33 どうしてこんなに気になるの(マヤ視点)

 アンデッド・ドラゴンから逃走し、拠点の村での避難作戦が何日か続き、その後に私たちは何人かの避難民と共にセンクタウンに戻った。その内の一人、ベルビントという男性の避難民をフォスター家で預かることになった。


 ベルビントは何らかの魔力障害を負ったようで、初めて会った時はよだれを垂らしながら痙攣していて、酷い状態だった。しかし、少しずつ症状も治まりつつあるようだ。


 ある日、私はベルビントがリハビリしているという現場を見に行った。そこにはルーツがいた。


「あれ、ルーツ?」

「ああ、マヤか。奇遇だな」

「どうしたの、こんなところに?」

「ちょっと、ベルビントの様子を見にね」

「へぇ、ルーツも……」


 ルーツは何やら、ベルビントの身体を眺めている。ルーツは医師ではないはずだが、何か気になる症状でもあるのだろうか。


「あ、あの……。僕の身体に何か……?」

「そりゃあるよ。魔力が乱れているのは自分でも分かっているんだろ?」

「あ、ああ……」

 ベルビントは怯えた様子でルーツが検査をするのを眺めている。何故だろう、その様子を見ていると放っておけない。


「大丈夫よ、ベルビント」

「あ……」

 私はベルビントの手を握って励ました。この程度だったら良いはずだ。そう、決して私は異性としてベルビントを見ているわけではないのだから。


 すると、ルーツは、私がベルビントの手を握っているところまで検査し始めた。


「うーん、これは……」

「ルーツ? 何か分かったの?」

「ああ、ことは多い。けどなぁ、これはどうしたもんかなぁ……」

 ルーツは困惑した様子で私とベルビントを交互に見た。そしてため息をついて立ち上がった。


「オッケー、俺の調査は終了だ。時間を作ってくれてありがとう、ベルビント」

「……僕の身体に一体何が?」

「色んな魔法がかけられた結果、そうなっている。解消はまあ、少しずつされるだろうさ。君の命には支障はない。俺から言えるのはそれぐらいだ」

「わ、分かった……」

 すると、ルーツは帰り支度を始めた。


「じゃあマヤ、後のことは頼んだよ」

「え? ええ……」

 ルーツは荷物をまとめるとリハビリ室を出ていった。


「マヤ……」

「え……?」

 見れば、ベルビントが両手で私の手を握っている。少し妖艶な感じがして、私は思わずベルビントから身を遠ざけた。


「僕たち、会ったことない?」

「い、いいえ! そんなはずはないと思うわよ」

 ベルビントが顔を寄せてくる。私のパーソナルスペースに入るわけでもなく遠くでもない絶妙な距離だ。その顔が何故か綺麗に思えてしまい、私は頬が熱くなるのを感じた。


「記憶が戻ってないから確証はないけど、何か会ったことがある気がするんだけどね」

「そ、そう……」

「いずれにしても、マヤには感謝してる。色々良くしてくれて。ありがとう」

「ど、どういたしまして!」

 私は立ち上がることを言い訳にしてベルビントの手を離した。心拍数が上がっているような気がする。これ以上いると、まずいことを考えてしまいそうで、私は早めに帰ることにした。


「マヤ、またね」

「う、うん……。またね、ベルビント……」

 私は足早にリハビリ室を出ていった。


「はぁ……」

 どうしてだろう、ベルビントのことが気になって仕方ない。そんなの、いけないことだ。私にはウィルがいるのだから。


 それに、何だろう、この感じ。前にも同じようなことがあったような……。


 私は立ち止まってふと考える。ベルビントと会うのは初めてだし、私がウィル以外の男にドキドキしたような経験は一度もないはずだ。だから、勘違いだと思う。私はそう思い、施設を後にした。



    ◇



 その後も、私は何かとベルビントに会いに行った。そして、決定的な局面が訪れた。


「マヤ、今日、少し寄っていかない?」

「……な、何で!?」

「少し話をするだけだよ。なに、もしかして警戒してるの? 何もないさ」

 ベルビントは少しも動揺を見せず笑いながら言った。


 上手いものだ……。行っても問題ないと思ってしまう。だって、なのだから。


「ん……」

 私は曖昧な返事をした。そして、ベルビントは私の手を取って歩き始める。手の包まれ方が優しく、私は心拍数が上がるのを抑えきれない。


 ベルビントの部屋は質素だった。割り当てられた部屋に必要最小限の物を入れて生活しているのだから当然だろう。ベルビントはお茶を持ってきてくれた。


「あ、ありがと」

「たまたまセールをやっててさ。美味しいと思うよ」

 そして、本当に自然と私はベッドに誘導され、二人で横並びに座った。しばらくはそのまま談笑した。しかし、ベルビントは絶妙にスキンシップを取ってくる。ベタベタといやらしく触ってくるわけではない。だから、心地よかった。


 そして、私たちはお茶の入っていたカップを置いた。


「マヤ……」

「あ……」

 自然とベッドに倒された。ベルビントが覆いかぶさってくる。何だろう、全然嫌じゃない。身体が、に満ちていく。


 けれど、おかしいな。やっぱり前にもこんなことがあった気がする。そして、頭に思い浮かぶウィルの顔。このまま続ければ、確実にウィルを傷つけることになる。隠し通せば良い? 私にそんなことができるの……?


 そして、ベルビントに口づけをされた瞬間、何かが私の中に入り込んできたような不思議な感じがした。それがあまりにも扇情的で、私の理性は崩壊した。されるがままになるのではなく、私からもベルビントを求め、汚らしく肉と肉の関係を交わした。

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