49 召喚魔法による移動(ルーツ視点)

 朝早く起床し、俺は闇の外装の準備をした。初回は一晩かかってしまったが、二回目からはそこまでの時間はかからないはずだ。


 外装を羽織り、闇の魔力の受け入れをする。下手をすると闇の魔力に飲まれてしまう危険な処置だが、前の世界で俺は闇の魔力を身体に取り込んですらいたから慣れたものだ。同時に適当に朝食を取りながら外装とパスを繋ぐ。


 完了したのは、日が登り始める頃だった。


 そして俺は自室を出た。行き先は養成アカデミーだ。秘密裏に作戦を完遂するためだった。


 俺、ルーツ、サナ、ドリス、ウィル、マヤ、デルロイの七人で東の最果てに乗り込む。サナの召喚獣はそれほどの人員を乗せられないので、少数での突入作戦となる。


 落ち合う予定の部屋には、既にルーツとサナが来ていた。


「オーデルグ、来ましたね」

「おはようございます」

「ああ、おはよう。君たちがいるのは本当に心強いな」

 俺はルーツたちに声をかけた。本当に言葉の通りだ。彼らが来てくれて本当に良かった。その力だけではない。ルーツとサナが来なかったら俺は闇の力なしで戦うことになっていたし、ウィルの時巡りの問題で世界は滅んでいたかもしれない。


 程なくして他の四人も現れた。皆、一様に緊張しているようだった。ウィルにとっては、未来の記憶からすればリベンジ戦だ。いや、ドリスが魔女の秘法で世界を繰り返していたから、ルーツとサナ以外の五人にとってもリベンジということになる。


 負けられないな、と思う。それに、俺の妄執も少しは晴れる気がするから頑張りたい。俺のしてしまったことに報いるために、俺は何かを救いたいのだから。


「さて、行きますよ、皆」

 サナが問いかけ、俺たちは肯定を返した。召喚魔法による大移動はサナにしかできないから、ここはサナに始まりを告げてもらった。


 七人で東門に向かう。現場は、死界討滅軍が見張りをしている場所だったし、俺たちは独自作戦の情報を説明しなかったから何事かと尋ねられたが、極秘作戦と誤魔化して外に出た。


 ある程度進んだところで、ルーツがサナに目配りをする。サナは頷き、声を発した。


「いでよ、ルーンドラゴン!」

 その声と共に、サナの目の前に一匹のドラゴンが姿を現す。


「うへぇ、本当にドラゴンを召喚するとは……」

「す、凄いな……」

 デルロイとウィルが言った。


「空の旅……か」

「それは想定してなかったよね……」

 マヤとドリスも呆けた声を出した。


 そしてルーツを先頭に、俺たちはルーンドラゴンの背に乗った。


「さあ、行くよ。皆、魔法陣に捕まって」

 ルーツが俺たちに声をかける。


 ルーンドラゴンの背中には魔法陣が刻まれており、それに同調することで身体を固定できるようになっていた。上手い手法だと思う。


 ルーンドラゴンは飛び立ち、あっという間にセンクタウンが見えなくなった。


「は、速い!?」

「凄ぇな、こりゃ!!」

 ウィルとデルロイがはしゃいでいる。やはり男子勢にとっては、この展開は心が高揚するのだろう。ドリスとマヤは地上の景色に息を呑んでいる。


 東方面は、死界のドス黒い瘴気で大地が見えなかった。改めてその脅威が思い知らされる。ウィルの未来では、ほとんど全ての大地がこれに飲み込まれてしまったというのだから、恐ろしい現象だ。


「ただ、東の最果ては分かりやすいな」

「うん。上空からならよく分かる」

 ルーツとサナが言った。


 東に目を向けると、ちょうど死界が晴れるところがある。その先は海しかない。死界は西へ西へと進むから、始まりの地より東には侵攻していない。それは、西の最果てを超えて世界を一周しなければ達成されないのだ。


 しばらくそのまま空の旅が続く。しかし、ルーンドラゴンの圧倒的なスピードにより、ついにその場所が見えてきた。


「いよいよだな」

 俺が代表するかのように呟いた。


 ドリスの情報によると、東の最果てにある巨城、元魔導研究所の入り口にはアンデッド・ドラゴンが待ち受けていたのだという。しかし、それはもう退治されたからいない。


 ならば、残る脅威は悪魔アブタビムと、本来のベルビントが素体となったというアンデッドの巨人、そして未だ残る時空の乱れだ。


 巨城の上階は外からは入れない仕組みになっているので、俺たちは着陸して入り口から乗り込んだ。そして、探知魔法を使ってアンデッドとの交戦をできるだけ避けて巨城を進んだ。



    ◇



「来たな……」

 最上階の手前で、アブタビムが待ち受けていた。


「アブタビム……」

「てめえか……」

 ドリスとデルロイが言った。


 アブタビムの身体は膨れ上がっている。多数のアンデッドの肉体を取り込んだらしい。なりふり構わずに戦力を増強したようだ。


「恐らく、私はお前たち七人には勝てない。だから、せめてためにこの身体を準備したのだ」

「勝ちを諦めたか、アブタビム」

 アブタビムに俺が答えた。


 この悪魔は自分が滅されることをそれほど恐れてはいない。だとしたら、やはり目をつけたドリスに最後に危害を加えようという腹なのだろう。


「ルーツ……、あれ、やる?」

 ドリスは俺に尋ねた。ドリスも何となく感づいているのだろう。


「いや、この間とは状況が違う。この七人がいれば君の魔力はそのままでも勝てる。温存しよう」

「え……。う、うん、分かった……」

「なるほど、魔女の力が増していたのは貴様の仕業だったのか……。だが、温存とはどういうことだ? 舐められたものだな……」

 プライドに触ったようで、アブタビムの目が光り、魔力が溜まり始めた。


「必ず後悔させてやるぞ、人間!」

「そんなことにはならない。ドリスや俺たちを舐めるな!」

 俺はアブタビムに叫び返し、戦闘が開始された。

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