03 何度でもやり直す(ドリス視点)
私はルーツという魔道士と出会った。
本当にたまたまだ。死界討滅軍の養成アカデミーの実地研修で、今回は商人の護衛を引き受けた。そして、ルーツはそこに現れたのだ。
彼の魔法は洗練されていた。その凄さは一目で分かった。死界討滅軍の入軍試験もクリアできるのではないかと思う。
どこから来た者なのかは分からない。この地方の慣習には慣れていないようだったから、宿の女将が言うように西から来たのかもしれない。怪しい者なのか判断する暇は無い。私たちにはそんな時間の余裕は無いのだ。あの強さ、絶対に引き入れるべきだ。
宿で休み、朝の身支度を整えて食堂に向かうと、ルーツは既に来ていた。
「おはようルーツ。早いのね」
「ああ、ドリス、おはよう。ちょっと朝の訓練をしててさ」
「へぇ。ルーツの訓練だったら凄そうね」
バイキング形式の料理を皿によそい、私はルーツと同じテーブルで朝食を共にした。
「アカデミーのある街は遠いのか?」
「今日いっぱいは馬車に乗ることになるわ」
「馬車以外の乗り物はないの?」
「えっ? 例えば?」
「空を飛んだりとか」
「そんなの聞いたことないよ。研究中だって噂はあるけど……」
「そ、そっか……」
「変なの……」
ルーツの口ぶりは、何か探り探りという印象を感じる。そんなに遠くの地方の出なのだろうか。そして、その地方には空を飛ぶ何かが……?
◇
朝食を済ませ、宿を後にして馬車の乗り場に向かう。私たちと同じ馬車には他に二人ほどしか乗客はいなかった。
今回の実地研修といい、ここのところ気を張っていたから疲れているようだ。馬車の揺れが心地よく、私はうとうととし始めた。
「疲れているみたいだな。少し眠ったらどうだ?」
「う、うん……。そうさせてもらうわ……」
出会ったばかりでルーツのことを信用しすぎるのは良くないかもしれないが、私が寝ている間におかしな真似をするような悪い人ではないと思う。乗客が少ないことも幸いし、私は少し横にならせてもらった。
◇
……。
…………。
空気が重い……。
目の前に見知った少女が立っている。仲間たちも一緒だ。何かと戦っているようだ。私はその状況を
目の前の少女が杖を構え、魔法を行使する。続くように、仲間たちも攻撃に出ていく。
ダメ……、まともに戦ってはダメよ! 逃げて! 私たちでは、勝てない!!
私は必死に手を伸ばすが、届かない。走って止めようとしても、何故か身体は後方に戻ってしまう。
少女がこちらを振り向く。その顔が、血で染まっている。
やめて、もうやめてよ! どうして、何で、いつも死んでしまうのよ!
「マヤ!!」
私は声を上げてその少女の名前を呼んだ。
しかし、その場は戦場ではなく、馬車の中だった。
「ドリス、大丈夫?」
声の方を向くと、ルーツがタオルを手に持っている。
そうか、今のは夢だ。馬車の中で夢を見ていたんだ。酷い内容に、身体が汗まみれになっている。
「あ、ありがと……」
私はルーツからタオルを受け取り、使わせてもらった。
「マヤというのは?」
「ごめん、声に出ちゃったみたいね。友達よ……」
「何かあったのか?」
「ううん、そんなことない。マヤも養成アカデミーの生徒で、元気にやってる。たまたまキツい夢を見ただけよ」
「そうか、なら良かった」
ルーツは納得してくれたようだ。ただ悪い夢を見ただけだと。
そう、嘘ではない。今はまだ、マヤは元気だ……。
◇
馬車に揺られ、日が落ちる頃にアカデミーのある街、センクタウンに到着した。寮に戻る前に、私はルーツと共に死界討滅軍のオフィスを訪れた。そして、ルーツをスタッフに紹介することになった。
「ほう、討滅軍への入隊希望か。人手はいくらあっても足りないくらいだ、早速、今から試験を受けるかい?」
「ええ! 今からですか!?」
スタッフの提案に、私は驚きの声を上げた。
聞けば、元々受験希望だった者が体調不良で受けなかったため、準備が無駄になるところだったという。だから試験はすぐに受けられるというのだ。しかし、到着したばかりの異邦人にいきなり受けさせようというのは無茶ではないだろうか。
「構いません。受けますよ」
「ちょ、ちょっとルーツ! 準備とか、要らないの?」
「駄目だったらそれまでの話だよ」
「ほっほっほ、これは粋な若者が受けに来たもんだ!」
スタッフは浮かれた様子で準備に入った。
「ドリス、見ていくかね?」
「は、はい……」
流石にどんな試験か、事前情報のないまま受けるのは無茶ではないか。私は不安な気持ちを抱えたままスタッフに返答した。
しかし……。
魔力量、各属性魔法の卓越さ、魔法発動スピード、その他諸々のあらゆる科目。ルーツはぶっちぎりの成績を叩き出してみせた。
「こ、これほどまで……」
私は呆然として呟く。試験官や、見学していた討滅軍のメンバーも浮足立ってルーツの元に駆け寄った。
「凄いな君は!」
「一体、どこでそんな力を身につけたの!?」
「不合格のわけがない! これから宜しくな!」
そして口々にルーツに言葉をぶつける。ルーツは苦笑いしながら受け答えをしていた。もっと自分の力を誇っても良いだろうに、過去に何かあったのだろうか。
私はオフィスの入り口でルーツを待った。しばらくすると、ようやく解放されたルーツが現れた。
「お疲れ様、ルーツ」
「待っててくれたのかドリス」
「うん。討滅軍の宿舎に案内することになってるしね」
私はそのままルーツと歩き始めた。
「ルーツ、魔法凄いよね。どこで教わったの?」
「故郷に凄い魔道士がいっぱいいたんだ。そこで教わったり、実戦で磨いたりだよ」
「そっか……」
ルーツがとても哀しい顔をしたのに気づき、私は彼の故郷のことを問おうとするのをやめた。聞いてはいけない気がしたのだ。
「力なんてさ」
「え?」
「使い方を間違えれば人を不幸にするものだよ」
「変わったことを言うのね。死界に立ち向かうために使うとしても?」
「いや、そんなことはないさ。うん、君が正しい。少なくともここでは間違える人なんていなさそうだよ」
「そう」
「少し、羨ましくもあるな」
「?」
ルーツが苦笑し、私は何故かその表情が自虐的なものに思えた。彼も力の使い方を間違えたことがあるということだろうか。
しかし、今はルーツの力が必要だ。彼も力を使うことそのものを
討滅軍の宿舎に向かう途中、一人の少女が私たちの元にやって来た。
「ドリス、実地研修終わったんだ、お疲れ様」
「うん。ただいまマヤ」
「マヤ?」
マヤの名前にルーツが反応した。さっき嫌な夢を見た時に出してしまった名前だからだろう。
嫌な夢だった。マヤが死んでしまう夢だ。そしてそれは、何度も見た光景なのだ。
そう、マヤはこの後、死界との戦いで死んでしまう。
私はそれを回避するため、同じ時を何度も繰り返しているのだ。マヤを……、私の恩人を救いたいから。
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