12 未来を変えられる予感(ドリス視点)

 ルーツのウィルへの指導は、思いもよらぬものだった。自身での魔法行使を捨て、道具に頼るというものだ。そんな戦法は確立されたものではないし、考えたこともない。


 ルーツが最適化した魔導具を作るというので、私も興味津々で工房に向かう彼についていった。


 ウィルに使わせた杖を改良し、ちく魔力石の取り替えをスムーズにできるようにするらしい。蓄魔力石に取っ手を付けて杖へのはめ込み式にする、杖側もそれを受け入れる形状にする、というものだ。


 威力は上がらないが、確かにこれなら連続使用に耐える。ウィルの新しい力になるかもしれない展開に、私はワクワクが止められなかった。


 何度もこの世界をやり直しているからこそ、私は知っているのだ。ウィルが落第になる確率は五分五分というところだ。ウィルの努力が実ってアカデミーに残る場合もあるし、及ばずに落第になることもあった。それぐらいウィルの成績はぎりぎりなのだ。


 しかし、ウィルが落第になるかならないかは実のところ意味がない。ウィルは結局戦うことになる。この後、死界が急拡大して戦うことを選ぶ。そして、死んでしまうことが多いのだ。そうなった場合、マヤが絶望してしまう。絶望したマヤは早期に命を落とす。


 だから、ウィルには頑張ってもらわなければならない。ルーツが提案してくれたこの戦法で状況が変わるかもしれない。私もできる限りルーツの説明を聞いておこうと思った。新しい戦法を会得したウィルと連携しないといけないから。


 次のルーツの指導の時も、私はついていった。マヤも来ていた。


 ルーツは新調した魔導具を持ってきたが、何やらウィルも魔導具を持ってきている。そういえばウィルとマヤも魔導具科の生徒に相談したり工房に行ったりしているようだった。彼らも独自に魔導具を準備してきたのだろうか。


「へぇ……、自分で作ってきたのか」

「マヤにも協力してもらいました」


 ウィルは箱のような物を背負った。あれも魔導具だろうか。背中の魔導具からウィルの持つ杖に管が伸びている。


「換装式の蓄魔力石ではなく、その背中の魔導具で魔力を蓄えるのか?」

「そうです」

「重くないか? 効率的にどうだろう……」

「まあ、確認してみてくださいよ」

 ウィルは自信があるようだ。


 ルーツも興味が湧いたらしく、早速模擬戦をやることになった。前回と同じように、私が合図をする。


 ウィルが杖を構えると、火魔法がノーモーションで発射された。


「なにっ!?」

 ルーツが驚き、右手の杖で水魔法障壁を発動させてそれをガードする。しかし、その火魔法は簡単には消えなかった。


「うおお!!」

 ルーツは気合を入れて障壁に力を込め、ようやく火魔法を消去した。


「えええ……」

 私はその光景に呆然としてウィルとマヤを交互に見た。マヤは腕を組んで何度も頷き、成果を誇っている。


「次いきますよ」

 ウィルがそのまま今度は風魔法を発射した。


「ちょ……待て!」

 ルーツは右手の杖から水魔法、左手に土魔法を展開し、ウィルの攻撃を受け止めて四散させた。ルーツの防御方法も新鮮だったが、ウィルの攻撃の凄さの衝撃が遥かに上回っている。


「ドリス! ドリス!」

 ルーツが私に向けてやめの合図をしているのを見て、私は慌てて模擬戦を終了させた。


 呆気にとられた様子のルーツだったが、それは私も同じだ。二人でとぼとぼとウィルとマヤのところに向かった。


「ど、どうなってんだ、それ……?」

 いつも冷静なルーツが心底驚いた声色をしている。ウィルとマヤはいたずらが成功した子供のようにはにかみ、手をタッチし合った。


 どうやら背中の魔導具には改良型の蓄魔力石が多数入っており、一回魔法を放つ毎に自動換装されるらしい。


「この短期間に、よくそんなもの作ったね……」

「魔導具科の友達もノリノリで協力してくれたからね。アイデアのほとんどはウィルが出したけど」

 私の呟きにマヤが反応した。


 私もルーツも関心しながらウィルたちの成果物を見させてもらった。魔法発動回数に限界はあるものの、通常の自動魔導具を使う場合よりも威力が凄い。役に立つというレベルを遥かに凌駕していそうだ。


 もちろん、優れた魔道士が全力で放つ魔法には到底及ばない。先程のルーツは意表を突かれたので対応が遅れたが、死界討滅軍の入軍テストを見た限り、全力を出したルーツなら難なくさばけそうではあった。


「しかし、これは予想以上だな。ウィル、君は種を与えさえすれば、これほどの仕事ができるんだな」

「いいえ、まだまだ改良の余地はありますよ。ルーツが持ってきてくれたものは?」

「見る? 所詮、俺がいた地方にあった技術の寄せ集めだし、ウィルが作ったものには全く及ばないが……」

「いえいえ、見たいです」


 ウィルがルーツが作ってきた魔導具もよく観察した。そのアイデアも取り入れようと考えているようで、まさに水を得た魚のような状態だ。


 それからウィルの魔導具改良は続いた。


 背中に背負っていた大きな魔導具もスリム化して全身で着るスーツのように変貌していき、死界の中のアンデッドや魔物から魔力を吸収して蓄魔法石に貯める仕組みが導入され、操作面での改良もしていった。


 ウィル本人にしか把握できていないような仕様も多数存在するようで、量産に向けて動き出すのは難しそうだったが、ウィルが使いこなせているなら問題ないのだと思う。


 しかも、ウィルに特殊な才能があることもルーツから聞いた。ウィルは、行使された魔法への反応速度が図抜けているのだという。ウィルの魔法の詠唱速度が高くないためにこれまでは活かしきれない才能だったが、魔導スーツは魔法を即時発動できるため、恐ろしい相乗効果を生んでいた。


 模擬戦でデルロイを追い詰めるまでになった。デルロイはそんなウィルの躍進が嬉しかったらしく、上機嫌となった。逆に、一緒に魔導スーツを改良したマヤには勝手が知られているようで、マヤとの模擬戦はあまり成績は上がっていなかったが。


 何と言っても、ウィルがここまでの力を身に着けたのはかなり大きい。もうまもなく、死界の急拡大が起こる時期だが、ウィルが死なないどころか大活躍してくれそうだ。それに、今回はルーツもいる。


 ルーツに出会えた意味はあまりにも大きい。今回こそはマヤが死んでしまう未来を変えられるのではないか。いや、マヤだけではない。逆に死界に攻め入って皆を救うことだってできるのでは。私はそんな希望を心に灯した。

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