37 悪魔の企み

 悪魔アブタビムは死界にいながら、使い魔の鳥を介してドリスたちの動向を観察し、ウィルに邪悪な声をささやいてきた。


 魔女が世界をやり直していることを認識しているアブタビムは、何もかもがゼロからスタートしているわけではないということを理解している。ウィルが、恋人のはずのマヤに裏切られる度に心に闇を抱えてきたことも、それが無意識に蓄積してきているのもを知っているのだ。


 今回、ベルビントに抱かれた直後のマヤをウィルが抱くという珍しい展開になり、ウィルの苦悩を存分に楽しんだ。そして、ウィルをアンデッドに堕とすのに十分じゅうぶんな状態になったと判断した。


「よしよし、良いぞ! 此度は本当に面白い世界になりそうだぞ、魔女よ。ウィルの心を放置してきたお前にも落ち度があると分かった時のお前の顔が見ものだなぁ……」

 狂った呟きをしながら、アブタビムは死界側でも準備を始めた。今回はウィルを堕とすだけでなく、今までに無かった死界側からの攻撃を予定しているのだ。それは、今まで人間が利用してきた大転移を逆に利用するものだった。


 アブタビムはアンデッドをある程度制御することが出来たから、アンデッド・ドラゴンを東の転移陣のある教会に待機させた。そして、東側から西の大転移魔法陣にパスを通した。


「日の登る直前……、頃合いだな。この時間に悪い知らせを受けるのが人間は一番嫌だろう。さあ、行くぞ!」

 アブタビムは転移陣に手をかざし、魔力を持って転移を起動させた。


 西の大聖堂と目の前の転移陣が繋がったから、向こう側にいる人間たちの様子もよく分かる。勝手に起動した大転移にパニックになっているようだった。


「これ、まさか、死界側からアンデッドがやって来るんじゃ……!?」

「まずい!! 退避だ!!」

 大聖堂にいた人間たちはパニックとなって大聖堂から一目散に逃げ出していったようだ。


「良いぞ良いぞ、逃げるがいい人間共よ。果たして何人が生き残れるかな?」

 アブタビムは東の教会の地下から地上に向かって土魔法を放ち、大きな穴を開けた。そして、待機させていたアンデッド・ドラゴンを引き寄せた。


「西のセンクタウンはこれより死界に飲まれる。止めようとしても止められまい。ここから随時アンデッドを投入するからな」

 アブタビムは、アンデッド・ドラゴンと、周囲にいる多数のアンデッドと共に転移陣に入った。


 アンデッド・ドラゴンは地面を破り、地上に出た。アンデッドたちも続いていく。そして、その場所からセンクタウンは目と鼻の先だ。


「さあ、待っていろ魔女よ。お前の絶望に歪む顔を楽しませてもらうとしよう」

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