第7話 熊と狼1

 熊に続いてあばら家に入ると4畳半程度の土間と6畳位の和室らしき部屋がある。和室には使い古したせんべい布団が敷かれてあったが、慌てて隅に押しやり、腰を下ろすように進められた。


 「親分、どうぞ。汚ねえところですが」


 「おい熊、親分は止めろよ。風さんで構わねえよ」


 「いや、おらあ、あなた様に惚れたんだ。ぜひ子分にしてくだせえ」


 「まあ好きにしなよ。それより熊、俺は腹か減ってるんだ。まずは飯だ飯だ」


 慌てて土間からでかい釜と鉄鍋を俺の前に並べた。薄汚れて少し汚ねえ丼に釜から玄米飯を山に盛る。


 鍋からはでかい木の椀に肉がゴロゴロ入った味噌味の汁物が盛られた。冷えちゃあいるが、腹が減ってる俺にゃあどうでもいいことだ。


 遠慮なく山盛り飯を軽く3杯飯を平らげ、汁椀も2杯おかわりをした。腹か減ってるせいかなかなかのご馳走だ。


 「ふぅ、やっと心地がついたぜ。熊、馳走になったな。さてとじゃあブラブラ出かけてか」


 「お、親分、今からブラブラってどこに行きなさる。しかもまだ夜中ですぜ」


 「あてなんざねぇよ。行き当たりばったりで、行き倒れでばったりってとこだ」


 「親分、よかったら、朝までここで休まれたら・・・・・この山はクマも狼も出るし」


 「クマはおめえのことだろう」


 「いや俺じゃなくて本物の熊ですだ。この山の主は1丈はゆうに超す大物の化け物熊」


 「1丈ってえと3mってことか。なかなかでかいな。それに狼もいるのかい」


 「へい、先ほど外で、たぶん親分が見なさったやつも、アイツも狼なんです。俺が番犬の代わりに赤ん坊のころから育ててきたから、親だと思ってるんでさ」


 おい参ったね。さっきのあの犬ころ。ありゃあ狼だったのかよ。確かに凶暴なツラしていやがった。遠くにぶん投げちまったけどな。


 「通常の人間なら一噛み。山の主の大熊とも渡り合う、俺の大事な仲間でさあ」


 そうか、そんな立派な狼さまをぶん投げてしまったのか。そりゃあ悪かったな。


 ふと気配を感じた入口辺りに目線を送ると、なんと話題の狼さまがじっとのぞきこんでいる。


 自分の親だと信じている熊の敵なのか、それとも味方なのかを見定めているのかもしれねえ。俺の目線に気がついたのか、熊も入口に目線を送り狼を確認した。


 「おう、イヌコロ。おめえ無事だったか?」


 「グルグルグル・・・・・」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る