35 思いがけない再会(ルーツ視点)
「うわっ、ミスった!」
「やった!!」
デルロイが叫び、ウィルが呟いた。養成アカデミーでの模擬戦の訓練だ。条件付きの模擬戦とはいえ、初めてウィルがデルロイから一本取った。俺は拍手をしながらウィルを出迎えた。
「やるじゃないかウィル」
「いや、どうだろ。だいぶ幸運だったと思うけど」
ウィルは
「何だ、謙遜なんかすんなよ、ウィル! お前が頼りになるってことなんだからな!」
「わっ、デルロイ!」
デルロイがウィルの背中をばんばんと叩く。本当に、ウィルはデルロイのお気に入りなんだなと思わされる。
「さてウィル。ちょっと魔力検査をしたいんだけど、この後いいかな?」
「え? いいけど……」
俺はウィルを検査室に連れていき、魔力を見ると称して身体を見させてもらった。
「うーむ……」
ウィルに魔力に乱れがある。いや、魔力ではない、何かが乱れている。これはもう、間違いないな。
「ルーツ……? 僕の身体に何か……?」
「いや、何でもない。魔導具使いになって魔力の訓練が減ったから、魔力量が落ちていないか確認しただけだよ」
「そっか。でも、ルーツには感謝しなきゃな。おかげで特別ルールとはいえ、一回でもあのデルロイから一本取れたよ!」
「前にも言ったけど、俺はきっかけを提供しただけ。努力したのはウィルだよ」
俺は笑いながら検査室の機材を片付けた。
ウィルはもう少しアカデミーで訓練していくとのことで、俺はアカデミーを出て道を歩いた。
「ふぅぅ、まいったな……」
詳細に検査して分かった。間違いなくウィルだ、時空の乱れの発生源は。
「世界の矛盾か……、なるほどな……」
原因は分かってしまった。ならば時空の乱れを解消する方法はただ一つ。世界の矛盾を消し去ること。急がねばならないだろう。もう時空の乱れは放っておいていい段階ではない。いつ決壊するか分からないのだから。
俺は上空を見上げた。そこにある時空の乱れは、デルロイやマヤ、ドリスといった強い魔道士でも気づけないらしい。死界討滅軍にいるはずの凄腕の魔道士たちでもだ。しかし、時空の乱れは確かに大きくなってきている。
その時、誰かが俺の後ろに立っているのに気づいた。
「ルーツ」
「えっ!?」
その声を聞いた瞬間、俺は心の底から驚き、そして振り向いた。
「しばらくですね」
「サ……、サナ!?」
そこに立っていたのは間違いなくサナだった。俺の幼馴染のサナ王女ではない。彼女とは魂の色が違う。俺がそれを間違えることはなかった。目の前の少女は、前の世界の破壊神トコヨニに創り出された、サナ王女のコピー人間だ。
「まったく、看取ったつもりだった私たちが馬鹿みたいじゃないですか。挨拶ぐらいしに来てくれても良いのに……」
「は……、ははっ……!!」
今のサナの姿に、俺は思わず笑みを浮かべてしまう。
前より綺麗になったとも感じるが、それ以上に驚かされるのは溢れ出ている魔力。俺と戦った時から考えても比べ物にならないほど強くなっている。どれだけの
あまり驚いていないところを見ると、俺が生きていたことは……、正確には転生していたことは知っていたようだ。ユグドラシルの精あたりから知らされたのかもしれない。
「どうしてこの世界に?」
「異世界を冒険する機会に恵まれて、その成り行きでここにも来ました」
「そうか、そんなことをしているのか。ルーツも一緒に?」
「ええ、ここにも来ていますよ。ルーツにそう言われると非常に紛らわしいですけどね」
「くっくっく、全くだな!」
そんな雑談をしていると、コピーのルーツが手を振りながら歩いてきた。ルーツも驚くほど魔力が研鑽されて逞しくなっていた。
俺は彼らに未来を託したのだ。だから、この二人がより大きくなっていたのを見られて本当に嬉しかった。久々に高揚する心を抑えきれず、二人と順に握手を交わす。
「ルーツ、あなたが生きていることは、ジャックやリリィやブルーニーあたりには伝えても良かったんじゃないですか」
「いいんだよ、これで。俺は今はこの世界の人間なんだから」
「そう言う気がしていました……。ルーツに確認を取らずに私たちが勝手に伝えるのは違うと思ったので、彼らには何も言っていません」
「ああ、すまないな。それと、俺のことはオーデルグでいい。紛らわしいだろ」
「え……。まあ、俺たちは構いませんが、良いのですか?」
「ああ。別にオーデルグという名前に落ち目を感じていたりはしない。ここは分かりやすさ優先で良いよ」
「分かりました、オーデルグ。まあ、逆にこっちのルーツをオーデルグと名乗らせても良かったかもしれませんが」
「それはやめろ、ますます分かりにくい!」
俺たちはそんなことを言い合って笑い合った。そういえば、かつては敵同士だったから、こんな風に談笑するのは初めてだ。
「さて。積もる話もありますけど……」
「今はほら……」
ルーツとサナはそう言うと上空を見上げた。
「流石だな。気づいていたか」
「事情も聞いています。時の流れの問題、そして世界の矛盾、ですよね」
「ああ……。発生源の二つはもう特定しているんだが」
「二つなのですか? そういうことなら、俺たちも恐らく片方を見てきました」
「そこでオーデルグがこの街にいることを知ったのですよ。そこにいたスタッフがルーツのことを知っていたので」
「そうか……」
そして、この二人なら問題の本質も一目で分かるだろう。俺は確認のため、二人に聞いてみた。
「ルーツ、サナ。君たちはオリジナルとコピーの区別がつくか?」
「ちょうどここにルーツとオーデルグがいるからよく分かりますけど、二人は魂の色が違いますよ」
「俺も、そこは間違える気がしません」
「ははっ、期待通りの答えだよ」
魂の色は誰もが違う。オリジナルとコピーの関係だったサナ王女と目の前のサナも違ったし、俺と目の前のルーツも例外ではない。同じ魂の色の者が複数いることは本来絶対にありえないのだ。
「だったら養成アカデミーに行こうか。君らが見れば一目で分かる」
「なるほど、そこにいるのですね、もう一方が?」
「ああ」
二人は協力してくれる気まんまんだった。彼らが協力してくれるのなら百人力というレベルではない。闇の魔力を失った今の俺からしたら、彼らの強さは手の届かないレベルにあるのだから。
「だけど、俺たちが見たら、それを認識している人間が増えることになる」
「それがさらなる世界の矛盾に繋がって、時空の乱れが加速することになるかも」
「そうか、そうかもしれないな……」
「だから、先に戦力を整えましょう。オーデルグ、これ、使いますか?」
「これは……?」
サナが差し出してきたそれは、黒い外装だった。俺が魔道士オーデルグを名乗った時に使ったものと似ており、中に闇の魔力が貯められている。力を取り戻す気はあるかという問い掛けだ。
「まったく、準備がいいな……」
「また闇の魔力を使うことになってしまいますが」
「問題ない。一度乗り越えたから闇に飲まれたりはしないよ。ありがたく使わせてもらう」
「分かりました」
俺はサナから闇の外装を受け取った。
「ただし、闇の魔力を受け入れるには少し時間がかかる。完了するまでに何か問題が起きたら、すまないが二人で対処してくれるか?」
「ええ」
「もちろんです」
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