は好きに生きさせてもらうさ」


 ルーツとジャークゼンの会話は私には分からない。キョトンとして様子を伺っていた。


「ジャークゼン、また何か作る時には頼むよ」

「人使いの荒いことだな、後輩」

「ふふっ。じゃあ、またね」

 サナが何やら呪文を唱えると、ジャークゼンの姿は消えてしまった。


「ドリス、俺たちにしか分からない話をしてすまないな」

「ううん。分からないけど、積もる話もあるんでしょ?」

「ああ。……いつか君にも話すよ。俺たちが前いた世界で何をしていたのかを」

「分かった」

 ルーツの顔は儚げだ。やっぱり無理に聞くことではないのだろう。しかし、話すと言ってくれたので私はそれを待つことにした。


「ところで、今のサナの魔法は何なの?」

「あれは召喚魔法。異界にいる召喚獣を呼び寄せることができるの」

「へぇぇ、そんなものが……」

 私の疑問にサナが答えた。


「東の最果てにも召喚獣に乗っていく。空路をね」

「そう……、空を飛べる者も呼び出せるんだ……」

 コピーのルーツの説明に、私は一応の驚きを見せた。もう今日は彼らの行動に驚かされっ放しで、大げさに反応する気力は失せていた。


「準備が整ったら、決行は明日だな。あの悪魔アブタビムが体勢を整える前に」

「ええ、そのつもりです」

 ルーツにコピーのルーツが続いた。


 明日、か。今度こそ死界との決着になるのだろう。けれど、今度こそきっと大丈夫だ。強い味方がこんなに増えたのだから。


 ふと、ルーツが道具を片付けている最中に、コピーのルーツとサナが私に話しかけてきた。


「ドリス、君はオーデルグ……、ルーツを信頼してくれているようだね」

「それは……、ずっと頼ってきたから」

「あの人も複雑な過去を持っている。ドリスが支えになってあげてくれると、嬉しいわ……」


 支え? 私は支えられてきた身だ。私に務まるのだろうか、そんな大役が。


 しかし、この二人にそう言ってもらえるなら心強かった。私も、ルーツの支えになれるのならそうありたいから。


「分かったわ」

 だから、私は二人に肯定を返した。二人は微笑みながら私の肩を叩いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る