44 時巡りの結末(ルーツ視点)
俺たちは悪魔たちを退けた後に北上し、マヤとデルロイを追った。アンデッド・ドラゴンを倒したので北に広がった死界の侵攻速度は急激に減少したが、それでも瘴気はかなり撒き散らされてしまったので、景色がおどろおどろしい。
北の大聖堂に大転移魔法陣があり、悪魔アブタビムの企みで東の死界からアンデッドが転移してきているとのことだったから、それも止めなければならない。
そう遠くない位置で、俺たちはマヤとデルロイを発見した。マヤは大泣きしており、デルロイは訳が分からないという様子でマヤに言葉をぶつけている。
「マヤ、どうしたの!? ウィルはどこ!?」
ドリスがマヤに駆け寄って声をかけた。
しかし、俺は全てを悟った。マヤは務めを果たしたのだ。ウィルは送られた。マヤが泣いているのは、ウィルの苦悩を思っての事だ。
「上手くいったみたいね」
「ああ。だとしたら……」
サナとルーツはそう言った後、上空を見た。俺も上を見上げると、時空の乱れの悪化が止まっていた。世界の矛盾が無くなったということなのだろう。
「うーん、しかし、元に戻るには時間がかかるな……」
「そうですね。もう少し警戒はしないと」
俺とルーツが順に言った。未だ乱れている部分から時空の狭間に封印された何かが出てきてしまう可能性がなくはないのだ。
「ドリス、マヤとデルロイを連れて街に戻っていろ」
「え? でも、ルーツはどうするの?」
「俺たちは北の大聖堂にあるという大転移魔法陣を止めてくる」
「そっか……」
ドリスは納得してくれた。闇魔法でドリスの魔力を無理やりブーストしたことで、ドリスの身体は本人も気づかないほど疲労している。今日はこれ以上戦わせるわけにはいかない。
俺とドリスの会話に気づいたデルロイが俺たちの元にやって来た。
「お、おい、あんたナニモンだ!? その闇の魔力、死界の関係者じゃないだろうな……!?」
デルロイに早速警戒されてしまった。やれやれ、闇属性の魔道士というのも楽ではないな。
「大丈夫よ、デルロイ。信用できる人だから……さ」
ドリスが俺の方を見て微笑んだ。
正直、俺はルーツだと宣言してしまえば早いのだが、隣にコピー人間のルーツがいるために余計な混乱を招きかねない。だから、後でまとめて説明するのが良いだろう。一度この外装を外すと、再装備に時間がかかるし、まだ仕事が残っているからそれはできない。
「オーデルグ」
「ん?」
ドリスが俺をオーデルグと言い直した。デルロイに今は余計な疑念を与えたくないという俺の意図を察してくれたらしい。
「気をつけてね」
「ああ、ありがとう。大丈夫さ、用心棒も強力だからな」
俺はそう言いながらルーツとサナの方を見た。二人は頷きを返し、それを見たドリスは笑みを浮かべた。
そして三人で風魔法による高速移動で北の大神殿とやらを目指した。
大神殿はあっさりと見つかった。まだ転移してきているアンデッドもそう多くないようだったから、魔法陣のある地下へも容易に到達できた。俺たちは魔法陣を封印し、センクタウンに帰還した。
◇
「く……、活動限界だな……」
センクタウンに戻ると、俺は闇の外装との接続を解除した。生まれ変わった身体での初めての闇の力での実戦だから、前の世界と同じようにはいかない。まだ戦いは続くから、少しずつ慣らさなくてはいけない。
「お疲れ様です、オーデルグ」
「その外装は、持っていてください。あなたのために用意したものですから」
「ありがとう」
ルーツとサナに俺が答えた。
二人にはそのままドリスたちの元に向かってもらった。俺は一度死界討滅軍の本部に行き、北の大神殿の現状を伝えた。大転移魔法陣は止めたからこれ以上アンデッドが転移してくることはないが、残ったアンデッドの掃討が必要だという旨だ。
大転移魔法陣は、東の最果てへの突入作戦に使われる予定だったらしく、死界討滅軍の兵士たちは頭を抱えていたが、向こうからのアンデッドの流入を放っておける訳はないので、納得はしてくれた。
そして俺もドリスたちの元に向かった。場所は、ベルビントがいるリハビリ施設だ。ルーツ、サナ、ドリス、デルロイ、マヤが集結していた。サナの自己紹介はもう済んでいるようだ。
「なっ……! ルーツが二人……!?」
「ど、どうなってるの……!?」
デルロイとマヤが早速俺たちの姿に驚いてくれた。ドリスも両者の顔を同時に見るのは初めてだからか、やはり不思議な顔をしている。ルーツは、俺のコピー人間であるという旨を伝えた。デルロイとマヤは先ほどのドリスと同じように驚いていたが、詳細を語る場ではないからそれだけで納得してもらった。
「それで、君たちはどうして僕のところに……?」
突然押しかけられた形のベルビントが不安な顔をした。
「というか、マヤ……。てめえ、こいつと不貞してたって本当なのか……?」
「えっと……、それはね……」
「……」
デルロイが凄み、マヤはどう答えようか迷っている様子で、ドリスは空気の重さに怯んでいるようだった。
「さっさと進めよう。どうやら、まだ呪いが消えていないようだから言葉で説明できない」
「そうですね」
俺とルーツが言った。そして、俺はベルビントの前に立った。
「見たところ、君が平常状態に戻るには一ヶ月くらいかかる。だが、すまないが今すぐ全てを終わらせる。君の力も必要だから」
俺はベルビントに声をかけた。
「ルーツ、頼めるか?」
俺がルーツに尋ねると、ルーツは頷き、ベルビントに手をかざしてその身体にかけられている複数の魔法を操作し始めた。
「うっ……!? があああああ……!?」
複数の魔法が同時発動する反動かベルビントが悲鳴を上げた。ベルビントは魔法が重畳されすぎていて体調に問題を起こしていたほどだったが、それが今全て発動するのだから、当然の反応だった。
「大丈夫よ! 頑張って!」
マヤがベルビントの背中をさする。
俺はベルビントの中の魔法の進行状況を見た。変声魔法が解除される。封印された記憶が
光が収まり、全員の視線がそこに集中する。真っ先に声を上げたのはデルロイとドリスだった。
「「ウィル!?」」
そこにあったのはウィルの姿だった。
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